224 / 349
♥選ぶもの
7.馴れ合い
しおりを挟む
ぞろぞろと続いた男は四人。
貴公子のような男とは対照的に、小綺麗にしているとはとても言えない、つまり大変海らしい男たちだった。
「みんな、久しぶりだね!」
今度のシーラは笑顔を振り撒く。
どうやら後から入って来た四人の男たちに対しては、好意的なようだ。
「ねぇ、ヤニ。どうにかしてよ」
一番若い男に、シーラは言った。
背の低い、小柄な男だ。シーラと同じくらいの年齢だろうか。
「恥ずかしがることはないよ、シーラ。僕たちの熱い仲ではないか」
「変なことばかり言わないでよ!熱くないし!」
ヤニと呼ばれた若者は、憤るシーラの側で足を止め、申し訳無さそうに言った。
「悪いな、シーラ。馬鹿で、阿呆で、間抜けで、だらしがなくて、海でしか役に立たないうえに、役に立とうともしない、結局酒を飲むことしかしない、あるいは行方知らずか、はたまた寝てばかりのどうしようもない男でも、俺の頭なんだ。俺にはどうにも出来ない」
「ちょっと言葉が多過ぎるのではないかなぁ、ヤニ?」
頭と呼ばれた男は、とてもゆったりした口調で鷹揚に語った。
咎めるようなことを言っているのに、表情は怒るどころか、微笑んでいる。
ヤニをはじめとした四人の男たちは、シーラたちの後ろの席に陣取った。
この男の連れであろうに、見目麗しい男だけはシーラの隣から動かない。
「皆とあちらの席で食べて来なよ」
「どうしてそんなに嫌がるかなぁ?」
「そっちこそ、どうしてタークォンにいるの?」
「それはもちろん、君がいると聞いたからさ」
刺々しい言い方をしていたシーラが、むぅっと口を尖らせる。
こんな風に不穏な空気を纏うシーラは珍しくて、イルハだけでなく王子もよくシーラを観察していた。
「誰に聞いたの?」
「ラッキーたちに会っただろう。あいつらだぜ、シーラ」
ヤニの次に若そうな男が後ろで言うと、シーラは憤慨した。
「テン!次の行き先を決めたよ!ザイルメに行こう。ラッキーたちにはたっぷりとご馳走して貰わないと!」
テンがはじめて、ふわりと柔らかく微笑む。
これを見ていた王子は、素直に驚いて目を見開いてしまった。
たった今、こいつ、こんな風に怒れたんだなぁと感心していたところに、今度は、こいつ、こんな風に笑えたんだなぁという興味が加わる。
それぞれ別の、こいつ、だ。
「やっぱりね」
「え?」
「何でもないよ。次がザイルメなら楽しみだな。あそこも料理が美味いから」
「それなら僕たちも一緒に行こうか。僕もたっぷりとご馳走してあげるからね」
「いや!付いて来ないで!」
またシーラの嫌がる気障な言葉を重ねる気だろうと思われたが──。
男はしばし真顔で黙った。
「何?どうしたの?」
落ち着かなくなったシーラが目を逸らしたところで、男は手を伸ばした。
真直ぐに伸ばされた指は、シーラの額のまだ真新しい傷痕に触れている。
不思議とあれだけ嫌がっていたシーラは、その手を避けずに受け入れていた。
「またやったね、シーラ。僕がいないと本当にだめなのだから」
それはとても切ない声だった。
貴公子のような男とは対照的に、小綺麗にしているとはとても言えない、つまり大変海らしい男たちだった。
「みんな、久しぶりだね!」
今度のシーラは笑顔を振り撒く。
どうやら後から入って来た四人の男たちに対しては、好意的なようだ。
「ねぇ、ヤニ。どうにかしてよ」
一番若い男に、シーラは言った。
背の低い、小柄な男だ。シーラと同じくらいの年齢だろうか。
「恥ずかしがることはないよ、シーラ。僕たちの熱い仲ではないか」
「変なことばかり言わないでよ!熱くないし!」
ヤニと呼ばれた若者は、憤るシーラの側で足を止め、申し訳無さそうに言った。
「悪いな、シーラ。馬鹿で、阿呆で、間抜けで、だらしがなくて、海でしか役に立たないうえに、役に立とうともしない、結局酒を飲むことしかしない、あるいは行方知らずか、はたまた寝てばかりのどうしようもない男でも、俺の頭なんだ。俺にはどうにも出来ない」
「ちょっと言葉が多過ぎるのではないかなぁ、ヤニ?」
頭と呼ばれた男は、とてもゆったりした口調で鷹揚に語った。
咎めるようなことを言っているのに、表情は怒るどころか、微笑んでいる。
ヤニをはじめとした四人の男たちは、シーラたちの後ろの席に陣取った。
この男の連れであろうに、見目麗しい男だけはシーラの隣から動かない。
「皆とあちらの席で食べて来なよ」
「どうしてそんなに嫌がるかなぁ?」
「そっちこそ、どうしてタークォンにいるの?」
「それはもちろん、君がいると聞いたからさ」
刺々しい言い方をしていたシーラが、むぅっと口を尖らせる。
こんな風に不穏な空気を纏うシーラは珍しくて、イルハだけでなく王子もよくシーラを観察していた。
「誰に聞いたの?」
「ラッキーたちに会っただろう。あいつらだぜ、シーラ」
ヤニの次に若そうな男が後ろで言うと、シーラは憤慨した。
「テン!次の行き先を決めたよ!ザイルメに行こう。ラッキーたちにはたっぷりとご馳走して貰わないと!」
テンがはじめて、ふわりと柔らかく微笑む。
これを見ていた王子は、素直に驚いて目を見開いてしまった。
たった今、こいつ、こんな風に怒れたんだなぁと感心していたところに、今度は、こいつ、こんな風に笑えたんだなぁという興味が加わる。
それぞれ別の、こいつ、だ。
「やっぱりね」
「え?」
「何でもないよ。次がザイルメなら楽しみだな。あそこも料理が美味いから」
「それなら僕たちも一緒に行こうか。僕もたっぷりとご馳走してあげるからね」
「いや!付いて来ないで!」
またシーラの嫌がる気障な言葉を重ねる気だろうと思われたが──。
男はしばし真顔で黙った。
「何?どうしたの?」
落ち着かなくなったシーラが目を逸らしたところで、男は手を伸ばした。
真直ぐに伸ばされた指は、シーラの額のまだ真新しい傷痕に触れている。
不思議とあれだけ嫌がっていたシーラは、その手を避けずに受け入れていた。
「またやったね、シーラ。僕がいないと本当にだめなのだから」
それはとても切ない声だった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる