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♦三度目
50.まだ知らない男
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イルハはここから一段と声色を柔らかくして言った。
「つまりですね。あなたがよく働ける魔術師であると周りが認めたとしましょう。補助となるテンを連れて来たら、もっとよく働いてくれるのでは?と期待しますよね。そういうことです。お分かりになりましたか?」
「私が頑張れば、テンを連れて来てもいいということね!」
「えぇ。そうなろうことを、私は期待しています」
含みたっぷりに、イルハは王子へと視線を送った。
二人の会話をにやにやと笑って見守っていた王子は、はいはいと応じるようにして二人に片の手のひらを掲げてみせる。
シーラは大喜びで、隣のテンに向かって言った。
「聞いていた、テン?私が頑張ると、テンも王宮に来られるようになるんだって!だから少しだけ、イルハのお家でいい子にしていてくれる?なるべく早くテンを呼べるようにするからね」
「……俺はいつもいい子だし」
ぷはっと吹き出した王子は、テンに睨まれることになった。
それでも王子はしばらく笑い続けている。
シーラが問い掛けたのは、その笑いが収まってからだ。
「ねぇ、王子。ひとつ聞いてもいい?」
「おぅ、ひとつと言わず、いくらでも聞けよ」
「さっきのお仕事も、いつもは誰か別の人がしていたのでしょう?」
「あぁ、いつもは魔術なしに三人掛かりで働いているな。書類を持って梯子を上ったり、下りたりと、なかなかに重労働の仕事なんだぜ」
「その人たちはどうなっているの?私のせいで仕事を失くして困っていない?」
王子は驚き、片眉を上げて、それからイルハを見やった。
やはりというか、ここでもイルハは素知らぬ顔でシーラだけを見て微笑んでいる。
臣下からは何も答えが得られぬと分かった王子の視線は、シーラへと戻った。
分からぬ顔をして、意外と考えているのだとすれば……。
王子のこれからへの期待は、さらに膨れた。
すると王子の声色もいつになく柔らかくなって、言い終える前からシーラを安心させることになる。
「心配は要らねぇぜ。お前が来てくれたおかげで、もっと有意義な仕事をさせられるようになったんだからな。書類を仕舞うだけの仕事からやっと解放されたと、三人も喜んでいたんだぜ?」
この部屋にある者たちは、一斉にシーラへの感心を示していた。
よく食べよく働きよく話す明るい魔術師は、いつもの音を使わずに、周囲を取り込んでいく。
ひとまず安心だと、イルハは人知れずほっと息を吐いていた。
まさかこの日シーラに掛けた言葉をすぐに後悔することになるなんて、イルハだって読めないことがある。
「つまりですね。あなたがよく働ける魔術師であると周りが認めたとしましょう。補助となるテンを連れて来たら、もっとよく働いてくれるのでは?と期待しますよね。そういうことです。お分かりになりましたか?」
「私が頑張れば、テンを連れて来てもいいということね!」
「えぇ。そうなろうことを、私は期待しています」
含みたっぷりに、イルハは王子へと視線を送った。
二人の会話をにやにやと笑って見守っていた王子は、はいはいと応じるようにして二人に片の手のひらを掲げてみせる。
シーラは大喜びで、隣のテンに向かって言った。
「聞いていた、テン?私が頑張ると、テンも王宮に来られるようになるんだって!だから少しだけ、イルハのお家でいい子にしていてくれる?なるべく早くテンを呼べるようにするからね」
「……俺はいつもいい子だし」
ぷはっと吹き出した王子は、テンに睨まれることになった。
それでも王子はしばらく笑い続けている。
シーラが問い掛けたのは、その笑いが収まってからだ。
「ねぇ、王子。ひとつ聞いてもいい?」
「おぅ、ひとつと言わず、いくらでも聞けよ」
「さっきのお仕事も、いつもは誰か別の人がしていたのでしょう?」
「あぁ、いつもは魔術なしに三人掛かりで働いているな。書類を持って梯子を上ったり、下りたりと、なかなかに重労働の仕事なんだぜ」
「その人たちはどうなっているの?私のせいで仕事を失くして困っていない?」
王子は驚き、片眉を上げて、それからイルハを見やった。
やはりというか、ここでもイルハは素知らぬ顔でシーラだけを見て微笑んでいる。
臣下からは何も答えが得られぬと分かった王子の視線は、シーラへと戻った。
分からぬ顔をして、意外と考えているのだとすれば……。
王子のこれからへの期待は、さらに膨れた。
すると王子の声色もいつになく柔らかくなって、言い終える前からシーラを安心させることになる。
「心配は要らねぇぜ。お前が来てくれたおかげで、もっと有意義な仕事をさせられるようになったんだからな。書類を仕舞うだけの仕事からやっと解放されたと、三人も喜んでいたんだぜ?」
この部屋にある者たちは、一斉にシーラへの感心を示していた。
よく食べよく働きよく話す明るい魔術師は、いつもの音を使わずに、周囲を取り込んでいく。
ひとまず安心だと、イルハは人知れずほっと息を吐いていた。
まさかこの日シーラに掛けた言葉をすぐに後悔することになるなんて、イルハだって読めないことがある。
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