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24.私の目標となる人が増えました
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「えぇ。ぐっすりと眠りましたわ」
私は答えます。
昨夜は夜が明けるまでとは言いませんが、侯爵様と大変長い時間お話をさせていただきました。
お互いの幼い頃の話なども盛り上がりまして、夜分になりましたので話の続きは明日にまた、ということで眠ることになったのです。
私のお部屋にはベッドがありません。
それでどうするかと迷う間もなく、侯爵様はお部屋にベッドがあるそうで、私は隣のお部屋の大きなベッドを独占させていただくことになりました。
寝ころべばマットはふかふかに柔らかく、けれども柔らかすぎて身体が沈むということもなく、重ねた毛布はとても軽くて、手触りも最高で、それなのに暖かくて。
目が覚めたときには陽が高くなっていたのです。
そうして今、朝食も兼ねた昼食をご一緒しています。
「侯爵様は眠れましたか?」
「……うん。ぐっすり寝たよ」
その妙な間は何かしら?
侯爵様はまた目を細められてこちらを観察しておりました。
これも癖なのでしょう。昨夜も何度も拝見しましたが、悪い意味はなさそうでした。
これはお聞きしたわけではないので、予想ですけれど。
しばらくすると最初のお料理が届きました。
お料理の乗った真っ白いお皿が輝いて見えます。
「では、いただこうか」
「はい!」
あら、いけませんね。
自然に喜びが溢れ、声に力が入ってしまいました。
実は今朝の食事をとても楽しみにしていたのです。
昨日のうちに、私の希望を聞いてくださって。
これまではなるべく故郷に近いものを出すようにしてくださっていたのだとか。
慣れぬものを食べて結婚式前に体調を崩してはならないからという侍女たちからの提言もあったそうです。
私は何も知らず、美味しい、美味しいと食しておりましたけれど。
お腹が強いことも最初に伝えておけばよかったですね。
せめてあのとき「愛するつもりはない」と言うついでに、「お腹は強いです」と宣言しておけば……。
いえ、あんな失礼なことを二度とする気はありませんよ。
さて、食事です。
こうも領地の距離が離れてございますと、食も大きく異なっているようなのです。
こちらは領地の一部が海に面していることから、海産物を豊富に食べると聞きました。
昨日の晩餐会では食べることの出来なかった気になるお料理も、これから少しずつ食べさせていただけることになっています。
とても楽しみですね。
我が領では兵糧に困らぬようにと農園も牧場も広大な面積を確保しておりました。
基本的には肉食で、川の恵みもあまり頂きません。野営で釣った川魚を食べるくらい。
だから滅多に食べない魚料理が楽しみで、楽しみで。
お話を聞いてからこれは興奮して寝られないのでは?と心配しておりましたのに。
あのベッドは凄かったですね。
あっという間に寝入ったようで、気が付いたら朝を越えていましたから。
前菜にさっそくお魚がありました。
こちらではカルパッチョに魚を使うのですね。
「口に合わないことはないか?」
おそるおそるでもなく、ぱくりと食べた私に、侯爵様は尋ねます。
私は先にふるふると首を振って、口の中のものを飲み込んでから答えました。
お魚と思わしき柔らかい物体は、軽く噛んだだけで蕩けて消えてしまったのです。
私の知っている焼いた魚とは何もかもが違っています。
「とっても美味しいですっ、わ」
不自然な間を空けてしまいました。
気が緩むとだめですね。
あまりの美味しさに、あやうく令嬢らしさ、いえ、夫人らしさを損なうところでしたわ。
私はもう侯爵夫人。侯爵夫人。侯爵夫人なのですから。
とても美味しゅうございます、と言えば良かったでしょうか。
それとも美味しくてよ!ですかね?
侯爵様が口を僅かに開けて微笑みます。
「すまない。昨夜は言葉が足りていなかったようだ」
そこで口元を押さえられて、そっぽを向いたのは何故ですか?
けれども侯爵様のお顔は、何かから逃れるようにして瞬時にこちら向きに戻ってきました。
気になってそちらを見れば、控えていたシシィの眼光が鋭く光っていたのです。
やはり素敵です。あの目……。
こちらに来て早々に目標となる憧れの方が増えましたよ、お父さま。
侯爵家にも凄い方がいらっしゃいました。
私は答えます。
昨夜は夜が明けるまでとは言いませんが、侯爵様と大変長い時間お話をさせていただきました。
お互いの幼い頃の話なども盛り上がりまして、夜分になりましたので話の続きは明日にまた、ということで眠ることになったのです。
私のお部屋にはベッドがありません。
それでどうするかと迷う間もなく、侯爵様はお部屋にベッドがあるそうで、私は隣のお部屋の大きなベッドを独占させていただくことになりました。
寝ころべばマットはふかふかに柔らかく、けれども柔らかすぎて身体が沈むということもなく、重ねた毛布はとても軽くて、手触りも最高で、それなのに暖かくて。
目が覚めたときには陽が高くなっていたのです。
そうして今、朝食も兼ねた昼食をご一緒しています。
「侯爵様は眠れましたか?」
「……うん。ぐっすり寝たよ」
その妙な間は何かしら?
侯爵様はまた目を細められてこちらを観察しておりました。
これも癖なのでしょう。昨夜も何度も拝見しましたが、悪い意味はなさそうでした。
これはお聞きしたわけではないので、予想ですけれど。
しばらくすると最初のお料理が届きました。
お料理の乗った真っ白いお皿が輝いて見えます。
「では、いただこうか」
「はい!」
あら、いけませんね。
自然に喜びが溢れ、声に力が入ってしまいました。
実は今朝の食事をとても楽しみにしていたのです。
昨日のうちに、私の希望を聞いてくださって。
これまではなるべく故郷に近いものを出すようにしてくださっていたのだとか。
慣れぬものを食べて結婚式前に体調を崩してはならないからという侍女たちからの提言もあったそうです。
私は何も知らず、美味しい、美味しいと食しておりましたけれど。
お腹が強いことも最初に伝えておけばよかったですね。
せめてあのとき「愛するつもりはない」と言うついでに、「お腹は強いです」と宣言しておけば……。
いえ、あんな失礼なことを二度とする気はありませんよ。
さて、食事です。
こうも領地の距離が離れてございますと、食も大きく異なっているようなのです。
こちらは領地の一部が海に面していることから、海産物を豊富に食べると聞きました。
昨日の晩餐会では食べることの出来なかった気になるお料理も、これから少しずつ食べさせていただけることになっています。
とても楽しみですね。
我が領では兵糧に困らぬようにと農園も牧場も広大な面積を確保しておりました。
基本的には肉食で、川の恵みもあまり頂きません。野営で釣った川魚を食べるくらい。
だから滅多に食べない魚料理が楽しみで、楽しみで。
お話を聞いてからこれは興奮して寝られないのでは?と心配しておりましたのに。
あのベッドは凄かったですね。
あっという間に寝入ったようで、気が付いたら朝を越えていましたから。
前菜にさっそくお魚がありました。
こちらではカルパッチョに魚を使うのですね。
「口に合わないことはないか?」
おそるおそるでもなく、ぱくりと食べた私に、侯爵様は尋ねます。
私は先にふるふると首を振って、口の中のものを飲み込んでから答えました。
お魚と思わしき柔らかい物体は、軽く噛んだだけで蕩けて消えてしまったのです。
私の知っている焼いた魚とは何もかもが違っています。
「とっても美味しいですっ、わ」
不自然な間を空けてしまいました。
気が緩むとだめですね。
あまりの美味しさに、あやうく令嬢らしさ、いえ、夫人らしさを損なうところでしたわ。
私はもう侯爵夫人。侯爵夫人。侯爵夫人なのですから。
とても美味しゅうございます、と言えば良かったでしょうか。
それとも美味しくてよ!ですかね?
侯爵様が口を僅かに開けて微笑みます。
「すまない。昨夜は言葉が足りていなかったようだ」
そこで口元を押さえられて、そっぽを向いたのは何故ですか?
けれども侯爵様のお顔は、何かから逃れるようにして瞬時にこちら向きに戻ってきました。
気になってそちらを見れば、控えていたシシィの眼光が鋭く光っていたのです。
やはり素敵です。あの目……。
こちらに来て早々に目標となる憧れの方が増えましたよ、お父さま。
侯爵家にも凄い方がいらっしゃいました。
応援ありがとうございます!
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