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♠二度目

26.二度目

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 一度手を緩めておきながら、飛び込んで来られたら腕の中から離せなくなったイルハは、しばらくシーラを抱きしめていた。
 シーラもまた離れがたく思っていたのか、イルハの腕に囚われたままなかなか動き出そうとしない。

 それでも時間は刻々と過ぎていき、空の頂点にあった日がゆっくりと落ち始めたとき。

「もう行かないと」

 呟くシーラを、なんとかイルハが離したかと思えば。

 待ってましたとばかりに、リタとオルヴェが順にシーラを捕まえては、何度目かも分からずにそれぞれが抱き締めていく。すると今度はイルハが二人に刺激され、またシーラを抱き締めるのだった。

 なかなか別れのときが終わりを迎えなかったことは言うまでもなく。

 陽がさらに傾いて、陽に輝く海の明るさが陰りを見せ始めたとき。
 ついにシーラは三人を振り切って船へと飛び乗った。

 そのあとは早かった。
 船はすぐに動き出して、あるところで白い帆が掲げられると、ふ頭に残された三人に別れを悲しむときも与えずして、大海へと消えていく。


 先にリタたちを帰したあとも、イルハは一人ふ頭に残って、日暮れまで海を眺めた。

 すでに切なさは募り、イルハの後悔は無尽蔵に膨れ上がっている。
 こんな苦しさを抱え厳しい冬を過ごさねばならない事実をひしひしと実感して、イルハは先が重く思いやられるも、その先には希望を持った。

 また来年の夏に。
 シーラは言った。だからあと半年。

 冬の間にこちら側で出来ることはすべて整えておかなければ。
 夕陽に燃える海がやがて暗闇へと沈んでいったあと、イルハは決意を胸に帰路に着く。


 楽しいシーラとの時間と交換するようにタークォンに長い冬がやって来たのはその翌日のこと。
 今年は冬の訪れが早かった。

 もう夏が恋しい。
 違う。シーラが恋しい。

 イルハは寒々とした薄雲の広がる冬空を見上げては、まだ夏の青空の下にあろうシーラを想った。
 どうか無事で。確かに彼らに守られてありますように。

 祈りが届いていたか、冬のタークォンにある間、イルハには確かめる術がない。


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