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♥選ぶもの

7.馴れ合い

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 ぞろぞろと続いた男は四人。
 貴公子のような男とは対照的に、小綺麗にしているとはとても言えない、つまり大変海らしい男たちだった。

「みんな、久しぶりだね!」

 今度のシーラは笑顔を振り撒く。
 どうやら後から入って来た四人の男たちに対しては、好意的なようだ。

「ねぇ、ヤニ。どうにかしてよ」

 一番若い男に、シーラは言った。
 背の低い、小柄な男だ。シーラと同じくらいの年齢だろうか。

「恥ずかしがることはないよ、シーラ。僕たちの熱い仲ではないか」

「変なことばかり言わないでよ!熱くないし!」

 ヤニと呼ばれた若者は、憤るシーラの側で足を止め、申し訳無さそうに言った。

「悪いな、シーラ。馬鹿で、阿呆で、間抜けで、だらしがなくて、海でしか役に立たないうえに、役に立とうともしない、結局酒を飲むことしかしない、あるいは行方知らずか、はたまた寝てばかりのどうしようもない男でも、俺のかしらなんだ。俺にはどうにも出来ない」

「ちょっと言葉が多過ぎるのではないかなぁ、ヤニ?」

 かしらと呼ばれた男は、とてもゆったりした口調で鷹揚に語った。
 咎めるようなことを言っているのに、表情は怒るどころか、微笑んでいる。

 ヤニをはじめとした四人の男たちは、シーラたちの後ろの席に陣取った。
 この男の連れであろうに、見目麗しい男だけはシーラの隣から動かない。

「皆とあちらの席で食べて来なよ」

「どうしてそんなに嫌がるかなぁ?」

「そっちこそ、どうしてタークォンにいるの?」

「それはもちろん、君がいると聞いたからさ」

 刺々しい言い方をしていたシーラが、むぅっと口を尖らせる。
 こんな風に不穏な空気を纏うシーラは珍しくて、イルハだけでなく王子もよくシーラを観察していた。

「誰に聞いたの?」

「ラッキーたちに会っただろう。あいつらだぜ、シーラ」

 ヤニの次に若そうな男が後ろで言うと、シーラは憤慨した。

「テン!次の行き先を決めたよ!ザイルメに行こう。ラッキーたちにはたっぷりとご馳走して貰わないと!」

 テンがはじめて、ふわりと柔らかく微笑む。
 これを見ていた王子は、素直に驚いて目を見開いてしまった。

 たった今、こいつ、こんな風に怒れたんだなぁと感心していたところに、今度は、こいつ、こんな風に笑えたんだなぁという興味が加わる。
 それぞれ別の、こいつ、だ。

「やっぱりね」

「え?」

「何でもないよ。次がザイルメなら楽しみだな。あそこも料理が美味いから」

「それなら僕たちも一緒に行こうか。僕もたっぷりとご馳走してあげるからね」

「いや!付いて来ないで!」

 またシーラの嫌がる気障な言葉を重ねる気だろうと思われたが──。
 男はしばし真顔で黙った。

「何?どうしたの?」

 落ち着かなくなったシーラが目を逸らしたところで、男は手を伸ばした。
 真直ぐに伸ばされた指は、シーラの額のまだ真新しい傷痕に触れている。

 不思議とあれだけ嫌がっていたシーラは、その手を避けずに受け入れていた。

「またやったね、シーラ。僕がいないと本当にだめなのだから」

 それはとても切ない声だった。


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