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♦三度目
48.上機嫌な王子様
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「年齢的な話だから、いちいち反論しないでくれ。いくら中身が大人でも、年齢だけはどうにもならねぇだろう?それでだ、テン。しばらくはレンスター邸で働いておいてくれねぇか?」
王子は少年の機嫌を損ねないようよく配慮して言葉を選んだ。
一国の王子にここまで気を遣わせるこの赤毛の少年は、将来大物になりそうだ。と実はこのとき思っていたのだと、使用人の一人が語ったのは何年も経ってからのこと。
「イルハのお家でも働けたの!」
元気よく返答したのは、またシーラだ。
王子はうんざりしつつ、それでも優しい顔で諭すように言った。
どうやらこの王子、シーラをテンと変わらぬ子どもとして捉えているようだ。
「確かに俺が働くと言ったが、手伝いをした子どもに小遣いをやる形だぜ。私的な場で子どもに小遣いをやることまでは、我が国でも禁じていないからな。それが商売なんかの手伝いになるとちとまずいが。家のことを手伝う程度は問題ない。子どもらしくて不満だろうが、しばらくはそれで我慢してくれよ。いいな、テン」
「……シーラはここに通うんだよね?」
「お前も来られるように考えてやるから、しばし待てと言っている」
「……早くしてよ」
テンは不満気にぷいっと顔を背けたが、最初の態度を考えれば、王子に懐いた感じが受け取れた。
しかしシーラは、このテンの態度も心配だったようだ。
テンがまた拗ねて心を閉ざしてしまうのではないかと恐れたのであろう。
けれどもシーラがここで見せたテンへの気遣いは、タークォン側の大人たちが望む形ではなかったのである。
「ねぇ、イルハ。私もお家で何かお手伝いが出来ないかな?あ、でもね、お金は要らないんだよ?お小遣いのためのお手伝いではなくてね。このままお家に長く泊まらせて貰うなら、そのお礼に何か出来ないかなと思って」
シーラが語る間に、王子とイルハがそっと目を合わせた。
こういうときだけ目を合わせやがって、と王子は嫌味を込めてイルハを睨んでやるも、イルハはどこ吹く風ですでに王子など見ておらず、優しい瞳でシーラを見詰めているのだった。口元には笑みさえ乗せて。
こいつ、こんな男だったろうか。
王子は珍獣でも見るように臣下を眺め、また一人、笑みを零す。
これから至極面白くなりそうだ。
王子は少年の機嫌を損ねないようよく配慮して言葉を選んだ。
一国の王子にここまで気を遣わせるこの赤毛の少年は、将来大物になりそうだ。と実はこのとき思っていたのだと、使用人の一人が語ったのは何年も経ってからのこと。
「イルハのお家でも働けたの!」
元気よく返答したのは、またシーラだ。
王子はうんざりしつつ、それでも優しい顔で諭すように言った。
どうやらこの王子、シーラをテンと変わらぬ子どもとして捉えているようだ。
「確かに俺が働くと言ったが、手伝いをした子どもに小遣いをやる形だぜ。私的な場で子どもに小遣いをやることまでは、我が国でも禁じていないからな。それが商売なんかの手伝いになるとちとまずいが。家のことを手伝う程度は問題ない。子どもらしくて不満だろうが、しばらくはそれで我慢してくれよ。いいな、テン」
「……シーラはここに通うんだよね?」
「お前も来られるように考えてやるから、しばし待てと言っている」
「……早くしてよ」
テンは不満気にぷいっと顔を背けたが、最初の態度を考えれば、王子に懐いた感じが受け取れた。
しかしシーラは、このテンの態度も心配だったようだ。
テンがまた拗ねて心を閉ざしてしまうのではないかと恐れたのであろう。
けれどもシーラがここで見せたテンへの気遣いは、タークォン側の大人たちが望む形ではなかったのである。
「ねぇ、イルハ。私もお家で何かお手伝いが出来ないかな?あ、でもね、お金は要らないんだよ?お小遣いのためのお手伝いではなくてね。このままお家に長く泊まらせて貰うなら、そのお礼に何か出来ないかなと思って」
シーラが語る間に、王子とイルハがそっと目を合わせた。
こういうときだけ目を合わせやがって、と王子は嫌味を込めてイルハを睨んでやるも、イルハはどこ吹く風ですでに王子など見ておらず、優しい瞳でシーラを見詰めているのだった。口元には笑みさえ乗せて。
こいつ、こんな男だったろうか。
王子は珍獣でも見るように臣下を眺め、また一人、笑みを零す。
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