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♠国にあるもの
19.医者の方が寝込みそうです
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イルハは一言。
「非礼をお許しください」
王子にそう伝えると、シーラを抱えた状態でソファーに座った。
この男は何をしているのだろう。
しかし王子がそこで何も言わなければ、他に意見をする者がいるわけはないので。
医者は笑顔を引き攣らせながら、イルハの膝の上に乗った娘に近付いていった。
ところが。
それだけでびくりと身体が揺れて、娘が本気で怯えていることが分かる。
そこで医者は改めて確認することにした。
「お嬢ちゃん、殿下も聞いておられたことだけれど。私の、医者のどこが怖いか言えるかな?」
「ぐす……全部」
「その中でも特別に怖い部分などはないかな?」
「特別に?」
「そうだよ。私を見て怯えていたね?もしかして、見た目に怖いと感じる部分はあるだろうか?」
シーラはじっと医者を眺めていたが、それで余計に怖くなったのか、後ろから回されていたイルハの腕に押し付けるようにして顔を隠した。
するとイルハは堂々、人目も気にせずシーラの頭を撫でていく。
だから、この男は何をしているのだろう?
「……白いの」
それはとてつもなく小さな声だったのに、医者は聞き洩らさなかった。
「もしかして、白衣かい?」
「ぐすん。その白いのは嫌い。どこの国でも同じ服を着ているのはどうして?みんな、仲間だから?」
シーラはその顔を見ていなかったが、医者はにこにこと微笑んで「それでは脱ごう」と言った。
そして本当に、さっさと白衣を脱いでいく。
イルハが耳元で何か囁くと、シーラはゆっくり顔を上げて医者を見て、目を丸くした。
それからすぐに振り返って、イルハに問うのだ。
「仲間ではなかったの?」
「我が国の医者が、他国の医者と連携しているようなことはありませんよ。白衣を脱いで、怖くなくなりましたか?」
「うーん……少しだけ?医者はみんな怖いよ。医者という呼び方が怖いからね」
「ならば、我が国では呼び名を変えることにいたしましょう」
「……お前なぁ」
呆れた声は王子からだ。
ここで何も言わなければ、本当にイルハは新しい医者の呼び方を提案し、それを通そうとするだろう。
普段から冗談が冗談にならない男だから。
なのにイルハは言った。
「冗談ですよ、殿下。ですがあなたには、今この時だけは、医者でないことにしていただきたい。よろしいですね?」
「は、はひ。もちろん。そうですな。ただの……治療役です。えぇ、治療の少し出来る男としてここに参りましたとも」
さて、これで上手くいくだろうと、この部屋の誰もがほっと息を吐いたときだった。
白衣を脱いだ医者が笑顔でシーラに近付くと……またシーラが怖いと言って泣き始めたのだ。
何故だ、と医者は叫びたくなった。
この調子では治療を始めてからはもっと大変なことになったことがお分かりだろう。
医者は次にこの娘の治療に携わることがあれば、そのときには必ず眠らせてから治療をしようと固く決意するのだった。
「非礼をお許しください」
王子にそう伝えると、シーラを抱えた状態でソファーに座った。
この男は何をしているのだろう。
しかし王子がそこで何も言わなければ、他に意見をする者がいるわけはないので。
医者は笑顔を引き攣らせながら、イルハの膝の上に乗った娘に近付いていった。
ところが。
それだけでびくりと身体が揺れて、娘が本気で怯えていることが分かる。
そこで医者は改めて確認することにした。
「お嬢ちゃん、殿下も聞いておられたことだけれど。私の、医者のどこが怖いか言えるかな?」
「ぐす……全部」
「その中でも特別に怖い部分などはないかな?」
「特別に?」
「そうだよ。私を見て怯えていたね?もしかして、見た目に怖いと感じる部分はあるだろうか?」
シーラはじっと医者を眺めていたが、それで余計に怖くなったのか、後ろから回されていたイルハの腕に押し付けるようにして顔を隠した。
するとイルハは堂々、人目も気にせずシーラの頭を撫でていく。
だから、この男は何をしているのだろう?
「……白いの」
それはとてつもなく小さな声だったのに、医者は聞き洩らさなかった。
「もしかして、白衣かい?」
「ぐすん。その白いのは嫌い。どこの国でも同じ服を着ているのはどうして?みんな、仲間だから?」
シーラはその顔を見ていなかったが、医者はにこにこと微笑んで「それでは脱ごう」と言った。
そして本当に、さっさと白衣を脱いでいく。
イルハが耳元で何か囁くと、シーラはゆっくり顔を上げて医者を見て、目を丸くした。
それからすぐに振り返って、イルハに問うのだ。
「仲間ではなかったの?」
「我が国の医者が、他国の医者と連携しているようなことはありませんよ。白衣を脱いで、怖くなくなりましたか?」
「うーん……少しだけ?医者はみんな怖いよ。医者という呼び方が怖いからね」
「ならば、我が国では呼び名を変えることにいたしましょう」
「……お前なぁ」
呆れた声は王子からだ。
ここで何も言わなければ、本当にイルハは新しい医者の呼び方を提案し、それを通そうとするだろう。
普段から冗談が冗談にならない男だから。
なのにイルハは言った。
「冗談ですよ、殿下。ですがあなたには、今この時だけは、医者でないことにしていただきたい。よろしいですね?」
「は、はひ。もちろん。そうですな。ただの……治療役です。えぇ、治療の少し出来る男としてここに参りましたとも」
さて、これで上手くいくだろうと、この部屋の誰もがほっと息を吐いたときだった。
白衣を脱いだ医者が笑顔でシーラに近付くと……またシーラが怖いと言って泣き始めたのだ。
何故だ、と医者は叫びたくなった。
この調子では治療を始めてからはもっと大変なことになったことがお分かりだろう。
医者は次にこの娘の治療に携わることがあれば、そのときには必ず眠らせてから治療をしようと固く決意するのだった。
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