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48.今こそ遠隔の助言を求めます
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「だ、駄目ではありません。駄目ではないのです。ですから、あの、そのように落ち込まないで」
私は身体ごと捕まりながら、必死に語り掛けました。
するとユージーン様がふわっと息を吐いてから言うのです。
「では呼んでくれるね?」
「あうっ……ジ、ジン……様?」
「ハルはそのままに呼んでいたのに?」
「うぅ……ジ…ン?」
捕まった状態でよしよしと頭を撫でられていました。
とても落ち着く温かさであるのに、心臓がバクバクと騒がしいのは何故でしょうか?
もしかして本当に稀に見る健康体ではなくなってしまったのかしら。
え?どうしましょう?
身体の丈夫さは、夫人の評価に加点して頂けると思っておりましたのに。
ごほん、ごほん、ごほんと三度も咳が続きます。
その癖も本当に大丈夫ですの?
疑いたくはありませんが、今朝に稀に見る健康体と言われた私がこうですもの。
もしかして、本当は癖などではなく──。
「私に何か伝えたいことがあるのだろう?」
はっ。そうでした。
名前で戸惑っているときではありません。
ありのまま白状せねば。
ジンならば。
私がいかに駄目か知っているジンならば。
この件は家の問題ではないことをちゃんと理解してくださると思うのです。
「実はその、初夜のことなのですが」
「っ!!!」
飛び上がらんばかりに、心臓が撥ねた気がします。
私ではなく、ジンのです。
顔が触れている胸から、大きな衝撃が伝わりましたもの。
え?本当に大丈夫ですの?
二人揃って、稀に見る健康体ではなくなったなんて、そんなことは。
「わ、私は大丈夫だ。それより私とは、その──嫌ということか?」
え?嫌とは?
何が嫌だというお話でしょう?
ジンが深く長い息を吐いていました。
「──そうではないなら良かった。では初夜に何が?」
「すべて私が悪いのです。故郷の侍女たちは精一杯頑張ってくれていました」
「うん?」
「ですのに私は、想い人がいらっしゃる侯爵様に嫁ぐものだと信じていたこともあって──。いいえ、それは言い訳ですね。実はその──」
正直に全てを伝え終えたところ、ジンは「なんだ、そんなこと──」と言って笑い出しました。
そんなに笑うことかしら?
なんだか拗ねたくなってきました。私が悪いことなのですが。
頑張るのでこちらで改めて勉強させて欲しいともお願いしましたのに。
「ここでも学ばなくていいよ、ミシェル」
「そんなっ」
頑張る前から夫人失格なんて嫌です。
お飾りでもなんでも構わないと思っていましたけれど、もしも本当にジンが私を夫人にと願ってくださっていたのでしたら、初夜くらい頑張りたい。
本当の夫人になるには、初夜が必ず必要だと聞きましたからね。
故郷の侍女たちが何度もそう口にしておりましたもの。
夫人として初夜は避けては通れぬものですから、我慢するのですよと言い聞かせられていました。
手を出してはいけません。投げ飛ばしてもいけません。蹴り上げてもいけません。どんな技を掛けてもいけません。武器の持ち込みも禁止です。
そのように注意をしていたということは、とても危険な夜になるということでしょう?
是非ともしっかりと学び、鍛錬を重ねて、初夜に挑みたいものです。
母に近付けなくとも、夫人としての登竜門はしっかりと真正面から通っておかねば──。
ぶはっと笑う声がしました。
先から拗ねていたこともあって、思わず顔を上げて、下からむっと睨んでしまいます。
大笑いしてくれたおかげで、拘束されている腕の力が弱みましたからね。手も開放してくださいましたし。
さぁ、従姉妹たちが怖いと恐れるこの目力を堪能なさい!
……どうしてもっと笑うのよ。
「変わらずにいてくれて、私は嬉しいよ、ミシェル」
へ?嬉しい?
ジンのお顔が目のまえにありました。
今までで一番近いです。
「初夜のことも心配は要らないからね。君はそのままでいい」
「ふぁい」
また変な声を出してしまいました。
だって、近いっ。近過ぎます!
「では──君がいい理由を今から説明するとしようか」
なんだか、それはもういい気がしてきました。
えぇ、もういい気がします。聞かないでおきましょう。
「ここまで来てくれたんだから。もう逃がす気はないよ、ミシェル」
心臓がおかしいです。飛び出しそうなほど揺れていますけれど。
これは一体どうしたらっ。
逃がす気はないと言いましたか?
え?戦闘?手合わせ?
どうして私の顔を両手で押さえこんでいるのかしら?
頭突きからですか?
「それも今からね──」
頭突きの事前通告?
それにしては動かない……?
こんなに近くでその目は困ります。
あぁ、今こそ。今こそ、遠隔の助言を。
故郷の侍女たちの誰でも、いえ、シシィでもいいです。
助言をくださいまし!助言をっ!
誰か助けてっ!
私は身体ごと捕まりながら、必死に語り掛けました。
するとユージーン様がふわっと息を吐いてから言うのです。
「では呼んでくれるね?」
「あうっ……ジ、ジン……様?」
「ハルはそのままに呼んでいたのに?」
「うぅ……ジ…ン?」
捕まった状態でよしよしと頭を撫でられていました。
とても落ち着く温かさであるのに、心臓がバクバクと騒がしいのは何故でしょうか?
もしかして本当に稀に見る健康体ではなくなってしまったのかしら。
え?どうしましょう?
身体の丈夫さは、夫人の評価に加点して頂けると思っておりましたのに。
ごほん、ごほん、ごほんと三度も咳が続きます。
その癖も本当に大丈夫ですの?
疑いたくはありませんが、今朝に稀に見る健康体と言われた私がこうですもの。
もしかして、本当は癖などではなく──。
「私に何か伝えたいことがあるのだろう?」
はっ。そうでした。
名前で戸惑っているときではありません。
ありのまま白状せねば。
ジンならば。
私がいかに駄目か知っているジンならば。
この件は家の問題ではないことをちゃんと理解してくださると思うのです。
「実はその、初夜のことなのですが」
「っ!!!」
飛び上がらんばかりに、心臓が撥ねた気がします。
私ではなく、ジンのです。
顔が触れている胸から、大きな衝撃が伝わりましたもの。
え?本当に大丈夫ですの?
二人揃って、稀に見る健康体ではなくなったなんて、そんなことは。
「わ、私は大丈夫だ。それより私とは、その──嫌ということか?」
え?嫌とは?
何が嫌だというお話でしょう?
ジンが深く長い息を吐いていました。
「──そうではないなら良かった。では初夜に何が?」
「すべて私が悪いのです。故郷の侍女たちは精一杯頑張ってくれていました」
「うん?」
「ですのに私は、想い人がいらっしゃる侯爵様に嫁ぐものだと信じていたこともあって──。いいえ、それは言い訳ですね。実はその──」
正直に全てを伝え終えたところ、ジンは「なんだ、そんなこと──」と言って笑い出しました。
そんなに笑うことかしら?
なんだか拗ねたくなってきました。私が悪いことなのですが。
頑張るのでこちらで改めて勉強させて欲しいともお願いしましたのに。
「ここでも学ばなくていいよ、ミシェル」
「そんなっ」
頑張る前から夫人失格なんて嫌です。
お飾りでもなんでも構わないと思っていましたけれど、もしも本当にジンが私を夫人にと願ってくださっていたのでしたら、初夜くらい頑張りたい。
本当の夫人になるには、初夜が必ず必要だと聞きましたからね。
故郷の侍女たちが何度もそう口にしておりましたもの。
夫人として初夜は避けては通れぬものですから、我慢するのですよと言い聞かせられていました。
手を出してはいけません。投げ飛ばしてもいけません。蹴り上げてもいけません。どんな技を掛けてもいけません。武器の持ち込みも禁止です。
そのように注意をしていたということは、とても危険な夜になるということでしょう?
是非ともしっかりと学び、鍛錬を重ねて、初夜に挑みたいものです。
母に近付けなくとも、夫人としての登竜門はしっかりと真正面から通っておかねば──。
ぶはっと笑う声がしました。
先から拗ねていたこともあって、思わず顔を上げて、下からむっと睨んでしまいます。
大笑いしてくれたおかげで、拘束されている腕の力が弱みましたからね。手も開放してくださいましたし。
さぁ、従姉妹たちが怖いと恐れるこの目力を堪能なさい!
……どうしてもっと笑うのよ。
「変わらずにいてくれて、私は嬉しいよ、ミシェル」
へ?嬉しい?
ジンのお顔が目のまえにありました。
今までで一番近いです。
「初夜のことも心配は要らないからね。君はそのままでいい」
「ふぁい」
また変な声を出してしまいました。
だって、近いっ。近過ぎます!
「では──君がいい理由を今から説明するとしようか」
なんだか、それはもういい気がしてきました。
えぇ、もういい気がします。聞かないでおきましょう。
「ここまで来てくれたんだから。もう逃がす気はないよ、ミシェル」
心臓がおかしいです。飛び出しそうなほど揺れていますけれど。
これは一体どうしたらっ。
逃がす気はないと言いましたか?
え?戦闘?手合わせ?
どうして私の顔を両手で押さえこんでいるのかしら?
頭突きからですか?
「それも今からね──」
頭突きの事前通告?
それにしては動かない……?
こんなに近くでその目は困ります。
あぁ、今こそ。今こそ、遠隔の助言を。
故郷の侍女たちの誰でも、いえ、シシィでもいいです。
助言をくださいまし!助言をっ!
誰か助けてっ!
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