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♥選ぶもの

51.猫は気まぐれだから

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「閉じ込める……イルハは私をどこかに閉じ込めてしまうの?」

 思わず言葉を遮り尋ねるシーラに、イルハは悪びれもせずに笑顔で頷くのだ。

「そうしたいと想う気持ちは確かに持っていますよ」

 王子がいたら頭を抱えて、「何を言っているんだ、お前は」と叱ってくれていただろうか。
 しかし残念ながら、この場にこの男の暴走を止める人間はいなかった。

「イルハの言う結婚って、閉じ込めることだったの?」

「……どうでしょうねぇ。完全に否定出来るかどうか」

「えぇ!」

 シーラが目を丸くしてイルハを見詰めている。
 それなのにイルハは冗談を言った後のように愉快気に笑った。

 シーラの口がむっと尖る。

「本気で聞いているのに」

「私も本気で答えていますよ」

 途端、シーラの顔は青ざめた。

「え?私を閉じ込めちゃうの?」

「そういう気持ちがあるというだけです。それでも私はあなたから自由を奪いたくもないと思っています。ですから、一緒に行くことを選びました。あなたが海に出る際は、これからは私も共に連れ出してください」

 厚かましくはないか。
 こんなに長く覚悟を決められずに、二度もその手から離して海に送り出し、やっと再会したあとにも、うだうだと長く時間を掛けて今日まで気持ちを伝えられなかった男が、図々しくもこれからは海に出る際に一緒に行くと宣う。

 自由にさせたいと言いながら、今後は常に側で見張ると言っているようなものではないか。

 シーラも信じられない気持ちなのだろう。
 驚愕した顔でイルハを見つつ、我にかえって問い掛けた。

「イルハはタークォンを出て平気なの?」

「大丈夫です。平気にします」

 いや、駄目だろう。
 と、王子なら言っている。

 頼むから行かないでくれ。
 と、場合によっては泣き落すかもしれない。

 その憐れな声が聞こえたかどうか、シーラは笑い出した。
 それはイルハの強い圧に降参したかのようだったが……。

 その笑い声は長く続かない。

「船には誰も乗せないことにしているの」

「テンを乗せておいて今さらですか?」

「……いいのかな?」

 愛しい人の声が悲しく揺れると、イルハの瞳に籠る愛情も強まった。


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