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♦一度目

30.とある本屋の受難

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「これはまた、珍しい本がいっぱいだね」

 イルハが現れて顔を引き攣らせていた本屋の店主は、どっと運び込まれた本を見るなり顔付きを変えた。

「やや、これは!北のノーナイト王国の本ではないか!」

 目敏く一冊の本を手に取った店主が興奮し、声を荒げる。

「どこで仕入れて来たんだい?」

「どこでって、そのノーナイトだよ。少し前に行って来たんだ」

「行ったって、お嬢ちゃん。ここからノーナイト王国までは、どんなに急いでも年単位だろう。しかも途中の黒の大海には、海賊がうようよいて、その海賊を狩る海賊まで出るって話だ。無事に行って帰って来る人なんて、まずいないはずだがね」

 シーラはけらけらと笑って、店主の言い分を否定した。

「それは少し誇張されているよ。海賊なんて滅多に会わないし、それほど時間も掛からない」

「そうなのかい?」

 店主は首を傾げつつ、本の査定に気を戻した。

「とにかく、この本が貴重なことには違いない。これは高く売れるぞ。良い値を付けてあげよう」

 近くなっていた店主とシーラの距離を空けるように、イルハが間に入って言った。

「待ってください。それほどに貴重な本ならば、私がすぐに買い取りましょう」

 怪訝に眉を寄せた店主は、相手がイルハだったことを想い出して、急ぎ取り繕う笑顔を見せた。

「ははは、何を言っているんですか、イルハ様。イルハ様がお売りした本を、イルハ様が買い取ってどうなさると?」

「持ち込んだものはすべて彼女の本なのですよ。法の問題で私が保護者代わりをしているだけです」

「それなら、ご自分で買い取られては?」

「それでは法に触れましょう」

「しかしそうすると、うちでも利益を頂きますよ?大分損をしますぜ?」

 作り笑顔を見せながらも、この店主、書店としての正義を強気で示した。
 安く仕入れ高く売るような、商売人としての成功だけを追い求めた店ではなかったが、世の人に本を繋ぐ仲介者としてあり続けるためには利益も大事だ。

「それで構いません。そちらの利益を含めた売値を提示してください」

「そうですか。そこまで仰るのなら──」

 二人の会話を遮ったのは、シーラである。


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