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おまけ
<過去偏>
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※※<ピンポンパンポーン♪>※※
大事なお知らせです。こちら品位を疑う会話に触れますので、お食事中の方は終えてからお読みになることを強くおすすめします。また、こちらは読まなくてもいい本編から外れた蛇足となりますので、清らかなそのお心を穢したくないあなたも、そっとページを閉じるよう推奨いたします。
※※<ピンポンパンポーン♪>※※
時空を移動出来る魔法の力を手に入れたので、シャーロットとルーカスの母親たちの会話を覗いてみよう。
一体何がどうなって、子どもたちの結婚の話がまとまったのか。
少しは気になるよな?な?な?
見るからに怪しい店でそこそこの値段で手に入れた魔道具なんだ。
そう興味のなさそうな顔をしないでくれ。
なになに?誰かの名を呼び過ぎていよいよ身の危険を感じているから、時を越えて逃げたいだけでは?だと。
そんなわけがなかろう。
というわけで、ワープ!
おぉおぉおぉ時空魔法は酔うのだな。
よし到着。
気を取り直して。
ここは王都の公爵邸だな?
見覚えのある庭に面したテラスで、母親たちと思わしき婦人が楽しそうにお茶をしている。
シャーロットとルーカスはいずこ……芝生の上を転げて遊んでいるあの子たちがそれか!
これは見事な転がりっぷり。
うっかりあの娘を思い出してしまったではないか。
珍獣もといあの娘の末路については、また別の機会があったときに、余程気が乗れば語るとして。
まだこの頃のシャーロットは、将来この邸で監禁されることになろうとは、思いもしなかっただろうな。
何せまだ三歳である。
「娘には侯爵が務まらないと思うのよねぇ」
まだ無垢な幼い子どもたちというのは、可愛いものだな。
シャーロットは将来も無垢なままかもしれんが……。
ん?今なんと言った?
転がる子どもたちを眺めていたら、いきなり核心めいた言葉が聞こえてこなかったか?
「この子に侯爵はとても無理だと思うのよ」
念を押すように同じ意味の言葉を重ねたのは、侯爵であるシャーロットの母親のようだ。
いやいやさすがに娘に見切りを付けるのは早過ぎやしないか?
だからまだ三歳なのだぞ?
これから成長……うん、成長した後を知っていると、早くに気付いて正解だったなとしか言えんな。
子どもたちには親の声が届かないのか、芝生の上での回転は止まらなかった。
いや早いな。あれでは目が回って倒れそうだが。何故まだ進む?
ルーカスが遅れを取っているな。シャーロットの方が身体は随分と小さいのに、それは見事な回転で。
どっかの誰かと姉妹であることを強く感じてしまった。
三階から樹を伝い降りようとしていたのも、幼少期からこの通りで、身体能力に自信があったというわけか。
そのうえ将来は体力もあって……そこもルーカスとお似合いなのか?
……おかしいな。
まだ子どものルーカスよ。
何故そこで急に回転をやめてにやにやと喜んでいる?
こちらの声など聴こえていないはずだよな?な?
「あなただってそう思うでしょう?」
「そうねぇ。言いにくいけれど、シャーロットちゃんには厳しいと思うわ」
言いにくいと言っておきながら、はっきり言ったな。
さすがはルーカスの母親なのか?
しかしまだ三歳児。
未来が明るい三歳児なんだ。
どうして母親たちはそう悟っているのか。
何をしでかそうと笑って見守っていられる年齢……転がり過ぎだろうよ。
周りも誰か止めてやれ。母親たちもこんな子どもらを放任するな。
だめだ、母親たちは話に夢中だった。
「だからルーカス君の想いは渡りに船というか。地獄に仏というか。仏というより地獄を破壊し尽くす魔王っぽいわね。そんなルーカス君が夫となれば、不安もあるけれど、安心も出来るでしょう?」
さらっと普通の顔をしておかしなことを言わないでくれ?
お互いに何でも言い合える友人関係ということでいいんだよな?
実は嫌味合戦をしていましたーなんて後から教えてくれるのは無しで頼むぞ?
貴族ってやつは、理解が難しいからな。
お子さんピアノが上手にならはりましたな~とでも言われたら要注意だ。
え?国が違う?地域が限定過ぎる?そうだったか?
しかし……今まで追って来たあれもあれもあれも貴族だったはずで。
別の意味で理解は難しいものであったが、これまでに貴族らしい難解な会話は一度として聴こえて来なかったよな……。
まぁいい。藪蛇になる前にここは思考を止めて。
せっかく過去に戻れたんだ。
さぁ話の先を聞かせて貰おうか!
「うちだってシャーロットちゃんがお嫁に来たら息子が落ち着いてくれるからとても有難いのよ?でもそうすると、もう一人子どもがいるでしょう?本当にいいの?」
あ、もうルーカスの操縦は始まっていたんだな。
ってルーカス。三歳児を見初めていたのかよ。
すまん、ちょっと……いや大分引いたぞ。
親もそれは戸惑っただろうな。
近い年齢ならば許されるか?
そもそもその年齢で三歳児相手に恋を自覚出来たのは凄いけどな。
そりゃ公爵も困惑するし、反対しただろう。
よーし、ここは今だからあえて言っておこう。
幼いルーカスよ。これからは親に心労を掛けてやるな。
おぅ、言っても無駄だって知っているけどな。
「だからね。侯爵領ごと貰ってくれないかしら?」
シャーロットの母親がまたさらっと何か言ったな。
親戚から沢山貰ったからこれ食べてくれない?みたいなノリで聞こえたのだが。
聞き間違いでいいか?
「……おかしいわね。今日は耳の調子が悪いみたいだわ」
お、少しは会話が貴族らしくなってきたか?
同じくこちらも耳の調子が大分悪いようだから、そのまま上手いこと話題を流してくれ。
「侯爵領ごとシャーロットを貰ってと言ったのよ!」
わぉ。一瞬で会話が貴族らしくなくなった。
声を大にして言ったんだが。
侯爵なんだよな、シャーロットの母親って。
まぁ、あのきんきんと頭に響く声でないところは救いだが。
シャーロットのあの感じは絶対に父親譲りに違いないと踏んでいたが……まさかの母親か?
……やはりおかしいな。
子どもなルーカスに睨まれた気がしたんだが。
何故だ?何故聴こえている?
過去の人々に影響を与える魔法ではなかったはず。
ルーカスの想いは時空魔法も超えるほどなのか?
ぶるっ。身に危険が迫っているような……。
「どうしてそうなるのよ?シャーロットちゃんの他にもう一人……」
「あのくそな男と子作りなんて、もう二度とごめんよ!一度で上手くいったことさえ、思い出すのも忌々しいくそな記憶だというのに!」
おかしいな。耳の調子がどんどん悪くなっているみたいだ。
おかしいな。本当におかしいな。
戻る時間軸を間違えたかなー。
「それなら親戚から子どもを──」
「くそな親戚共にも爵位は譲れないわ!あのくそな男を立派な婿になると称賛してきた親戚たちなのよ?」
うわぁ。くそな男のせいで、親戚たちまで印象が最悪だった。
あの男も罪深い奴だったのだな。
「私が女だからと下に見て。それほど血統も良くないくせに。ほんのちょっと我が家の血が流れているからって侯爵の椅子を欲するなんて。そんなにこの椅子は軽くないのよ!それなのにあのくそ共が!」
いくら親友でもな。
他家の貴族の前で酷い言い様だぞ。
これはルーカスの母親もさすがに引いて……いなかったな、うん。
「分かるわぁ。くそな奴らほど、愚かにも分不相応な夢を見るから嫌になっちゃうのよね」
「そう、そうなのよ!それにあのくそな男を婿にすると決めたうちの父親だって、くそだったんだから。あんなくそな男たちの血で繋ぐ家なんか、もう畳んじゃえーと思っていたところなのよね」
店を畳むように言わないでくれ。
貴族の家の話だぞ?
しかも今は、そのくそな血筋のシャーロットを、公爵家にやろうという話をしているんだよな?
いいのか、そんなことで。
公爵夫人に嫌がられ……ていないな。
うんうんと訳知り顔で頷いているが、それでいいのか?
「このままシャーロットが侯爵になったら、あいつらは間違いなくあの子を引きずり下ろして侯爵に成り代わるわ。私の目が光っているうちはいいのよ。でもいつどうなるかなんて、誰にも分からないでしょう?」
未来を知っていると心にずんと重く来る話だ。
だから真剣に耳を傾けようとしたのに。
「でもね、あのくそな奴らに領地のことなんか見られるわけがないのよ!くそなんだから!どうせ侯爵家はもう終わりだわ!」
うんうん、これは貴族の会話だと思わない方がいいな。
何?貴族だって普段はこんなものだと?
そこらの綺麗にしている令嬢だって同じものだって?
やめてくれ。身分制度に抱く幻想を壊さないでくれ。
こんなことなら過去なんて知りたくなかった。
欲を出したらろくなことにならないと学ばされたな。
「だからね。くそな奴らをこの世から抹消するためだと思って。うちの領地を貰ってちょうだい。もれなくシャーロットも差し上げるわね!」
おいおい、娘を何だと思っていたんだ。
亡くなった母親のこんな話を、シャーロットは聞きたくなかろうな。
……いや、それもどうだろうな。
あの娘もまた、常人には理解出来ない存在だから。
話を聞いても、どんな反応をするか予測さえ出来んぞ。
「そういうことなら協力するわ!シャーロットちゃんを頂けるなら、これほど有難いこともないものね!これでルーカスもなんとか爵位を継げそうで良かったわぁ」
なんでだよ。なんで協力するんだ。
そしてシャーロットよ、もはや将来の義母からも貢物扱いだったぞ。
生涯知らないでいられるといいな!
その前にルーカスから解放されるといいけどな!
「うふふ。あなたが了承してくれて良かったわ。これで肩の荷も下りるわね。でもそういえば……、ルーカス君は爵位を継がないと言っているのよね?」
「えぇ。日に日に家出が上手になるものだから、あの人も手を焼いているわ」
そこはなんでもない日常のように語らないでくれ。
ルーカスもまだ幼い子どもだからな?
貴族の子が家出なんて、どこで誘拐されるか分かったものでは……うん、あいつはされんな。大丈夫だ。
「それならルーカス君に婿に来てもらってもいいわよ?将来はくそな奴らを一掃してくれるでしょうし。それでそちらがもう一人……」
「やめてちょうだい。もう一人なんて考えたくもないわ!」
なんだと?まさかルーカスの母親も、夫を嫌っていたのか?
「あらどうして?うちとは違うでしょう?」
「あの子がもう一人いるところを想像してみて?どうなると思う?」
「……将来はうちの領地とシャーロットをお願いするわね」
「任せてちょうだい!」
予想と違ったが、これはこれで良かったと言っていいものか。
ルーカスよ、親たちが二人目以降の子を諦める理由にまでなっていたぞ?
せめて結婚後はどうか落ち着いて両親を安心させてやってくれな。
え?弟妹なんか要らないからいいんだ?シャーロットと仲良くしたら困る?お義姉さまとは呼ばせない?
あーちょうどいいところで魔法が消えそうな感じだ。
良かった。うん、良かった。
過去を見るのは、ここまでにしておこう。
元気な母親たちと可愛いシャーロットとルーカスの様子を見られただけでも良しとして……え?
二度とシャーロットの名を口にしないで?
よし、急いで退散だ。
ん?あれ?どうやって魔法の発動が終わるんだこれ?
ちゃんと戻れるよな?変な世界に飛ばされないか?大丈夫だよな?
行きと違って何か点滅して……。
まさか…………そのにんまりと笑う顔!
子どものときから変わらず、人に嫌な気持ちを与える笑顔だったんだな!
って、うわぁあぁあぁあぁあぁ………………。
大事なお知らせです。こちら品位を疑う会話に触れますので、お食事中の方は終えてからお読みになることを強くおすすめします。また、こちらは読まなくてもいい本編から外れた蛇足となりますので、清らかなそのお心を穢したくないあなたも、そっとページを閉じるよう推奨いたします。
※※<ピンポンパンポーン♪>※※
時空を移動出来る魔法の力を手に入れたので、シャーロットとルーカスの母親たちの会話を覗いてみよう。
一体何がどうなって、子どもたちの結婚の話がまとまったのか。
少しは気になるよな?な?な?
見るからに怪しい店でそこそこの値段で手に入れた魔道具なんだ。
そう興味のなさそうな顔をしないでくれ。
なになに?誰かの名を呼び過ぎていよいよ身の危険を感じているから、時を越えて逃げたいだけでは?だと。
そんなわけがなかろう。
というわけで、ワープ!
おぉおぉおぉ時空魔法は酔うのだな。
よし到着。
気を取り直して。
ここは王都の公爵邸だな?
見覚えのある庭に面したテラスで、母親たちと思わしき婦人が楽しそうにお茶をしている。
シャーロットとルーカスはいずこ……芝生の上を転げて遊んでいるあの子たちがそれか!
これは見事な転がりっぷり。
うっかりあの娘を思い出してしまったではないか。
珍獣もといあの娘の末路については、また別の機会があったときに、余程気が乗れば語るとして。
まだこの頃のシャーロットは、将来この邸で監禁されることになろうとは、思いもしなかっただろうな。
何せまだ三歳である。
「娘には侯爵が務まらないと思うのよねぇ」
まだ無垢な幼い子どもたちというのは、可愛いものだな。
シャーロットは将来も無垢なままかもしれんが……。
ん?今なんと言った?
転がる子どもたちを眺めていたら、いきなり核心めいた言葉が聞こえてこなかったか?
「この子に侯爵はとても無理だと思うのよ」
念を押すように同じ意味の言葉を重ねたのは、侯爵であるシャーロットの母親のようだ。
いやいやさすがに娘に見切りを付けるのは早過ぎやしないか?
だからまだ三歳なのだぞ?
これから成長……うん、成長した後を知っていると、早くに気付いて正解だったなとしか言えんな。
子どもたちには親の声が届かないのか、芝生の上での回転は止まらなかった。
いや早いな。あれでは目が回って倒れそうだが。何故まだ進む?
ルーカスが遅れを取っているな。シャーロットの方が身体は随分と小さいのに、それは見事な回転で。
どっかの誰かと姉妹であることを強く感じてしまった。
三階から樹を伝い降りようとしていたのも、幼少期からこの通りで、身体能力に自信があったというわけか。
そのうえ将来は体力もあって……そこもルーカスとお似合いなのか?
……おかしいな。
まだ子どものルーカスよ。
何故そこで急に回転をやめてにやにやと喜んでいる?
こちらの声など聴こえていないはずだよな?な?
「あなただってそう思うでしょう?」
「そうねぇ。言いにくいけれど、シャーロットちゃんには厳しいと思うわ」
言いにくいと言っておきながら、はっきり言ったな。
さすがはルーカスの母親なのか?
しかしまだ三歳児。
未来が明るい三歳児なんだ。
どうして母親たちはそう悟っているのか。
何をしでかそうと笑って見守っていられる年齢……転がり過ぎだろうよ。
周りも誰か止めてやれ。母親たちもこんな子どもらを放任するな。
だめだ、母親たちは話に夢中だった。
「だからルーカス君の想いは渡りに船というか。地獄に仏というか。仏というより地獄を破壊し尽くす魔王っぽいわね。そんなルーカス君が夫となれば、不安もあるけれど、安心も出来るでしょう?」
さらっと普通の顔をしておかしなことを言わないでくれ?
お互いに何でも言い合える友人関係ということでいいんだよな?
実は嫌味合戦をしていましたーなんて後から教えてくれるのは無しで頼むぞ?
貴族ってやつは、理解が難しいからな。
お子さんピアノが上手にならはりましたな~とでも言われたら要注意だ。
え?国が違う?地域が限定過ぎる?そうだったか?
しかし……今まで追って来たあれもあれもあれも貴族だったはずで。
別の意味で理解は難しいものであったが、これまでに貴族らしい難解な会話は一度として聴こえて来なかったよな……。
まぁいい。藪蛇になる前にここは思考を止めて。
せっかく過去に戻れたんだ。
さぁ話の先を聞かせて貰おうか!
「うちだってシャーロットちゃんがお嫁に来たら息子が落ち着いてくれるからとても有難いのよ?でもそうすると、もう一人子どもがいるでしょう?本当にいいの?」
あ、もうルーカスの操縦は始まっていたんだな。
ってルーカス。三歳児を見初めていたのかよ。
すまん、ちょっと……いや大分引いたぞ。
親もそれは戸惑っただろうな。
近い年齢ならば許されるか?
そもそもその年齢で三歳児相手に恋を自覚出来たのは凄いけどな。
そりゃ公爵も困惑するし、反対しただろう。
よーし、ここは今だからあえて言っておこう。
幼いルーカスよ。これからは親に心労を掛けてやるな。
おぅ、言っても無駄だって知っているけどな。
「だからね。侯爵領ごと貰ってくれないかしら?」
シャーロットの母親がまたさらっと何か言ったな。
親戚から沢山貰ったからこれ食べてくれない?みたいなノリで聞こえたのだが。
聞き間違いでいいか?
「……おかしいわね。今日は耳の調子が悪いみたいだわ」
お、少しは会話が貴族らしくなってきたか?
同じくこちらも耳の調子が大分悪いようだから、そのまま上手いこと話題を流してくれ。
「侯爵領ごとシャーロットを貰ってと言ったのよ!」
わぉ。一瞬で会話が貴族らしくなくなった。
声を大にして言ったんだが。
侯爵なんだよな、シャーロットの母親って。
まぁ、あのきんきんと頭に響く声でないところは救いだが。
シャーロットのあの感じは絶対に父親譲りに違いないと踏んでいたが……まさかの母親か?
……やはりおかしいな。
子どもなルーカスに睨まれた気がしたんだが。
何故だ?何故聴こえている?
過去の人々に影響を与える魔法ではなかったはず。
ルーカスの想いは時空魔法も超えるほどなのか?
ぶるっ。身に危険が迫っているような……。
「どうしてそうなるのよ?シャーロットちゃんの他にもう一人……」
「あのくそな男と子作りなんて、もう二度とごめんよ!一度で上手くいったことさえ、思い出すのも忌々しいくそな記憶だというのに!」
おかしいな。耳の調子がどんどん悪くなっているみたいだ。
おかしいな。本当におかしいな。
戻る時間軸を間違えたかなー。
「それなら親戚から子どもを──」
「くそな親戚共にも爵位は譲れないわ!あのくそな男を立派な婿になると称賛してきた親戚たちなのよ?」
うわぁ。くそな男のせいで、親戚たちまで印象が最悪だった。
あの男も罪深い奴だったのだな。
「私が女だからと下に見て。それほど血統も良くないくせに。ほんのちょっと我が家の血が流れているからって侯爵の椅子を欲するなんて。そんなにこの椅子は軽くないのよ!それなのにあのくそ共が!」
いくら親友でもな。
他家の貴族の前で酷い言い様だぞ。
これはルーカスの母親もさすがに引いて……いなかったな、うん。
「分かるわぁ。くそな奴らほど、愚かにも分不相応な夢を見るから嫌になっちゃうのよね」
「そう、そうなのよ!それにあのくそな男を婿にすると決めたうちの父親だって、くそだったんだから。あんなくそな男たちの血で繋ぐ家なんか、もう畳んじゃえーと思っていたところなのよね」
店を畳むように言わないでくれ。
貴族の家の話だぞ?
しかも今は、そのくそな血筋のシャーロットを、公爵家にやろうという話をしているんだよな?
いいのか、そんなことで。
公爵夫人に嫌がられ……ていないな。
うんうんと訳知り顔で頷いているが、それでいいのか?
「このままシャーロットが侯爵になったら、あいつらは間違いなくあの子を引きずり下ろして侯爵に成り代わるわ。私の目が光っているうちはいいのよ。でもいつどうなるかなんて、誰にも分からないでしょう?」
未来を知っていると心にずんと重く来る話だ。
だから真剣に耳を傾けようとしたのに。
「でもね、あのくそな奴らに領地のことなんか見られるわけがないのよ!くそなんだから!どうせ侯爵家はもう終わりだわ!」
うんうん、これは貴族の会話だと思わない方がいいな。
何?貴族だって普段はこんなものだと?
そこらの綺麗にしている令嬢だって同じものだって?
やめてくれ。身分制度に抱く幻想を壊さないでくれ。
こんなことなら過去なんて知りたくなかった。
欲を出したらろくなことにならないと学ばされたな。
「だからね。くそな奴らをこの世から抹消するためだと思って。うちの領地を貰ってちょうだい。もれなくシャーロットも差し上げるわね!」
おいおい、娘を何だと思っていたんだ。
亡くなった母親のこんな話を、シャーロットは聞きたくなかろうな。
……いや、それもどうだろうな。
あの娘もまた、常人には理解出来ない存在だから。
話を聞いても、どんな反応をするか予測さえ出来んぞ。
「そういうことなら協力するわ!シャーロットちゃんを頂けるなら、これほど有難いこともないものね!これでルーカスもなんとか爵位を継げそうで良かったわぁ」
なんでだよ。なんで協力するんだ。
そしてシャーロットよ、もはや将来の義母からも貢物扱いだったぞ。
生涯知らないでいられるといいな!
その前にルーカスから解放されるといいけどな!
「うふふ。あなたが了承してくれて良かったわ。これで肩の荷も下りるわね。でもそういえば……、ルーカス君は爵位を継がないと言っているのよね?」
「えぇ。日に日に家出が上手になるものだから、あの人も手を焼いているわ」
そこはなんでもない日常のように語らないでくれ。
ルーカスもまだ幼い子どもだからな?
貴族の子が家出なんて、どこで誘拐されるか分かったものでは……うん、あいつはされんな。大丈夫だ。
「それならルーカス君に婿に来てもらってもいいわよ?将来はくそな奴らを一掃してくれるでしょうし。それでそちらがもう一人……」
「やめてちょうだい。もう一人なんて考えたくもないわ!」
なんだと?まさかルーカスの母親も、夫を嫌っていたのか?
「あらどうして?うちとは違うでしょう?」
「あの子がもう一人いるところを想像してみて?どうなると思う?」
「……将来はうちの領地とシャーロットをお願いするわね」
「任せてちょうだい!」
予想と違ったが、これはこれで良かったと言っていいものか。
ルーカスよ、親たちが二人目以降の子を諦める理由にまでなっていたぞ?
せめて結婚後はどうか落ち着いて両親を安心させてやってくれな。
え?弟妹なんか要らないからいいんだ?シャーロットと仲良くしたら困る?お義姉さまとは呼ばせない?
あーちょうどいいところで魔法が消えそうな感じだ。
良かった。うん、良かった。
過去を見るのは、ここまでにしておこう。
元気な母親たちと可愛いシャーロットとルーカスの様子を見られただけでも良しとして……え?
二度とシャーロットの名を口にしないで?
よし、急いで退散だ。
ん?あれ?どうやって魔法の発動が終わるんだこれ?
ちゃんと戻れるよな?変な世界に飛ばされないか?大丈夫だよな?
行きと違って何か点滅して……。
まさか…………そのにんまりと笑う顔!
子どものときから変わらず、人に嫌な気持ちを与える笑顔だったんだな!
って、うわぁあぁあぁあぁあぁ………………。
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面白いお話なのですが。
ありがとうございます!
無事完結出来ました。
楽しんでいただけて嬉しいです♡
お母さまズは、きっと普段からさらに楽しい会話を繰り広げていたことでしょう。
でももう過去は覗いてはいけません。知らない方が幸せなのです!w
(語り部より)
おい聞いたか、ちょび太郎さまが大好きと言ってくれたぞ!
ほらな、作者。だからこの語り部が主人公の物語を……。
悪かった。うん、もう二度と急かさないから、本当に真面な話で頼む。
(作者より)
ふざけすぎかなとドキドキしながら楽しく書き終えました。(いや作者よ絶対ドキドキしていないよな?な?結構鋼の……余計なことを言うと次は珍獣役だと?悪かった。それだけは勘弁してくれ)
なので楽しんでいただけて嬉しかったです。(それは完全に同意だ)
相変わらず何か聴こえますが。
ご感想ありがとうございました!(ありがとうございました!)