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♠国にあるもの
22.少年が失ったもの
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情報によれば、周辺国を含めた戦況は刻々と移り変わる状況にあって、ララエール王国が完全に消失したか、それが定まったわけではない。
ララエールの王族は国を捨て同盟国に逃げ込んだ、という話だが、まだ国の滅亡を宣言してはいなかったのだ。
一方で、ララエールを占拠した国の王家は、ララエールがすでに亡国となったことを宣言し、元ララエールの王族を引き渡せとその同盟国に強く要求している最中だと言う。
この王族がどうなるか、今の時点では何も分かっていないが。
彼らが土地と民を捨てた時点で、ララエール王国の再建は厳しいだろう。
国に残る人々の意識が王族から離れてしまったはずだから。
シーラもそんなララエールにテンを戻したらどうなるか分かっているから悩んだ。
そして悩みながら、テンの意志に押され、結局は船に乗せてしまう。
一時的だと言っているそうだが。
少年本人はどう思っているのやら。
「坊ちゃま。あの子のことは私ら夫婦で引き取る方向でよろしいのですよね?」
「そうですね。ですがシーラが言うに、彼は祖国への想いが強いそうですから。ことは慎重に運ばなければなりません」
「当然ですとも。私らも無理強いをする気はありませんからな。それに里親としては、もっとお若い夫婦の方が喜ばれるかもしれませんし」
含みたっぷりに片目を瞑る老人に、イルハは使用人とは何だろうかと考えてしまうのだった。
この自由さを許してきたのは、他でもない雇い主であるイルハ自身であって、その親の代から継承された意識でもあるのだが。
王宮の使用人の働きぶりを今日ほど目の当たりにしたことのなかったイルハは、違う意味で感心しているのだった。
別に自身の雇う使用人夫妻に何かあるわけではない。彼らと、王宮の彼らは別ものなのだ、と改めて実感しただけ。
その働きぶりはどちらが優れているかと比較するものではないし、どちらも称賛に値する。
けれども我が邸の使用人との関係は、本当に特殊なものだったのだな、と。
イルハは思うのである。
そしてこの使用人夫妻を最後まで大切にしよう、面倒を見ようと、改めて決意する。
それは当然彼女と一緒に──。
だからイルハがここで咎めるのは。
「おかしなことを考えないように」
その内容についてだ。
主人に過ぎた発言をするな、と使用人を叱ったことがイルハにはない。
それなのに、この国のあらゆるところで恐れられている不思議な男だ。
「分かっておりますとも。最初から養子がいては、坊ちゃまも新婚の楽しいときを──」
「そういうことを考えないようにと言っているのです」
オルヴェの言葉をついつい遮ってしまうイルハだった。
豊かな身体を揺らし「今さらですよ、坊ちゃま」と言ったあとも、オルヴェは朗らかに笑い、その体を揺らし続けている。
心配だったシーラが無事に戻り、傷のことは気になるも、オルヴェもほっとしているのだろう。
いつも以上に饒舌で、よく笑っているのだから。
オルヴェはまた、シーラが妻に懐いたことも嬉しかったのかもしれない。
この調子なら、主人はもう二度とシーラを海に送り出すような愚かな真似をして苦しむことはないだろう。
そう想えば、愉快で仕方がないことも分かる。
ララエールの王族は国を捨て同盟国に逃げ込んだ、という話だが、まだ国の滅亡を宣言してはいなかったのだ。
一方で、ララエールを占拠した国の王家は、ララエールがすでに亡国となったことを宣言し、元ララエールの王族を引き渡せとその同盟国に強く要求している最中だと言う。
この王族がどうなるか、今の時点では何も分かっていないが。
彼らが土地と民を捨てた時点で、ララエール王国の再建は厳しいだろう。
国に残る人々の意識が王族から離れてしまったはずだから。
シーラもそんなララエールにテンを戻したらどうなるか分かっているから悩んだ。
そして悩みながら、テンの意志に押され、結局は船に乗せてしまう。
一時的だと言っているそうだが。
少年本人はどう思っているのやら。
「坊ちゃま。あの子のことは私ら夫婦で引き取る方向でよろしいのですよね?」
「そうですね。ですがシーラが言うに、彼は祖国への想いが強いそうですから。ことは慎重に運ばなければなりません」
「当然ですとも。私らも無理強いをする気はありませんからな。それに里親としては、もっとお若い夫婦の方が喜ばれるかもしれませんし」
含みたっぷりに片目を瞑る老人に、イルハは使用人とは何だろうかと考えてしまうのだった。
この自由さを許してきたのは、他でもない雇い主であるイルハ自身であって、その親の代から継承された意識でもあるのだが。
王宮の使用人の働きぶりを今日ほど目の当たりにしたことのなかったイルハは、違う意味で感心しているのだった。
別に自身の雇う使用人夫妻に何かあるわけではない。彼らと、王宮の彼らは別ものなのだ、と改めて実感しただけ。
その働きぶりはどちらが優れているかと比較するものではないし、どちらも称賛に値する。
けれども我が邸の使用人との関係は、本当に特殊なものだったのだな、と。
イルハは思うのである。
そしてこの使用人夫妻を最後まで大切にしよう、面倒を見ようと、改めて決意する。
それは当然彼女と一緒に──。
だからイルハがここで咎めるのは。
「おかしなことを考えないように」
その内容についてだ。
主人に過ぎた発言をするな、と使用人を叱ったことがイルハにはない。
それなのに、この国のあらゆるところで恐れられている不思議な男だ。
「分かっておりますとも。最初から養子がいては、坊ちゃまも新婚の楽しいときを──」
「そういうことを考えないようにと言っているのです」
オルヴェの言葉をついつい遮ってしまうイルハだった。
豊かな身体を揺らし「今さらですよ、坊ちゃま」と言ったあとも、オルヴェは朗らかに笑い、その体を揺らし続けている。
心配だったシーラが無事に戻り、傷のことは気になるも、オルヴェもほっとしているのだろう。
いつも以上に饒舌で、よく笑っているのだから。
オルヴェはまた、シーラが妻に懐いたことも嬉しかったのかもしれない。
この調子なら、主人はもう二度とシーラを海に送り出すような愚かな真似をして苦しむことはないだろう。
そう想えば、愉快で仕方がないことも分かる。
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