11 / 37
11.私は脅されているのでしょうか?
しおりを挟む私の真横に立っていた議長様が、突然に跪かれまして。
それで私はほんのひとときでしたが、目を見開いてしまいました。
すぐに淑女の微笑みを顔に張り付けておきましたけれどね。
この議長様は、一体何をされているのでしょうか?
私は再び助言を求め、遠くの父を視界に入れました。
そしてまた驚かされてしまったのです。
必死に口をパクパクと動かし、父は何かを訴えておりますが、それが分かりません。
そして私は、あのように焦った父の顔を見るのは初めてのことでした。
ですから私も、これはとてもまずいことになっているのだと理解したのです。
やはりこの議長様、王女殿下のためにこの場にいらっしゃるのでしょう。
最悪の事態となることを覚悟しなければならないようです。
すると私の心が決まる時を待っていたかのように、議長様は跪いた状態のまま、私を見上げ言いました。
「ようやくお会い出来たというのに、まずは謝罪から始めなければならないことが情けなくてなりませんね。私の力が足りなかったせいではありますが、どうかそれだけで今の私を判断しないで頂けますか?」
…………。
しばし放心してしまったのは、議長様が仰る意味がさっぱりと分からなかったからです。
こんなことは初めてでしょう。
いつもならば、相手が誰だろうと分からない発言の意図に想像を巡らせているところですが。
このときは何も思い浮かばなかったのです。
淑女の微笑みを浮かべることしか出来なかった私を気にすることはなく、議長様は変わらぬ姿勢を保ち、先を続けます。
「こちらからお呼び立てしておきながら、今日はまた、あなたに不快な想いをさせてしまいました。この議会の統率が取れず、参加している貴族らを黙らせることが出来なかったのは、すべて私の不徳の致すところです。謹んでここに謝罪を申し上げます」
跪いた状態で議長様は頭まで下げられました。
この姿勢が礼儀として正しき振舞いなのか、私には判断が出来ません。
この国では全く違う目的を持って殿方は跪くものだと習っておりましたから、この振舞い方を私は知らないのです。
幼い頃から学んできたことを思い出しますに、そもそもこの国には殿方が女性に謝る状況ということを想定した礼儀はなかったはず。
ですから、これは異例のこと。
しかもこの御方ですからね。
このような議会の場で、一令嬢に過ぎない私に頭頂部を見せてしまっていいものかしら。
考えているだけで、私の方が心配になってきました。
あの王女殿下といい、この御方といい。
この国は大丈夫なのでしょうか?
あら?
素晴らしい旋毛をされておりますね。
なんて可愛らしいのかしら。
触れて……
それどころではありませんでしたね。
今の議長様の発言に関しては、想像を巡らせることが出来そうです。
すると私の答えは『拒絶』になります。
けれども答えをすぐに伝えることも憚れました。
この御方を相手にそれが許されているかどうか、という問題について考える必要があったからです。
議長様が謝罪をされた時点で、私の答えはひとつしか用意されていないのかもしれません。
ならば私は返答を控えることでこれに抵抗でもしましょうか。
けれどもそれもまた、不敬として問題視されるかもしれません。
私が対応に考え込んでおりましたところ、下からくすっと笑ったような気配を感じました。
やはりこの謝罪は見世物の一環で、この件はこれで終わりにしなさいね、ということのようです。
すると私はあの令息様と婚約を継続し、慰謝料まで払うことになると。
それはさすがにどうなのでしょうか?それではこの国は──。
議長様の声が私の思考を遮断しました。
「どうか安心して欲しい。あなたの悪いようにはしないと約束します」
そう言った議長様は、顔を上げられ、また私を見て微笑まれておりました。
けれども私にはその本意が読めず、また何も想像することが出来なかったのです。
39
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。
【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」
まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10
私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。
エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。
エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら?
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。
エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。
そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。
なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる