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♠国にあるもの
39.書類部屋には秘密がある
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何もない天井を見飽きたシーラは椅子から立ち上がると、壁に沿い設置された棚へと近付いていった。
幅も高さもある棚を前に立つと、シーラはとても小さく見える。
「本当に不思議」
呟きながら棚板の淵を撫でてみるも、何も感じないのかシーラは首を傾げて、ふふっと笑った。
「どんな人が作ったんだろう?」
それはシーラが仕事に復帰した二日目のことだった。
あとでイルハが聞いたところ、ただシーラは退屈で人を求めたあまりの発言だったらしい。
「書類を見たいという人は一人も来ないんだね」
せっかく綺麗に棚に仕舞った書類を、読みたいと望む人間がやって来ない。
それはこの仕事をするシーラにとっても、以前からちょっと残念に感じるところだったのだ。
暇を持て余したシーラは、二日目で気付いていた。
王子の執務室には決まった人間しか現れない。
けれどもそれは不思議なことだ。
最終決裁者の王子が承認した書類を確認するために人が来ないとは。
非承認となった書類はその部門に戻されると聞いたが、承認された書類だってまだ仕事に必要となるのではないか。
ということまで理解したのは、邸に戻りイルハが詳しく説明を聞いてからのこと。
このとき呟いたシーラにあったものは、ただただ人恋しさだけだったのだ。
すると王子はわざわざ書類部屋に入ってきて、シーラに近付き、耳元に口を寄せてこう言った。
「悪いが、その答えはここでは話せないんだ。あとでイルハから聞くといいぞ。俺がそう言っていたと伝えれば、あいつも話すだろうかな」
「秘密なの?それなら聞かないよ?」
「俺は別に秘密にしたいとは思ってねぇが、うるせぇ奴らがまだいてな。イルハもそう言うだろうから、あとで聞いてみろ。お前にも面白い話だと思うぜ」
「面白いことがあるの?帰ったら聞いてみる!」
ということがあって、シーラはタークォンの秘密を知ってしまった。
こうして着々と、イルハ、そして王子からの囲い込みが始まっているとも知らず。
『タークォンの人間と認める、それも王子の側仕えの人間にしてやろう』
あるいは。
『秘密を知ってしまったからには、タークォンからは出せないな』
と王子から言われているようなものなのだが。
そんなことを知らないシーラは、喜々と目を輝かせ、棚を見詰めていた。
幅も高さもある棚を前に立つと、シーラはとても小さく見える。
「本当に不思議」
呟きながら棚板の淵を撫でてみるも、何も感じないのかシーラは首を傾げて、ふふっと笑った。
「どんな人が作ったんだろう?」
それはシーラが仕事に復帰した二日目のことだった。
あとでイルハが聞いたところ、ただシーラは退屈で人を求めたあまりの発言だったらしい。
「書類を見たいという人は一人も来ないんだね」
せっかく綺麗に棚に仕舞った書類を、読みたいと望む人間がやって来ない。
それはこの仕事をするシーラにとっても、以前からちょっと残念に感じるところだったのだ。
暇を持て余したシーラは、二日目で気付いていた。
王子の執務室には決まった人間しか現れない。
けれどもそれは不思議なことだ。
最終決裁者の王子が承認した書類を確認するために人が来ないとは。
非承認となった書類はその部門に戻されると聞いたが、承認された書類だってまだ仕事に必要となるのではないか。
ということまで理解したのは、邸に戻りイルハが詳しく説明を聞いてからのこと。
このとき呟いたシーラにあったものは、ただただ人恋しさだけだったのだ。
すると王子はわざわざ書類部屋に入ってきて、シーラに近付き、耳元に口を寄せてこう言った。
「悪いが、その答えはここでは話せないんだ。あとでイルハから聞くといいぞ。俺がそう言っていたと伝えれば、あいつも話すだろうかな」
「秘密なの?それなら聞かないよ?」
「俺は別に秘密にしたいとは思ってねぇが、うるせぇ奴らがまだいてな。イルハもそう言うだろうから、あとで聞いてみろ。お前にも面白い話だと思うぜ」
「面白いことがあるの?帰ったら聞いてみる!」
ということがあって、シーラはタークォンの秘密を知ってしまった。
こうして着々と、イルハ、そして王子からの囲い込みが始まっているとも知らず。
『タークォンの人間と認める、それも王子の側仕えの人間にしてやろう』
あるいは。
『秘密を知ってしまったからには、タークォンからは出せないな』
と王子から言われているようなものなのだが。
そんなことを知らないシーラは、喜々と目を輝かせ、棚を見詰めていた。
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