22 / 349
♦一度目
21.心配が過ぎる一人旅
しおりを挟む
シーラは慣れた手付きである部分の床板を外して見せた。
その空いた穴から覗き込めば、梯子があって、床下に広がる空間へと続いていることが分かる。
シーラが先に下りて、イルハがこの後に続いた。
三人の役人はしばらく上で様子を窺いつつも、十分な空間があると分かって後に続く。
甲板の下は意外にも広い空間だった。部屋は仕切られず、真ん中にどどんと大きなタンクが二つ並び、たっぷりと水を溜められるようになっている。
こちらに移動した役人一同が安堵したのは、上の小屋のような惨状は見られなかったからだ。
壁際に沿って木箱や樽が積んではあるが、こちらはきちんと整然されていて、揺れても問題なきように壁や柱に打ち込まれた釘を使い、ロープで固定までされている次第。
何より、散らばるゴミがないだけ安心出来る。綺麗な床が見えていた。
「この広さの貯蔵庫にしては、物が少ないですね。お酒ばかりのようですが」
木箱には酒瓶が、樽には酒そのものが入っていることはすぐに確認された。
そこでイルハが率直な感想を伝えれば、シーラは照れたように頬を掻いて微笑むのである。恥じるべき場所が違うのではないか。
「全部食べ切っちゃってね。それで一番近くの港に急いで駆け込んだんだ」
イルハはふむふむと頷き、やはり淡々と問う。
「キッチンはないのですか?」
「そんなものはないよ。私は料理が出来ないんだ!」
自信満々に言うことだろうか。
イルハはついに動いてしまった。そっと右手を上げるとこめかみ辺りを抑え、出来るだけ冷静を装ってなお問い掛ける。
「水はこちらを使っているのですね?」
「そうだよ!」
「では普段はこちらで過ごす時間が多いのですか?」
「うぅん?ほとんど、上にいるよ」
「梯子を使って水を運ぶのは大変では?」
「それは大丈夫だよ!上の部屋にポンプがあったでしょう?それで水を引くことが出来るようになっているんだ!」
あの酷い部屋で水を汲んでいると?
「では湯浴みはどうしているのです?」
「甲板で水浴びするよ!」
あのだだっ広いだけの甲板で……?
「あぁ、海水じゃないよ。海水を使うことがないとは言わないけどね。海水だと、ベタベタして後が気持ち悪いでしょう?だからほとんどは、ちゃんと真水を用意して水浴びをしているから安心してね!」
そういう意味で怪訝な顔をしていたわけではないが、イルハは何も返さなかった。
いや、返せなかった。
海上でシーラは一人、どんな暮らしをしているのか。
本当に一人で暮らせているのか。
どうせなら、一人旅というのが偽りであってくれたなら。
虚偽の報告を罰するついでに、人間らしい暮らし方を徹底的に指導したい……
などと私情たっぷりの考えが頭に過ったイルハは、添えていた指でこめかみをぐっと押し込んだ。
リタの理由なき不安は、的中していたというわけである。
この娘、ここまでどうやって生きてきた?
その空いた穴から覗き込めば、梯子があって、床下に広がる空間へと続いていることが分かる。
シーラが先に下りて、イルハがこの後に続いた。
三人の役人はしばらく上で様子を窺いつつも、十分な空間があると分かって後に続く。
甲板の下は意外にも広い空間だった。部屋は仕切られず、真ん中にどどんと大きなタンクが二つ並び、たっぷりと水を溜められるようになっている。
こちらに移動した役人一同が安堵したのは、上の小屋のような惨状は見られなかったからだ。
壁際に沿って木箱や樽が積んではあるが、こちらはきちんと整然されていて、揺れても問題なきように壁や柱に打ち込まれた釘を使い、ロープで固定までされている次第。
何より、散らばるゴミがないだけ安心出来る。綺麗な床が見えていた。
「この広さの貯蔵庫にしては、物が少ないですね。お酒ばかりのようですが」
木箱には酒瓶が、樽には酒そのものが入っていることはすぐに確認された。
そこでイルハが率直な感想を伝えれば、シーラは照れたように頬を掻いて微笑むのである。恥じるべき場所が違うのではないか。
「全部食べ切っちゃってね。それで一番近くの港に急いで駆け込んだんだ」
イルハはふむふむと頷き、やはり淡々と問う。
「キッチンはないのですか?」
「そんなものはないよ。私は料理が出来ないんだ!」
自信満々に言うことだろうか。
イルハはついに動いてしまった。そっと右手を上げるとこめかみ辺りを抑え、出来るだけ冷静を装ってなお問い掛ける。
「水はこちらを使っているのですね?」
「そうだよ!」
「では普段はこちらで過ごす時間が多いのですか?」
「うぅん?ほとんど、上にいるよ」
「梯子を使って水を運ぶのは大変では?」
「それは大丈夫だよ!上の部屋にポンプがあったでしょう?それで水を引くことが出来るようになっているんだ!」
あの酷い部屋で水を汲んでいると?
「では湯浴みはどうしているのです?」
「甲板で水浴びするよ!」
あのだだっ広いだけの甲板で……?
「あぁ、海水じゃないよ。海水を使うことがないとは言わないけどね。海水だと、ベタベタして後が気持ち悪いでしょう?だからほとんどは、ちゃんと真水を用意して水浴びをしているから安心してね!」
そういう意味で怪訝な顔をしていたわけではないが、イルハは何も返さなかった。
いや、返せなかった。
海上でシーラは一人、どんな暮らしをしているのか。
本当に一人で暮らせているのか。
どうせなら、一人旅というのが偽りであってくれたなら。
虚偽の報告を罰するついでに、人間らしい暮らし方を徹底的に指導したい……
などと私情たっぷりの考えが頭に過ったイルハは、添えていた指でこめかみをぐっと押し込んだ。
リタの理由なき不安は、的中していたというわけである。
この娘、ここまでどうやって生きてきた?
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる