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♦三度目
23.美しくよく食べる娘
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それがどんなに緩み切った一般的には素敵とは言い難い笑みであっても、シーラは喜ぶ。
「イルハもそう思っていたのね?」
「そうですね。少しずつ話をしていく方が良いかもしれません。時間はたっぷりとあるのですから」
一部強調して言ったイルハにも、シーラはにこやかな顔で頷いた。
分かっているのか、そうではないのか。
ここで意見したのはリタだ。
「ですけれど、坊ちゃま。最後まで聞かなくては、私はもう気が気ではなくて」
その気持ちは多分に理解出来るイルハだったし、昨夜は同じことをシーラに伝え、最後まで話して貰っていたのだ。
だからイルハには何も言う資格はないのだが。
歳を重ねた使用人にこれほど泣かれてしまうと、その身を案じたくなるものである。
オルヴェとて今は泣きこそしていないが、顔色は悪く、心を強く痛めていると思われた。
シーラの話は、老人には刺激が強過ぎたのだ。
だからイルハは、イルハらしからずとても明るく言った。
その顔に笑顔まで乗せてだ。
「話ならば、昨夜私が一通り聞いておりますし。今は目の前にシーラがあるのですから。まずはそれで安心出来ませんか?」
「そうだよ、リタ。私はこんなに元気なんだよ!だから何も問題なかったからね!」
シーラの自信たっぷりの笑みを見たリタは……大号泣であった。
「そうね。とても元気で。うぅ……良かったわ。本当に、無事でいてくれて……有難いわ、シーラちゃん。本当にありがとう、シーラちゃん。また元気な姿で会いに来てくれて。うぅ……あなたっ」
椅子に座ったまま、オルヴェに抱き寄せられたリタは、それからしばらく泣いていた。
おろおろと慌てたシーラも、イルハに促されてはよく食べる。
目の前で人が泣いているわりには、まぁ、食べた。
昨夜もイルハの前でよく飲み、よく食べていたものだが。
それでは足りていなかったとでもいうように、皿からは見る間に料理が消えていく。
その見事なまでの食べっぷりが美しい所作のままに行われていくことに、イルハは感心してしばしシーラに見惚れていた。
それで少しの間、少年のことを忘れてしまう。
だから赤毛の少年が、いつから朝食に夢中となるシーラの顔を凝視していたのか。
それは誰にも分からない。
「イルハもそう思っていたのね?」
「そうですね。少しずつ話をしていく方が良いかもしれません。時間はたっぷりとあるのですから」
一部強調して言ったイルハにも、シーラはにこやかな顔で頷いた。
分かっているのか、そうではないのか。
ここで意見したのはリタだ。
「ですけれど、坊ちゃま。最後まで聞かなくては、私はもう気が気ではなくて」
その気持ちは多分に理解出来るイルハだったし、昨夜は同じことをシーラに伝え、最後まで話して貰っていたのだ。
だからイルハには何も言う資格はないのだが。
歳を重ねた使用人にこれほど泣かれてしまうと、その身を案じたくなるものである。
オルヴェとて今は泣きこそしていないが、顔色は悪く、心を強く痛めていると思われた。
シーラの話は、老人には刺激が強過ぎたのだ。
だからイルハは、イルハらしからずとても明るく言った。
その顔に笑顔まで乗せてだ。
「話ならば、昨夜私が一通り聞いておりますし。今は目の前にシーラがあるのですから。まずはそれで安心出来ませんか?」
「そうだよ、リタ。私はこんなに元気なんだよ!だから何も問題なかったからね!」
シーラの自信たっぷりの笑みを見たリタは……大号泣であった。
「そうね。とても元気で。うぅ……良かったわ。本当に、無事でいてくれて……有難いわ、シーラちゃん。本当にありがとう、シーラちゃん。また元気な姿で会いに来てくれて。うぅ……あなたっ」
椅子に座ったまま、オルヴェに抱き寄せられたリタは、それからしばらく泣いていた。
おろおろと慌てたシーラも、イルハに促されてはよく食べる。
目の前で人が泣いているわりには、まぁ、食べた。
昨夜もイルハの前でよく飲み、よく食べていたものだが。
それでは足りていなかったとでもいうように、皿からは見る間に料理が消えていく。
その見事なまでの食べっぷりが美しい所作のままに行われていくことに、イルハは感心してしばしシーラに見惚れていた。
それで少しの間、少年のことを忘れてしまう。
だから赤毛の少年が、いつから朝食に夢中となるシーラの顔を凝視していたのか。
それは誰にも分からない。
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