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♥選ぶもの
103.似ていないことを泣いて喜ばれた男
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どかっと大きな音と共に、アルバーンは王子の座る同じソファーに腰を下ろした。
王子に何一つ許可を貰わず隣に座る男も、この国にはなかなかいない。
一人さっさと座ってしまう男が目のまえで、婚約者なる娘を熱い視線で見詰めていたが。
「俺が小僧の義父になる予定だったな?」
イルハの瞳の熱が急激に冷えていった。そして再びその目はアルバーンを捉え、イルハは微笑する。
「あなたはまず、ご令嬢ご令息にご迷惑をお掛けせぬようにすることから始めた方がよろしいかと」
「なんだと?」
「再三お伝えしてきましたが、ご令嬢が望んでいない方法で目的を達成しようとするのはやめてください」
「何を!俺は娘のためを想ってだな」
「そのご令嬢が喜んでいないのですよ?」
「あいつもまだ若いから分からないんだ。小僧とくっつけば、幸せになれる。いや、幸せにしてくれるはずだったな?」
「既成事実のように聞かないでいただきたい。お断りしてきましたし、そんな約束は一度もしていませんね?」
王子はもう口を挟む気もなくなって、珈琲のお代わりを頼んでいた。
自分がいてもイルハに対してはがらりと口調を変えるアルバーンを前に、勝手にしやがれというところだ。
実は臣下に恵まれていないのではないか、と王子はちょっと自分を不憫に想うのだった。
何せどちらもまったく敬ってくれないのだから。
もしや本当に弟の方が王位に向いているのでは?あいつは可愛いからな。誰もがあいつに尽くしたくなるのは分かる。あいつが望めば俺だって王位を譲るからな。こいつらだって、あいつには懇切丁寧に……。
自身との扱いの差に、涙ぐみそうになった王子である。
「薄情なやつよ。この俺が義父になってやると言って何故喜ばぬ?」
「いい迷惑でしかありませんでしたから」
「なんだとぉ!」
ちょいちょいとイルハの袖が引かれた。
イルハが驚いて、シーラを見詰める。
シーラはちょうどチョコレートケーキを食べ終わったところで、お代わりのケーキを頼まず、ひと休憩入れたところだった。
というより、この部屋付きの使用人が次のケーキを置かなかったのだ。シーラの食のペースを完全に把握している優秀な使用人たちである。
「このお兄さんは、もしかしてアイリーンのお父さんなの?」
声を落としてこっそり尋ねるが、完全に目のまえの男にも聞かれていた。
「そうだ。俺がアイリーンの父親だ」
「わぁ。アイリーンと似ていないねぇ」
「ははっ。よく見ろ。この鼻筋なんかそっくりだろう?」
シーラは素直に首を傾げ、「そうかなぁ?」と疑問視する。
確かにアイリーンは母親似だったし、だから美しい娘であった。
ちなみにその弟も容姿は母親似で、親戚中から「でかした!」とアルバーンの妻を絶賛する声が上がったとか。それも両家の親戚中からだ。
何なら姉も弟も、誕生のお祝いの前に、父親に似なかった容姿を祝う会が開かれたくらいである。
特にアイリーンの両祖父母、つまりアルバーンとその妻の両親たちは、泣いて喜んだとか。
臣下の娘になどおいそれと会えない王子は、アイリーンの顔を思い出せず、一人優雅に珈琲を味わいながら、シーラはあえて口論を止めたのか、それとも考えなしなのか、読めずにいた。
一体いつから、アルバーンがアイリーンの父親だと気付いていたのだろうか。
アイリーンの名はまだ出ていない。
王子に何一つ許可を貰わず隣に座る男も、この国にはなかなかいない。
一人さっさと座ってしまう男が目のまえで、婚約者なる娘を熱い視線で見詰めていたが。
「俺が小僧の義父になる予定だったな?」
イルハの瞳の熱が急激に冷えていった。そして再びその目はアルバーンを捉え、イルハは微笑する。
「あなたはまず、ご令嬢ご令息にご迷惑をお掛けせぬようにすることから始めた方がよろしいかと」
「なんだと?」
「再三お伝えしてきましたが、ご令嬢が望んでいない方法で目的を達成しようとするのはやめてください」
「何を!俺は娘のためを想ってだな」
「そのご令嬢が喜んでいないのですよ?」
「あいつもまだ若いから分からないんだ。小僧とくっつけば、幸せになれる。いや、幸せにしてくれるはずだったな?」
「既成事実のように聞かないでいただきたい。お断りしてきましたし、そんな約束は一度もしていませんね?」
王子はもう口を挟む気もなくなって、珈琲のお代わりを頼んでいた。
自分がいてもイルハに対してはがらりと口調を変えるアルバーンを前に、勝手にしやがれというところだ。
実は臣下に恵まれていないのではないか、と王子はちょっと自分を不憫に想うのだった。
何せどちらもまったく敬ってくれないのだから。
もしや本当に弟の方が王位に向いているのでは?あいつは可愛いからな。誰もがあいつに尽くしたくなるのは分かる。あいつが望めば俺だって王位を譲るからな。こいつらだって、あいつには懇切丁寧に……。
自身との扱いの差に、涙ぐみそうになった王子である。
「薄情なやつよ。この俺が義父になってやると言って何故喜ばぬ?」
「いい迷惑でしかありませんでしたから」
「なんだとぉ!」
ちょいちょいとイルハの袖が引かれた。
イルハが驚いて、シーラを見詰める。
シーラはちょうどチョコレートケーキを食べ終わったところで、お代わりのケーキを頼まず、ひと休憩入れたところだった。
というより、この部屋付きの使用人が次のケーキを置かなかったのだ。シーラの食のペースを完全に把握している優秀な使用人たちである。
「このお兄さんは、もしかしてアイリーンのお父さんなの?」
声を落としてこっそり尋ねるが、完全に目のまえの男にも聞かれていた。
「そうだ。俺がアイリーンの父親だ」
「わぁ。アイリーンと似ていないねぇ」
「ははっ。よく見ろ。この鼻筋なんかそっくりだろう?」
シーラは素直に首を傾げ、「そうかなぁ?」と疑問視する。
確かにアイリーンは母親似だったし、だから美しい娘であった。
ちなみにその弟も容姿は母親似で、親戚中から「でかした!」とアルバーンの妻を絶賛する声が上がったとか。それも両家の親戚中からだ。
何なら姉も弟も、誕生のお祝いの前に、父親に似なかった容姿を祝う会が開かれたくらいである。
特にアイリーンの両祖父母、つまりアルバーンとその妻の両親たちは、泣いて喜んだとか。
臣下の娘になどおいそれと会えない王子は、アイリーンの顔を思い出せず、一人優雅に珈琲を味わいながら、シーラはあえて口論を止めたのか、それとも考えなしなのか、読めずにいた。
一体いつから、アルバーンがアイリーンの父親だと気付いていたのだろうか。
アイリーンの名はまだ出ていない。
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