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♦一度目
21.心配が過ぎる一人旅
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シーラは慣れた手付きである部分の床板を外して見せた。
その空いた穴から覗き込めば、梯子があって、床下に広がる空間へと続いていることが分かる。
シーラが先に下りて、イルハがこの後に続いた。
三人の役人はしばらく上で様子を窺いつつも、十分な空間があると分かって後に続く。
甲板の下は意外にも広い空間だった。部屋は仕切られず、真ん中にどどんと大きなタンクが二つ並び、たっぷりと水を溜められるようになっている。
こちらに移動した役人一同が安堵したのは、上の小屋のような惨状は見られなかったからだ。
壁際に沿って木箱や樽が積んではあるが、こちらはきちんと整然されていて、揺れても問題なきように壁や柱に打ち込まれた釘を使い、ロープで固定までされている次第。
何より、散らばるゴミがないだけ安心出来る。綺麗な床が見えていた。
「この広さの貯蔵庫にしては、物が少ないですね。お酒ばかりのようですが」
木箱には酒瓶が、樽には酒そのものが入っていることはすぐに確認された。
そこでイルハが率直な感想を伝えれば、シーラは照れたように頬を掻いて微笑むのである。恥じるべき場所が違うのではないか。
「全部食べ切っちゃってね。それで一番近くの港に急いで駆け込んだんだ」
イルハはふむふむと頷き、やはり淡々と問う。
「キッチンはないのですか?」
「そんなものはないよ。私は料理が出来ないんだ!」
自信満々に言うことだろうか。
イルハはついに動いてしまった。そっと右手を上げるとこめかみ辺りを抑え、出来るだけ冷静を装ってなお問い掛ける。
「水はこちらを使っているのですね?」
「そうだよ!」
「では普段はこちらで過ごす時間が多いのですか?」
「うぅん?ほとんど、上にいるよ」
「梯子を使って水を運ぶのは大変では?」
「それは大丈夫だよ!上の部屋にポンプがあったでしょう?それで水を引くことが出来るようになっているんだ!」
あの酷い部屋で水を汲んでいると?
「では湯浴みはどうしているのです?」
「甲板で水浴びするよ!」
あのだだっ広いだけの甲板で……?
「あぁ、海水じゃないよ。海水を使うことがないとは言わないけどね。海水だと、ベタベタして後が気持ち悪いでしょう?だからほとんどは、ちゃんと真水を用意して水浴びをしているから安心してね!」
そういう意味で怪訝な顔をしていたわけではないが、イルハは何も返さなかった。
いや、返せなかった。
海上でシーラは一人、どんな暮らしをしているのか。
本当に一人で暮らせているのか。
どうせなら、一人旅というのが偽りであってくれたなら。
虚偽の報告を罰するついでに、人間らしい暮らし方を徹底的に指導したい……
などと私情たっぷりの考えが頭に過ったイルハは、添えていた指でこめかみをぐっと押し込んだ。
リタの理由なき不安は、的中していたというわけである。
この娘、ここまでどうやって生きてきた?
その空いた穴から覗き込めば、梯子があって、床下に広がる空間へと続いていることが分かる。
シーラが先に下りて、イルハがこの後に続いた。
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甲板の下は意外にも広い空間だった。部屋は仕切られず、真ん中にどどんと大きなタンクが二つ並び、たっぷりと水を溜められるようになっている。
こちらに移動した役人一同が安堵したのは、上の小屋のような惨状は見られなかったからだ。
壁際に沿って木箱や樽が積んではあるが、こちらはきちんと整然されていて、揺れても問題なきように壁や柱に打ち込まれた釘を使い、ロープで固定までされている次第。
何より、散らばるゴミがないだけ安心出来る。綺麗な床が見えていた。
「この広さの貯蔵庫にしては、物が少ないですね。お酒ばかりのようですが」
木箱には酒瓶が、樽には酒そのものが入っていることはすぐに確認された。
そこでイルハが率直な感想を伝えれば、シーラは照れたように頬を掻いて微笑むのである。恥じるべき場所が違うのではないか。
「全部食べ切っちゃってね。それで一番近くの港に急いで駆け込んだんだ」
イルハはふむふむと頷き、やはり淡々と問う。
「キッチンはないのですか?」
「そんなものはないよ。私は料理が出来ないんだ!」
自信満々に言うことだろうか。
イルハはついに動いてしまった。そっと右手を上げるとこめかみ辺りを抑え、出来るだけ冷静を装ってなお問い掛ける。
「水はこちらを使っているのですね?」
「そうだよ!」
「では普段はこちらで過ごす時間が多いのですか?」
「うぅん?ほとんど、上にいるよ」
「梯子を使って水を運ぶのは大変では?」
「それは大丈夫だよ!上の部屋にポンプがあったでしょう?それで水を引くことが出来るようになっているんだ!」
あの酷い部屋で水を汲んでいると?
「では湯浴みはどうしているのです?」
「甲板で水浴びするよ!」
あのだだっ広いだけの甲板で……?
「あぁ、海水じゃないよ。海水を使うことがないとは言わないけどね。海水だと、ベタベタして後が気持ち悪いでしょう?だからほとんどは、ちゃんと真水を用意して水浴びをしているから安心してね!」
そういう意味で怪訝な顔をしていたわけではないが、イルハは何も返さなかった。
いや、返せなかった。
海上でシーラは一人、どんな暮らしをしているのか。
本当に一人で暮らせているのか。
どうせなら、一人旅というのが偽りであってくれたなら。
虚偽の報告を罰するついでに、人間らしい暮らし方を徹底的に指導したい……
などと私情たっぷりの考えが頭に過ったイルハは、添えていた指でこめかみをぐっと押し込んだ。
リタの理由なき不安は、的中していたというわけである。
この娘、ここまでどうやって生きてきた?
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