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令嬢

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「落ち着いて話をしよう。君だけを責めようというのではないから。まずは話を整理させてくれ。何故君はリーチェばかりに苦労をさせてきた?」

 父が諭すように聞いても、侯爵夫人は興奮したままでした。

「あなたには関係ありませんわ!」

「関係ないことはない。リーチェは私の娘だ」

「いいえ、わたくしの娘です!」

 認めたくはありませんが、私はお二人の娘でしょうに。
 それについて言い合う意味がどこにあるのかと感じていました。

「そうよ、わたくしの娘なのよ!わたくしの娘ですのに!どうして、どうしてなのよ!」

 侯爵夫人が側にいる父ではなく私を見て叫びます。

「どうして仕事をしたくないと言って泣かないわけ?どうして結婚したくないと言わなかったの!どうして余所に行きたくないと泣き付かないの!」

「はぁ?」

 言ったのは、旦那さまでした。

 私といえば、これまで掛けられてきた数々の言葉が蘇り、それどころではありません。

 あれらはすべて、そういう想いを持っての言葉でしたの?

「わたくしの娘ですのに!わたくしの娘なら、仕事なんて嫌がるはずよ!」

 理解が追い付かず、少し待って欲しいと感じていました。
 けれども侯爵夫人の言葉は止まりません。

「女傑の娘だから何よ!わたくしにはお兄さまがいたんだから。普通の令嬢らしくあればよかったでしょう?どうしていつもわたくしががっかりされないといけないの!」

 女傑……というと、おそらくは母方の祖母の話だと思います。
 女公爵として大変優秀で名を知られた方だったと聞いておりました。

 そんな祖母は私が三つになる年に亡くなられています。

「こんなのおかしいわ。あなたと結婚したのだって。若くして大臣になったあなたなら、わたくしはただの夫人として穏やかに過ごせると思っておりましたのに!それなのにあなたのお義母さまは!」

「母が何か言ったのか?」

「あなたもそうじゃないの!わたくしに家のことも領地のことも任せると言ったきり、邸にも戻って来なくなって。お義母さまはいつもいつも女傑の娘なのにって。間違えたわって。女傑は身内だから私のことを謙って言っていると信じていたのですって。知らないわよ、そんなの!何も出来ない娘ですよ、よろしいのですね?ってお母さまは確かに言ったんだわ。それを信じなかったのはお義母さまが悪いでしょう?それなのにわたくしが悪いみたいに言って。最初に話のあった辺境伯家のご令嬢にすればよかったって!わたくしを嫁にしたのは間違いだったって!」

「辺境伯家……?なんだ?その話は知らんぞ」

「辺境伯家の令嬢だと……伯母上のことか?」

 父も旦那さまも驚きでいっぱいのよう。
 もちろん私もまた驚き過ぎて何が何やら。

 ちなみにお義父さまのお姉さまである、旦那さまの伯母さまは、うちではない侯爵家へと嫁がれておりまして。
 私は一度だけお会いしたことがありました。とっても明るくて元気で楽しい方なのです。

「わたくしの娘ですのに!二人とも同じことばかり言ったわ。わたくしに似ていないようで良かったって。わたくしが産んだ子なのよ?許せないでしょう?だからわたくしが、早くにあなたをわたくしの娘にしてあげようと思っていたのに!何よ、何なのよ、あなただけはいつまでもわたくしの娘らしくならないじゃない!下の子はちゃんとわたくしの娘らしく育っているのに!」

 妹を褒めていた理由がこんな想いからだったなんて。
 思わず私は不憫になって、妹を眺めました。

 妹はただぽかんと目と口を開き、母親を見ているだけ。
 まだ自分がどういう可愛がられ方をしてきたか、理解出来ていないように感じます。

 この子はもう少し成長したら、母親に何を想うのでしょうか。


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