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♠国にあるもの

27.高貴な訪問者

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 その高貴な男は、大きな袋を自ら持ったまま器用に腕を組み、レンスター邸宅の玄関に佇んでいた。

「三日は休暇を頂けるのではなかったですか?」

 イルハは昨日休暇を得ていた。
 そして今日、明日と休んだら、その翌日は元々の休日だから、四日の連休となる。
 その予定だったのだ。

「そう邪険にするな。俺は見舞いに来ただけだ。土産にいいものも持ってきたぜ」

「では明日までは休暇でよろしいですね?」

「……今日で終わりにしねぇか?ほら、明日出ても、また休みだろう?」

 王子が現れてすぐに部屋へ案内しないところに、イルハと王子の関係性が見て取れた。
 レンスター邸宅へ足を運ぶ際、王子は王家の人間としてはやって来ない。
 護衛も外に置いていた。
 だから許されることなのだ。

「昨日ご連絡した際に、殿下からご提案いただいたお話だったように思いますが?」

 昨日の朝。
 二度寝の幸せを知ったイルハは、今度こそ目覚めると休暇を取ると宣言して、リタたちを興奮させたものである。

「あの坊ちゃまがしばらくはお休みですって。休日まで続けて連休とするそうよ」

 昨日からリタは何度そう言ったか。

 シーラも前日の騒ぎが嘘のように、イルハが邸にいて嬉しいのか、にこにこと楽しそうに過ごしていた。
 ただし、包帯を変える時間を除いて。

 医者がいるときほどではなかったが。
 包帯を変えるついでに消毒を行うのだが、薬品が怖いのか、また強く嫌がって逃げようとするために、イルハもリタもオルヴェもあの手この手でシーラを落ち着かせるよう努めてきた。

 そして今、レンスター邸宅ではまた別の問題も起きている。
 だからイルハは、仕事なんて今やどうでも良いことで……それはもうずっと以前からのことかもしれない。

 イルハの優先順位は確実に入れ替わっていた。

「分かっている。分かっているが……俺が辛ぇんだ。助けてくれ」

 王子は組んでいた腕を解くと、申し訳なさそうに頭を下げた。
 ここにも王子として来ていない姿勢が表れている。
 王家の人間ならば、そう易々と臣下に頭を下げてはいけないのだから。

「それで昼間から仕事を放棄して、こちらに来たということですか?」

「……お前だけ遊んでいると思うとな」

 わざと大きなため息をついたイルハは、王子が先にしていたように腕を組むと、「返事は保留でお願いします」と言い出した。

「はぁ?なんだって?」

 王子はつい願い乞う立場を忘れ、声を荒げて聞き返してしまうのだった。



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