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♠二度目

5.駄々っ子は願う

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 シーラが到着した日の翌朝、レンスター邸宅は大騒ぎとなった。 
 起きて来たシーラが、真っ赤に頬を染めていたからだ。熱があることは、誰の目にも明らかである。

「まぁ、風邪ねぇ」

「嫌だよ!今日も行く!」

 まだ誰も止める前から、シーラは懇願するように言った。
 その必死さには、誰もが胸を打つ。

「祭りは来年もあるわよ、シーラちゃん」

「そうだよ。来年もまた来たらいいんだ」

「来年もあっても、今日の祭りは今日しかないよ」

 頬を真っ赤に染めながら、駄々を捏ねる子どものように嫌々と首を振るシーラの姿に、シーラを囲む三人はそっと視線を合わせた。
 視線だけで対応を協議したのだ。

 とはいえ、決めるのはこの家の主イルハである。
 使用人たちの視線はシーラを家で休ませろと語っていたが、イルハはふぅっと柔らかなため息を漏らしてから微笑した。

 それだけで、シーラの瞳がぱっと輝く。

「まずは医者に診ていただいてから、決めることにしましょう」

 イルハが祭りに行くかどうかに言及しなかったのは、当然あえてだ。
 医者の診立てによっては、シーラに厳しいことを言わなければならないと思っている。

 祭りの期間中も交替で勤務しているはずの王宮医を呼び出そうと、すぐに動こうとしたイルハだったが、それは悲痛な叫び声に遮られた。

「それも嫌だよ!とても元気だからね!医者なんか呼ばないで!」

 イルハはほんのひととき思案して結論を出すと、シーラに向けて一段と柔らかく微笑んでみせる。

 それでシーラがすっかりと安堵して、ほっと息を吐いたところだ。

「では、今日の祭りは諦めますか?」

 イルハから出た言葉に、シーラは信じられないと目を丸くしたあとに、怒り始める。

「辞めて!笑顔で酷いことは言わないで!お願いだよ。タークォンのお祭りを見せて!」

「私も言いたくはありませんが、ここは譲れませんよ。祭りに行くのであれば、医者に診て頂いてからです」

「……そうしたら本当に行ってもいいの?やっぱり駄目だとは言わない?」

 不安そうに、ともすれば泣き始めそうな顔に、イルハは即、自分を曲げた。

「そう……ですね。医者には祭りに行くための治療をするよう頼みましょう。私が言えば、即効性のある強めの薬を頂けるのではないかと」

 使用人たちの視線から、坊ちゃま!と責める声を聞いた気がしたイルハだったが、それを気のせいにして、とにかく医者を手配した。
 ついでに今朝の出勤は遅れそうだという連絡を入れたとき、何やかんやとシーラの世話に屋敷内を奔走していたはずのリタとオルヴェはその声をしっかりと聞いていて、使用人夫妻は目を合わせて喜び合うのだった。

 坊ちゃまが仕事に遅れるなんて!
 今日から冬が始まるかもしれないわ!

 なんてリタが喜々として言ったのは、この日の夕方のこと。





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