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♠二度目

18.二度目にして近付いた距離

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 シーラが食卓に向かうまで、イルハはシーラの片手を取って支えとなり、空いた手は後ろから回して脇腹辺りを支えてやった。
 無意識のうちにそうしていたのは、昨夜倒れたときに抱え上げたことで、触れることへの抵抗感が完全に消失していたからだろう。

 指先から素のままの肌に触れたとき、イルハが自問して、すぐにその答えへと思い至ったのは、イルハの脳裏に昨夜シーラが巻いていたマフラーが映ったからだ。

 この布は──そういうことか。

 熱を帯びた手から伝わる温度が、イルハの胸をじんわりと温める。
 ならば少しくらいこちらの希望が実現する可能性を探ってみてもいいのではないか。
 イルハは少しだけ先より考えを改めた。


「一人で歩けるよ?」

「また倒れたら困るでしょう。どうぞ私のことは支えにしてください」

 まだ少し体は熱かったが、昨夜ほどのものではなく、シーラの体は確実に快方に向かっている。



 食事の席に座ると、シーラはすぐに皆が望まぬことを言い出した。

「もう明日にはすっかり良くなっていると思うよ。ありがとうね、みんな。今回は迷惑ばかり掛けてしまって申し訳ないのだけれど、とてもお礼をする時間はなさそうなんだ。明日は急いで買い出しを済ませようと思うから、そのときに何か買えたらいいのだけれど……」

 リタが急ぎキッチンから戻って来る。
 この家の使用人たちは、歳の割には耳が優れているらしい。

「シーラちゃん、無理はしないでいいわ。すっかり良くなるまで、このお家に居たらいいのよ」

「そうだとも。船の上で倒れたら大変だから、まだこの家でのんびりしておくといい」

 リタもオルヴェもシーラをタークォンに引き留めようと必死だ。
 だがシーラは彼らの期待に応えずして、首を振る。

「有難いけれどね。そうゆっくりもしていられないんだよ。冬が来て海が凍ったら、船が出せなくなるでしょう?なんだか嫌な予感がするから、なるべく早く動かないと」

 シーラ以外の三人は、こっそりと目を合せた。

 イルハには、リタとオルヴェが何を考え自分を見ているか、よく分かっている。
 そしてまた、それが分かるのも自身が同じ企みを持っているからこそだと知っていた。

 そんな自分がとても嫌な人間に思え、イルハの体中に苦々しいものが広がっていく。


 無理やりにこの地に縛り付けたとき、シーラはどうなるのだろう?
 苦しんだ彼女を前に、自分は責任を取れるのか?


 悶々とするイルハを無視して、リタは昼間やけに幼く感じた少女を自分たちの思惑通りに誘導しようと、動き出した。

「あら、シーラちゃん。そんなに急いで行ってしまったら、私たちも寂しいのよ。せっかくまた会えたばかりだもの。もう少しの間、シーラちゃんにはここにいて欲しいわね。もしかして、次の予定でもあるのかしら?」



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