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♥選ぶもの
30.分からないよ
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「痛いとか、怖いとか、ちゃんと言える子だけれど。本当に辛いところで笑ってしまう子だろう?その痛いときにも、自分は二の次だ」
この人は何を言っているのだろう?
「私らの前でもそうだったから、いつも無理をしていないかと心配で、よく見るようにしてきたけれど。テンちゃんは特にかわいいのだろうねぇ。あの子はテンちゃんが側にいると一段と頑張ってしまうから」
かわいがってくれていることは知っている。
頭をやたらよく撫でてくるし。
それが俺に合わせていただけだって言うの?
本当は違ったって?
「そうではないよ。テンちゃんが大事だからこそ、シーラちゃんは身体が辛いときにも頑張ってしまうんだ」
「そんな……」
「さっきの色を見たね?それを長く海で見たことはなかったんじゃないかな?」
少年は答えられなかった。
海で共に過ごしていた時間に見たことはなかったから。
「シーラちゃんは時々海でさっきのあれを放出していたはずだよ。テンちゃんがそれを見ないで済んでいたとしたら、きっと君が寝ている間にこっそりと行っていたからなんだろうねぇ」
「あれはなんなの?」
どうしてあんたの方が知っているの?
俺はずっと一緒にいたのに、なんで知らないの?
どうして俺が寝ている間にこっそりする必要があるの?
疑問が次々浮かんできたけれど、少年はひとつしか聞けなかった。
何故かは分からないけれど、口から言葉が出にくくなっている。
喉の奥に大きな何かが詰まっているみたいだ。
それに口が乾いてからからだった。
「テンちゃんとゆっくり話したいと思っていたことが沢山あってね。シーラちゃんからは許可を得ているからね」
なんだよ、それ。
勝手に許可を出すなよ。
少年は大好きなシーラにまでイライラしてきた。
それと同時に強い不安が湧きおこる。
「シーラちゃんと話す前に、私らの話を聞いてくれるかい?」
いやだ。
そう答える前に老人と逆側の肩に手が乗った。
そちら側に振り向くと老人の妻が老人と似た顔でにこにこと微笑みながら自分を見下ろしている。
「パイを焼いたのよ。テンちゃんの大好きなクリームをたっぷり挟んだわ。テンちゃんの好きなクッキーも沢山焼いてあるの。お話と一緒にどうかしら?」
普通の子どもなら、わぁっと喜ぶところだろう。
でも少年はそんなことはしたくない。
パイは嬉しい。クッキーも食べたいけれど。
「……別に」
いいよとも、いらないとも言えない。
これが少年の精一杯だった。
老夫妻は見詰め合って微笑み合い、また少年に温かい視線を戻す。
少年は手を引かれ、元居たリビングに戻された。
なんで?どうして?
色んな疑問が胸に渦巻いて、漠然とした不安は膨れ上がり少年を襲っていた。
この人は何を言っているのだろう?
「私らの前でもそうだったから、いつも無理をしていないかと心配で、よく見るようにしてきたけれど。テンちゃんは特にかわいいのだろうねぇ。あの子はテンちゃんが側にいると一段と頑張ってしまうから」
かわいがってくれていることは知っている。
頭をやたらよく撫でてくるし。
それが俺に合わせていただけだって言うの?
本当は違ったって?
「そうではないよ。テンちゃんが大事だからこそ、シーラちゃんは身体が辛いときにも頑張ってしまうんだ」
「そんな……」
「さっきの色を見たね?それを長く海で見たことはなかったんじゃないかな?」
少年は答えられなかった。
海で共に過ごしていた時間に見たことはなかったから。
「シーラちゃんは時々海でさっきのあれを放出していたはずだよ。テンちゃんがそれを見ないで済んでいたとしたら、きっと君が寝ている間にこっそりと行っていたからなんだろうねぇ」
「あれはなんなの?」
どうしてあんたの方が知っているの?
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どうして俺が寝ている間にこっそりする必要があるの?
疑問が次々浮かんできたけれど、少年はひとつしか聞けなかった。
何故かは分からないけれど、口から言葉が出にくくなっている。
喉の奥に大きな何かが詰まっているみたいだ。
それに口が乾いてからからだった。
「テンちゃんとゆっくり話したいと思っていたことが沢山あってね。シーラちゃんからは許可を得ているからね」
なんだよ、それ。
勝手に許可を出すなよ。
少年は大好きなシーラにまでイライラしてきた。
それと同時に強い不安が湧きおこる。
「シーラちゃんと話す前に、私らの話を聞いてくれるかい?」
いやだ。
そう答える前に老人と逆側の肩に手が乗った。
そちら側に振り向くと老人の妻が老人と似た顔でにこにこと微笑みながら自分を見下ろしている。
「パイを焼いたのよ。テンちゃんの大好きなクリームをたっぷり挟んだわ。テンちゃんの好きなクッキーも沢山焼いてあるの。お話と一緒にどうかしら?」
普通の子どもなら、わぁっと喜ぶところだろう。
でも少年はそんなことはしたくない。
パイは嬉しい。クッキーも食べたいけれど。
「……別に」
いいよとも、いらないとも言えない。
これが少年の精一杯だった。
老夫妻は見詰め合って微笑み合い、また少年に温かい視線を戻す。
少年は手を引かれ、元居たリビングに戻された。
なんで?どうして?
色んな疑問が胸に渦巻いて、漠然とした不安は膨れ上がり少年を襲っていた。
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