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夫婦
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「もっと早くに語り合っていれば、私たちは分かり合えていたかもしれんな。家に戻らず、本当にすまなかった。君に長きに渡り辛いを想いを一人で抱えさせてしまったのも、私のせいだ」
侯爵夫人の言葉が途切れたところを見計らって、父は静かな声でそう言いました。
これでもまだ侯爵夫人の激昂は止まりません。
むしろかえって怒らせてしまったよう。
「あなたに何が分かると言うのよ!わたくしのことなんて、興味もなかったくせに!」
いつまでも侯爵夫人の興奮は冷めないのではないかと思われましたが……。
「母の葬儀を終えて、私がやっと家に戻れると安堵していたことに君は気付いていたか?」
「え?」
言葉が止まったところに、畳みかけるように父は語ります。
「私が母に厳しく言われている姿を幾度か見ていなかったか?母は私が侯爵家当主としての仕事をすることを喜ばない人だっただろう?家に戻り顔を見せれば、そんな暇があるなら城に居ろ、陛下から認められて来いと叱られてな。おかげで大臣の職を得られたわけだが」
「な……何を言っているの?わたくしと結婚するときには、すでにあなたは大臣だったじゃない。それはあなたが特別に優秀だから若い頃から陛下も目を掛けてくださって……」
「それは違うのだよ。家に居られなかった分、私には他の者より多くの時間があっただけなのだ。その分の働きが有難いことに陛下の目によく留まったのだろう。だが本当の私は、常々母親には逆らえん、そういう情けない男だった」
聞き捨てならん話になってきたな、と呟かれた陛下ですが。
今は黙れと殿下から厳しく叱り付けられておりました。
叱られるたびに陛下のお身体が小さくなっていくように感じられたので、これは事前にお二人の間に何かあったような……。
王族の皆様も親子喧嘩をするのでしょうか?
あ、まだお二人ともに従者でしたね。
「君との結婚もいつの間にか母が決めていた。だから君が言う、辺境伯家のご令嬢云々の話も私は何も知らないのだよ」
「そんな嘘は要らないわ。あなたもわたくしよりそちらのご令嬢の方がよろしかったのでしょう?お義母さまだってそう言って……」
「本当に言っていたのなら、それは母の嘘だ。すまなかった」
「そんな……あなたも仕事の出来ないわたくしを嫌っているとばかり……」
「正直に言えば、好きか嫌いかも分からないほどに、私は君を知らなかったよ。だが憎く思ったことも一度もない」
私は二人を眺めながら、今までにない気持ちを覚えていました。
それは娘の視点からものではなかったように感じます。
他人の夫婦を遠くから眺めているような、そのような感覚です。
侯爵夫人の言葉が途切れたところを見計らって、父は静かな声でそう言いました。
これでもまだ侯爵夫人の激昂は止まりません。
むしろかえって怒らせてしまったよう。
「あなたに何が分かると言うのよ!わたくしのことなんて、興味もなかったくせに!」
いつまでも侯爵夫人の興奮は冷めないのではないかと思われましたが……。
「母の葬儀を終えて、私がやっと家に戻れると安堵していたことに君は気付いていたか?」
「え?」
言葉が止まったところに、畳みかけるように父は語ります。
「私が母に厳しく言われている姿を幾度か見ていなかったか?母は私が侯爵家当主としての仕事をすることを喜ばない人だっただろう?家に戻り顔を見せれば、そんな暇があるなら城に居ろ、陛下から認められて来いと叱られてな。おかげで大臣の職を得られたわけだが」
「な……何を言っているの?わたくしと結婚するときには、すでにあなたは大臣だったじゃない。それはあなたが特別に優秀だから若い頃から陛下も目を掛けてくださって……」
「それは違うのだよ。家に居られなかった分、私には他の者より多くの時間があっただけなのだ。その分の働きが有難いことに陛下の目によく留まったのだろう。だが本当の私は、常々母親には逆らえん、そういう情けない男だった」
聞き捨てならん話になってきたな、と呟かれた陛下ですが。
今は黙れと殿下から厳しく叱り付けられておりました。
叱られるたびに陛下のお身体が小さくなっていくように感じられたので、これは事前にお二人の間に何かあったような……。
王族の皆様も親子喧嘩をするのでしょうか?
あ、まだお二人ともに従者でしたね。
「君との結婚もいつの間にか母が決めていた。だから君が言う、辺境伯家のご令嬢云々の話も私は何も知らないのだよ」
「そんな嘘は要らないわ。あなたもわたくしよりそちらのご令嬢の方がよろしかったのでしょう?お義母さまだってそう言って……」
「本当に言っていたのなら、それは母の嘘だ。すまなかった」
「そんな……あなたも仕事の出来ないわたくしを嫌っているとばかり……」
「正直に言えば、好きか嫌いかも分からないほどに、私は君を知らなかったよ。だが憎く思ったことも一度もない」
私は二人を眺めながら、今までにない気持ちを覚えていました。
それは娘の視点からものではなかったように感じます。
他人の夫婦を遠くから眺めているような、そのような感覚です。
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