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♦海にあるもの
5.まだまだ甘いが決意は固い
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この時点では早々に聞き出そうと考えていたイルハだったが、どうやって怪しまれずに聞き出すか、そのことは失念していた。
それくらいに気が動転していたということだ。
夜にあの蔵で二人きりになってからやっと思い出したとき、イルハはらしくないことに良い方法を思い付かず。
結局何も聞き出すことが出来ずに、悶々とした眠れぬ夜を過ごすことになる。
シーラはあぁ見えて意外と聡いところがあるから。
普段はものを知らないような顔をしているけれど、海での特殊な経験のせいか、妙なところで勘が鋭いのだ。
イルハはシーラに隠すつもりで情報を得てきたわけではないし、それを知ったところでシーラが怒ることはないと分かっていた。
それにもうシーラは気付いているだろう。
すでにイルハが前回の別れのときにそれを匂わせていたのだから。
それでもシーラがイルハの側にいること。それがもう答えのような気もしているイルハだったが。
あと一押しというところで、こんな話から心を閉ざされても困るわけで。
と、また色々と言い訳を並べ、なかなか聞き出すことが出来なかったのは。
実はイルハに自信がなかったせいだ。
シーラと再会出来たあの日、あれだけ拗ねた自分を知ってしまうと、さて、この情報の内容について綿密に事実確認をしていったときには、はたして自分は正気でいられるのだろうか。
そう考えてしまえば、自信も消える。
おかげでイルハは夜に時間が余り、男から受け取ったどちらの資料も隅々まで読み込むことが出来てしまった。
多少寝なくても、今のイルハは体調が万全もいいところで問題はなかったが。
それなのに翌朝シーラから顔色が悪いと心配されてしまう。
それは心に抱えた憂いが顔に出てしまったせいで、体調は本当に何ひとつ悪くなかったのだが。
シーラから何度も優しい言葉を掛けられてまんざらでもなかったイルハは、もう少し甘えていてもと、またその夜に何も聞くことをしなかった。
そして別の問題も発生していたせいで、なおこの件は後回しとなって長くイルハを悩ませることになり……。
という、この日の夜から始まったイルハの葛藤や苦労は置いておいて。
今はまだ王宮の目立たない一室にて、イルハは男と面会中だ。
男は愉快で仕方がないと、お腹を抱えながら、しばしイルハを笑っていたが。
最後にこう言った。
「彼は気まぐれだよぉ。国が乱れるかもねぇ。君にその覚悟が本当にあるのかなぁ?」
返事を待たず、男の身体は部屋から消えて、笑い声だけがしばらく残った。
部屋に一人となったイルハは、二つの資料を手元に置いて考える。
今の言葉は警告か。あるいは脅しか。それとも──。
先の理由を別にしても、早くシーラの顔を見たいとイルハは願った。
けれどもすぐに会っては、何かあったと勘付かれてしまいそうだと思ったイルハは、それから少し時間を空けることにしたのだ。
その少し置いた時間で、まさかあんなことになろうとは──。
彼らに嵌められた。
後でイルハは悟り、彼らと、そして易々と嵌められた己の未熟さに悔しさを感じることになる。
だがそれも、それだけだった。
男が最後に残した言葉が警告だろうとなんだろうと、イルハにシーラを手放す気は生じない。
イルハには三度目はないのだ。
それくらいに気が動転していたということだ。
夜にあの蔵で二人きりになってからやっと思い出したとき、イルハはらしくないことに良い方法を思い付かず。
結局何も聞き出すことが出来ずに、悶々とした眠れぬ夜を過ごすことになる。
シーラはあぁ見えて意外と聡いところがあるから。
普段はものを知らないような顔をしているけれど、海での特殊な経験のせいか、妙なところで勘が鋭いのだ。
イルハはシーラに隠すつもりで情報を得てきたわけではないし、それを知ったところでシーラが怒ることはないと分かっていた。
それにもうシーラは気付いているだろう。
すでにイルハが前回の別れのときにそれを匂わせていたのだから。
それでもシーラがイルハの側にいること。それがもう答えのような気もしているイルハだったが。
あと一押しというところで、こんな話から心を閉ざされても困るわけで。
と、また色々と言い訳を並べ、なかなか聞き出すことが出来なかったのは。
実はイルハに自信がなかったせいだ。
シーラと再会出来たあの日、あれだけ拗ねた自分を知ってしまうと、さて、この情報の内容について綿密に事実確認をしていったときには、はたして自分は正気でいられるのだろうか。
そう考えてしまえば、自信も消える。
おかげでイルハは夜に時間が余り、男から受け取ったどちらの資料も隅々まで読み込むことが出来てしまった。
多少寝なくても、今のイルハは体調が万全もいいところで問題はなかったが。
それなのに翌朝シーラから顔色が悪いと心配されてしまう。
それは心に抱えた憂いが顔に出てしまったせいで、体調は本当に何ひとつ悪くなかったのだが。
シーラから何度も優しい言葉を掛けられてまんざらでもなかったイルハは、もう少し甘えていてもと、またその夜に何も聞くことをしなかった。
そして別の問題も発生していたせいで、なおこの件は後回しとなって長くイルハを悩ませることになり……。
という、この日の夜から始まったイルハの葛藤や苦労は置いておいて。
今はまだ王宮の目立たない一室にて、イルハは男と面会中だ。
男は愉快で仕方がないと、お腹を抱えながら、しばしイルハを笑っていたが。
最後にこう言った。
「彼は気まぐれだよぉ。国が乱れるかもねぇ。君にその覚悟が本当にあるのかなぁ?」
返事を待たず、男の身体は部屋から消えて、笑い声だけがしばらく残った。
部屋に一人となったイルハは、二つの資料を手元に置いて考える。
今の言葉は警告か。あるいは脅しか。それとも──。
先の理由を別にしても、早くシーラの顔を見たいとイルハは願った。
けれどもすぐに会っては、何かあったと勘付かれてしまいそうだと思ったイルハは、それから少し時間を空けることにしたのだ。
その少し置いた時間で、まさかあんなことになろうとは──。
彼らに嵌められた。
後でイルハは悟り、彼らと、そして易々と嵌められた己の未熟さに悔しさを感じることになる。
だがそれも、それだけだった。
男が最後に残した言葉が警告だろうとなんだろうと、イルハにシーラを手放す気は生じない。
イルハには三度目はないのだ。
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