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♥選ぶもの

86.はたして有能なのか

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 力なく問うアイリーンに、シーラは疑問を返す。

「イルハ以外にレンスター卿という人がいるの?」

「この国にはいないはずですが……」

 イルハにだって遠縁の者はいるが、この国でレンスターを名乗れる者は本家の者だけ。
 つまり両親を亡くした今となっては、レンスターの名の付く者はタークォンではイルハだけだった。
 そして結婚すれば、これが二人になる。

 ということをシーラはまだ知らないのだとキリムは把握した。

 アイリーンは俯くと黙り込んでしまい、代わりにキリムが口を開く。

「刺激が強過ぎたみたいね」

「刺激?」

「ふふ。慣れる時間が必要なのよ。もっと話を聞かせて欲しいわ、シーラ。卿からはよく贈りものをされているの?」

「そうなんだ。そんなに要らないと言っているんだけどね」

「どんなものを頂いているのかしら?」

「色々だよ!毎日お家に何か届いているの。いつも一緒に出掛けて、お仕事をして、それで一緒に帰っているのに。いつの間に買ったんだろうね?だって休日も一緒にいるんだよ?」

「そちらの方面にも有能さを発揮されているのね。殿下が言っていた意味が分かったわ」

「王子が何か言っていた?」

「うふふ。何だったかしら。それよりどんなものが届いているか聞かせてくださる?」

 あいつ、女で身を滅ぼす男だったぞ。
 そんな話を聞いたときには、またご冗談をと笑って流していたものだが。

 おそらく勤務時間中に、仕事と称して好き勝手にしているのだろう。
 もちろんついでに街で仕事も片付けているに違いない。

 誰が見て、聞いているか、分かったものではないのに。
 それでも問題ないように対処しているとすれば、有能過ぎて嫌になるわとキリムは心中で冷ややかに判じた。
 だが、だからこそ夫の臣下であり続けて欲しいと願う。

「服と靴とリボンと本とそれからお花と……」

 シーラが子どもみたいに指折り数えながら、贈られたものを思い出していく姿をキリムはくすくすと笑いながら眺め、それから一口紅茶を味わった。


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