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♥選ぶもの
119.吹き込んだ南風
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朝から今にも雨が降りそうな暗い曇空の広がっていたその日、タークォンに軍船が到着した。
それも三隻。
陸に繋ぐ階段から颯爽と降りてきた少女は、万年春の国を誇る東南の国のイメージとは少々掛け離れた美しき深紅のドレスを纏っていた。
「ふぅ。ここは暑いわね」
ブリキの階段をタンタンとヒールで鳴らし、つんと鼻を上げた少女は空模様を確認したあと、ふ頭に並ぶ男たちをしげしげと眺め、「つまらないわ」と囁く。
すぐに「姫さま」と窘める老人の声が少女の耳に届いた。
「別にいいでしょう?」
「いけませんよ。外ではどこでどなたが聞いているか分からないとお伝えしているでしょう」
「聞かれても困らないわ」
「お国が困るのですよ。さぁ、姫さま。練習なさってきた成果をお見せするときです」
後ろを追う老人を無視し足を速めた少女は、またつんと鼻を上げてふ頭に降り立つと、今度は今までの会話が嘘のように、柔らかく微笑んだ。
しかしふ頭にいた男たちは頭を下げているので、この笑顔を見られない。
「ようこそ、タークォン王国へ」
唯一頭を下げていなかった男がそう言うと、少女は「お迎えありがたいわ」と声を返した。
見たことのない白の正装を纏う男が何者か、聞く前から少女にも予想はついた。
しかしいずれも自己紹介をしようとはせず、男もまた柔らかい笑顔を浮かべたまま場所の移動を申し出た。
「王宮へと案内しましょう。人数分馬車を用意しておりますが」
「私の他三名を連れて行くわ。残りは落ち着くまで船の中に」
馬車を見て、一瞬少女は目を瞠ったが、それでも馬車について触れることもなく、男のエスコートで内部まで豪華に飾られた馬車に乗り込むと、会話なき移動が始まった。
その瞳はたびたび窓の外を追っているけれど、少女はツンと澄ました顔で無言を貫く。
タークォンにいつにない風が吹き始めていた。
それも三隻。
陸に繋ぐ階段から颯爽と降りてきた少女は、万年春の国を誇る東南の国のイメージとは少々掛け離れた美しき深紅のドレスを纏っていた。
「ふぅ。ここは暑いわね」
ブリキの階段をタンタンとヒールで鳴らし、つんと鼻を上げた少女は空模様を確認したあと、ふ頭に並ぶ男たちをしげしげと眺め、「つまらないわ」と囁く。
すぐに「姫さま」と窘める老人の声が少女の耳に届いた。
「別にいいでしょう?」
「いけませんよ。外ではどこでどなたが聞いているか分からないとお伝えしているでしょう」
「聞かれても困らないわ」
「お国が困るのですよ。さぁ、姫さま。練習なさってきた成果をお見せするときです」
後ろを追う老人を無視し足を速めた少女は、またつんと鼻を上げてふ頭に降り立つと、今度は今までの会話が嘘のように、柔らかく微笑んだ。
しかしふ頭にいた男たちは頭を下げているので、この笑顔を見られない。
「ようこそ、タークォン王国へ」
唯一頭を下げていなかった男がそう言うと、少女は「お迎えありがたいわ」と声を返した。
見たことのない白の正装を纏う男が何者か、聞く前から少女にも予想はついた。
しかしいずれも自己紹介をしようとはせず、男もまた柔らかい笑顔を浮かべたまま場所の移動を申し出た。
「王宮へと案内しましょう。人数分馬車を用意しておりますが」
「私の他三名を連れて行くわ。残りは落ち着くまで船の中に」
馬車を見て、一瞬少女は目を瞠ったが、それでも馬車について触れることもなく、男のエスコートで内部まで豪華に飾られた馬車に乗り込むと、会話なき移動が始まった。
その瞳はたびたび窓の外を追っているけれど、少女はツンと澄ました顔で無言を貫く。
タークォンにいつにない風が吹き始めていた。
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