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♥選ぶもの

108.お姫さまは焦燥感を知る

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 以前店で共に選んだ服を着て、見晴らしのよい高台に立った二人は、遠い海を眺めた。
 海にはこれから出て行く船、到着した船が、大きさも形も様々に頻繁に流れている。

 かつてイルハは、あのどれかがシーラの船ではないかと期待して、王宮の窓からよく海を眺めていた。
 待ち望んでいた娘が長くここにある幸せをイルハは改めて噛み締める。

 特にこの場所は、イルハのその想いを強めた。

「シーラ。冬が怖いですか?」

 タークォンの東にある高台には、広大な墓苑がある。
 二人は今日イルハの両親の墓参りに来ており、その後隣接した庭園を散策し、足を止めたところだった。

 特別な日というわけではない今日に、シーラがそうしたいと言った理由を考えていたイルハは、ここで聞くことにした。
 繋ぐ手からは、僅かに乱れた魔力を感じ取る。

「うん。怖いのかなぁ?どうだろう?」

 シーラ自身、よく分かっていないようだ。

「いいのですよ。海に出ても。私も一緒に行きますからね」

「冬の間、戻れなくなるんだよ?」

「何度問われても、私の答えは変わりませんよ。あなたと一緒に行きます」

 シーラはイルハを見上げてふわっと力なく笑うと、ゆっくりと首を振った。

「あと半年と少し。ここに居てみようとは思っているの。だってね」

 シーラはそう言ったあとに、今度はいつもの明るい笑顔を見せる。
 流れてくる魔力もそれが偽りとは示さなかった。

「冬を知らないから!イルハから聞く全部がとても面白そうだと思うの!」

「えぇ。あらゆる雪遊びをいたしましょう。それから冬ならではの暮らし方を楽しみましょう」

「うん。それは凄く楽しみなんだ。でもね、海に出られないんだなって思うと、なんだかこの辺がざわざわしてきて」

 胸を押さえてシーラがしゅんと落ち込んだ表情になれば、魔力も力なくゆらゆら揺れて、心の不安定さが簡単に読み取れた。
 イルハは肩を抱き、そっとシーラを抱き寄せる。

「後のお楽しみと思って言いませんでしたが、海には出られますからね」

 一瞬魔力が止まって、その後大きな喜びがイルハに流れ込んできた。


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