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♦海にあるもの

20.ひと騒動起きていた

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 今日はタークォンの休日。
 イルハとシーラが歩調を合わせて、タークォンの石造りの街並みを歩いている。

「お店で並ぶものではなくて?わざわざ仕立てるの?」

「この国では多くの民がそうしているのですよ」


 はじまりは、レンスター邸宅での夕食時に起きた恐ろしい事件からだ。
 それを恐ろしいと感じたのは、レンスター邸宅の主人と使用人夫妻だけの話である。

 いや、それもどうだろうか。
 イルハには、最近シーラの心情が繋いだ手から読めていた。
 だから、その発言の裏にあるシーラの気持ちを分かってしまったのだ。


 シーラはあの日、夕食を味わいながらこう言った。


『そろそろ食料を買い込んで、船に乗せておこうと思っているんだ。次の休日には買い物に行ってくるね』


 それはその後のシーラの湯浴み中の話だ。
 
 使用人夫妻からは「坊ちゃま、どうなっているのですか!」と責めながら状況を問われるし。
 イルハはイルハで昼間の船の男たちのせいか、それとも王子のせいかなどと、王子の責ではないと思っていたはずなのに、恨み言を連ね頭に駆け巡らせていて忙しく。

 それでもその夜、イルハはいつも通りにシーラと二人、あの蔵で過ごしていた。
 そしてイルハもこう言ったのだ。


『買い物でしたら、私が付き合いましょう。是非今回は二人きりで──』



 そうしてなんとか、テンのご機嫌を取って、いや、まったく取れてはいなかったが。
 使用人夫妻が今日はテンに邸内でのお手伝いを頼むという流れになって、イルハはシーラと二人で外に出掛けることになったのだ。


 そこでイルハはまず服を買おうと提案した。
 旅装束として使えという意味はイルハにはまったくないが、シーラはそう受け取って首を捻る。

「旅用の服なら、いつものがあるよ?」

「タークォンらしい服に興味はありませんか?」

 と問い掛けたイルハは、是非旅立つ前に贈らせてくれと願い、シーラは贈り物はもう要らないと拒んでいるのにそれを都合よく言いくるめて、強引に店まで連れて行っている最中なのだ。

 その強引さがあるならば、もうタークォンに引き留めるつもりだと伝えてしまえば良いであろうに。
 何故かそれは言わないイルハだ。

 この男にはどんな作戦があるのやら。
 経験不足でこういったことには元々疎い男だから、周囲はあまり期待しない方が良いのかもしれない。

 けれどもシーラもまた同じようにその手の話には疎い娘だから。
 珍しい者同士、上手くいく可能性もまた、無きにしも非ず。

 と、使用人夫妻は期待して、少年をあやしながら、邸で待っている。



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