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13.震えましたがが寒くはありません

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「詫びは本当に要らないが、この件をどうするかだな」

 侯爵様はしばし考え込まれておりました。
 その間も、手を離してはくださいません。

「実はな、君の噂を聞いてすぐに対処させていたんだ。ついでに辺境伯殿にも報告を兼ねた手紙を送っていたのだが」

「それはいつ頃のお話ですか?」

「……半年は経っているな」

 侯爵様も違和を覚えられたようですね。
 父があえて私に伝えなかった、ということは考えにくいものです。

 情報は身を守る財産。敵と戦うには必須です。

「囁いていたのは、口さがない一部の貴族だけのようでな。王都の者たちは君の姿を知らないし、興味を持つ者も少なかったようだ。それで我が家が動けばすぐに愚かな真似は辞めたと報告を受けていたし、君の元にも届かなかっただろう?こちらとしてはすっかり安心していたのだが……まさか遠くの地にいる君に私の話の方が届いてしまうとは思わなんだ。しかもな、私についての噂話が王都で流れていたという報告がない」

 つまり、侯爵様は私の噂話を抑え込んでくださっていたのですね。
 有難いお話です。

 同じことを我が家が出来なかったことは名折れですし、父に伝えて正式なお礼と謝罪をしなければと思いますが。


 侯爵様が動いていたとなると、また考えることが増えていきます。

 たとえ侯爵様が素早く動いてくださっていたとしても、我が家の王都にいる者たちがこれを逃していたとは考えにくいものです。
 それは逆も然りで、王都で侯爵様の噂話が流れていて、それを侯爵家が感知しなかったとは思えません。

 そうなると、我が家の者には私の話を避けて、そして侯爵家には侯爵様の噂話が伝わらないようにしていた、と考えられるのです。
 しかもあえて、我が家には侯爵様の噂を、侯爵家には私の噂を、確実に伝わるよう仕向けられていたのではないかと。

 だから従姉妹たちは、侯爵様の噂話だけを教えてくれたのでしょう。
 彼女たちも私については何も知らなかったはずです。知っていたのは、侯爵様の噂に付随した『貴族令嬢の鑑』という話くらい。


 これで何かの思惑を感じないわけにはいかなくなりました。

 私の噂をしていた人たちが、侯爵家に注意されてすぐに閉口するような貴族であるならば。
 知略を持って噂を囁いていたとは思えませんし、先導する誰かがいたのではないでしょうか。
 それも彼らをまとめられるだけの、大きな力を持つ存在……。


 なんだか恐ろしくなってぶるっと身震いをしましたら、侯爵様に寒いのかと心配されてしまいました。

 ガウンの下は薄着ですけれど、このガウンは分厚くてふかふかでとてもあたたかいのです。
 だから寒いと感じることはありません。

 あたたかい飲み物を貰おうかと言ってくださったのですが。
 ハーブティーをおかわりし過ぎて、お腹がたぷたぷになっていましたので、遠慮させていただきました。

 すると侯爵様は手を離して、一度側から離れると、すぐに戻り、膝に毛布を乗せてくださいます。
 毛布よりも手が離れたことに安堵していたら…………もう捕まりましたね。

 隣に座ると一時も手を離してはならないお作法があるのでしょうか?

 侯爵様の身なりの方が寒そうでしたので毛布を半分使いますかと問いましたところ、「有難いが、私には不要だ」と言われたあとに、ぷいと顔を背けられてしまいました。

 また良くないことを口にしてしまったのでしょうか。

 これから夫人としてこの地で生きていくことになるのですが。
 妻となった初日からこんなことで大丈夫かと心配になってきます。

 頑張らなければと、さらに気を引き締めました。
 とはいえ、何から頑張ればいいか……。

 相談しやすい相手がまだいないというのも、困りものですね。
 まずは侯爵家の侍女たちと仲良くなれるよう頑張ってみましょうか。



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