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♥選ぶもの

104.やっぱり物怖じしない娘

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「嬢ちゃんは、娘と仲良くしてくれたんだってな」

「アイリーンが何か言っていた?」

 目をきらきらさせてシーラは聞いた。

「小僧の嫁っこはお前さんしか無理だと言われたんだ。それでこの目で確かめに来た」

「よめっこって何?」

「ん?そこからか?」

「私の妻という意味ですよ」

 イルハがそっと横からシーラに伝えると、ほんのりとだがシーラの頬が赤く染まった。

 前のソファーに座る年齢の離れた男たちは、ふーむと言って二人を観察する。
 意外と息は合うようだ。

「そういえばっ!アイリーンの弟さんは元気?」

 恥じらいを誤魔化すように急に問われて、アルバーンは目を瞠った。

「お?なんだ?息子も知っているのか?」

「うぅん。今度テンが元気になったら、二人を会わせてみたらどうかってアイリーンが言っていてね」

「なんだ、なんだ、テンとかいう奴は病気か何かか?」

「うぅん……えぇと……キリムが……そう、反抗期!」

「反抗期か。ははは、それは大変だな」

「うん。それでアイリーンの弟さんも反抗期かもしれないと聞いたからね」

「そういやうちの倅もそんな時期か。最近はなんでも一人で決めたがるな。俺が口を出すと嫌そうにする」

 それは父親がこれだからだろうな。

 と、王子は思ったが、口には出さなかった。
 キリム夫人とは似た者夫婦。

「男の子には、そういう時期があるのでしょう?」

「いやぁ。男だけとは限らないな。娘にだってそういう時期はあったぞ」

「アイリーンにも!」

「おぅ。話を聞いていくか!」

「うん!聞きたい!」

 いよいよ王子は客観的にこれまでの自身を省みて疑い始めた。

 こいつらみてぇな自分勝手な部下ばかりだから、俺は苦労しているんじゃねぇのか?
 仕事が多いのも、実はこいつらがいつもこんな風に遊んでいるせいじゃねぇか?

 心の声が聞こえたようにイルハは王子を一瞥したが、何にも聞こえませんでしたという顔ですぐにシーラに視線を戻すのだった。

「そうだ、お兄さんに名乗っていなかったね!私はシーラ。シーラ・アーヴィン。シーラと呼んでね!」

「シーラ・アーヴィンか。いい名だな。俺はアルバーン・シュミットだ」

「アルバーンもいい名前だね!」

 一瞬面食らったアルバーンであったが、がははと雑に笑い出す。

「娘の言う意味が分かったぞ。このくらいの方が頭の固いイルハ小僧にはちょうどいいんだろうな。うちの娘もなかなか頭が固く、ちょうど良く釣り合うと思ったが、小僧は逆をいったか」

 まだどこか自身の野望を諦めきれていないように言ったあと、アルバーンは急に隣の王子を見やった。

「ところで殿下、この嬢ちゃんの親代わりを探しているところでは?」

 シーラと呼んでと伝えたばかりなのに名を呼んで貰えなかったことに、ちょっと残念そうにしていたシーラの口にケーキの欠片が差し出される。
 イルハがずっと手を付けていなかった自身の前の皿からケーキを切り分け、シーラの口へと運んだのだ。
 こちらはレモンの香るチーズケーキで、お腹が満たされ珈琲で一息入れたあとのシーラの口にはちょうどいいさっぱりとした甘さだった。



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