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♥選ぶもの

81.麗しき二人の貴婦人

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 美しき庭園のガセボに颯爽と現れた若い娘は、少し離れた場所で足を止めるとさっと腰を落として頭をさげた。

「アルバーン・シュミットが長女、アイリーンが参りました。第一王子妃殿下にご挨拶申し上げます」

「堅苦しいことはいいわ。顔を上げてちょうだい」

 アイリーンと名乗った娘が下げていた頭を上げると、その顔を見上げたシーラが固まった。

 この子は誰にでもこうなのかしら?
 キリムの心中にシーラから勝手に受け取っていた特別感を失った悲しみと共に、親心のようなものが芽生えていく。

 キリムは己が美しいことを知っていた。
 それはそうだ。第一王子妃として日々美しくなるよう沢山の人の手で磨かれて仕上げられた身体である。
 美しくならない方が難しいというもの。

 キリムはまた、アイリーンがそこまでの手を掛けずとも美しいことを知っていた。

 その作りから何もかもがアイリーンの美しさは、キリムとは対極にある。

 キリムが陽の美と称されるなら、アイリーンは陰の美。あるいは動の美と静の美か。
 キリムが足し算の美にあれば、アイリーンは引き算の美とも言えるだろう。
 派手な装いの似合うのがキリムで、落ち着いた衣装が合うのはアイリーンだ。

 そこに隠された意図はない。
 ただただ美しさの方向性が真逆にあるという話で、多くの者はどちらの美しさも認めるだろう。

 タークォンの貴婦人の中でも、その美で有名な二人である。
 ある時期までは『どちらが王子妃になるのか』あるいは『どちらの王子妃に収まるか』とひっそりと賭け事の対象になっていた二人だ。


 だからシーラが見惚れるのも当然のこと。

 それでも何かと憂いてしまう卿の気持ちが分からないでもないと思えたキリムは、イルハに同情しつつも、これらを考える間ずっと麗しき微笑は微塵も崩さずにいた。

 そんなキリムは当然アイリーンを放置するような失態を犯すわけはないので、こんなにも考えていながら、時としては一瞬で思考を済ませ、淡々とお決まりの挨拶を続けてみせる。

「来てくれて嬉しいわ。先に楽しんでいてごめんなさいね」

「こちらこそお楽しみの途中に申し訳ありません。お邪魔でなければよろしいのですが」

「時を指定して呼んだのは私よ。まずは座って。紹介するわ。シーラ、見惚れ過ぎよ?」

「はっ、ごめんなさい!」

 慌てたシーラが座ったままぺこりと頭を下げた。
 さっと引かれた椅子に音なく座ったアイリーンは、シーラを真直ぐに見据えるも、笑顔はなかった。



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