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♠二度目

14.砂糖菓子のように

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 シーラが少し寝て目覚めると、まだリタはシーラの側に居た。
 椅子に座り、老眼鏡を掛けて、縫い物をしている。

「寝てばかりでごめんね、リタ」

 リタは手を止め、眼鏡を膝に置くと、手を伸ばしてシーラの額を撫でた。
 濡れた額に、着替えを用意しなければとリタは思う。

「いいのよ。お世話をする人がいるのも嬉しいものだわ。薬が効いてきたわね」

「うん、楽になったよ」

「お腹は空くかしら?」

「うーん、まだそんなに」

 リリリンと遠くから鐘の音が鳴り響いた。

「あらあら、またねぇ」

 オルヴェは買い出し中で、リタは仕方なくゆっくりと立ち上がった。
 相手が分かっているから、慌てることもない。

「誰か来ているの?リタも忙しいなら、構わないで大丈夫だよ」

「あれは通信機なの。坊ちゃまったら、心配で堪らないのねぇ」

「通信機って?船の無線機みたいなもの?」

「そうねぇ、同じようなものかしら?」

 聞かれたリタは、船の無線機がどのようなものか分からないし、通信機の構造だって知らなかったから、シーラの好奇心を満たしてやることが出来ない。
 そんな困り顔のリタに、シーラはある提案をする。


 すぐにリタが廊下の棚に置かれた小さな箱型の通信機を持って、ケーブルを引き延ばしながら、シーラの部屋に戻って来た。
 それからリタは元居た場所に座ると、受話器をシーラに渡して、躊躇いなく通信ボタンを押す。

「私です。なかなか出ませんでしたが、何かあったのですか?」

「本当にイルハなの?いつもと声が違うみたい」

 しばらく間が空いた。
 シーラは首を傾げてちらとリタを見たが、リタは満面の笑みで頷くだけだ。

 そのうち、無線機に声が戻った。

「シーラなのですか?起きていて平気なのです?」

「大丈夫だよ。薬が良く効いてね。イルハも私のことは気にしないで、仕事をしていてね」

 いつもよりおっとりとした口調だが、イルハを安堵させるのに十分なしっかりとした声だった。
 通信機を通した声は、いつもより可憐に聴こえ、イルハの耳がくすぐったい。

「熱はどうです?」

「下がって、楽になったよ」

 イルハの言葉も自然とシーラに合わせて、ゆったりとしたものになった。
 王宮でこのような口調で話した経験など、イルハにはない。

「何か食べたいものはありますか?買って帰りますよ」

「うぅん、何もいらないけど……」

 その後の言葉が続かない。シーラも少し迷ったようだ。
 それでイルハが先に聞いた。

「何かして欲しいことがありますか?何でも言っていいのですよ」

「うん。何もしなくていいから、早く帰って来て欲しいな」

 イルハははっと息を呑んだあと、またしばらく沈黙した。

 何かまずいことを言ったのではないかと心配になったシーラがリタを見ると、何故かリタは笑顔でうんうんと頷き返して、ますますシーラは困惑する。

 困ったシーラが口を開きかけたときだ。

「分かりました。今日は早く帰ります」

 落ち着いた神妙な声が、シーラがそれを取り消すことを絶対に認めないと主張しているようで、リタはくすくすと笑ってしまうのだった。



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