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因果
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それから旦那さまは、抱き締められる前よりも私と密着した状態で座り直しておりました。
当たり前のように、私の背中から腰へとその腕が回されます。
こうしていると、領地にいるときと変わらない気持ちになりますね。
けれども旦那さまは、お怒りのご様子。
今日はこういうお顔が沢山見られて嬉しいです、旦那さま。
素敵……。
「なんだ?まだ私の妻を疑うつもりなら聞く耳はないが?」
「今まですまなかった。そういう意図はもうないので、どうか話を聞いて欲しい。リーチェも……すまない」
父から謝罪の言葉を頂けるなんて、思ってもみないことに私は固まってしまいました。
そして同時に、失礼にも感心してしまったのです。
大臣をされておりましたものね、と。
長年のうちに身に着けてしまったそれはとても悪い癖だと思いながら、私はここでも父を評したあげく、その評価を少しだけ見直してしまいました。
家のことにも領地のことにもまったく興味を持たない人でしたけれど。
きちんと書面を見てくだされば、このように理解出来る人であったというのは安心します。
あとは弟がせめて父のように書面を読める人に成長してくれていたら……。
そう願いつつも、この三年で期待したようにはなっていないことは、領地の状態を聞いただけでも分かりました。
家令のアルバは本当にどうしているのでしょう?
もしも弟が彼を側に置かないようにしているのであれば。
もう誰も弟に届く書類を解説してくれる人は存在していないように思います。
あの人にはきっと出来ませんし、それで弟は分からないことは分からないまま三年も放置していたのかもしれません。
それとも父がそれをしたのは私だと信じていたように、それぞれの事業に口を出しては引っ掻き回し、悪化させていったということでしょうか。
そこまで考えた私は、また同じ疑問を持ちました。
弟はこれで本当に愛されていたと言えるのでしょうか、と。
当時は誰よりも何よりも弟を大切にしているように見えていました。
けれども外に出て結婚すれば、また違ったように見えてきます。
甘やかすばかりで、当主として必要な知識や経験を与えようとはしない。
それどころかそれは奪っていたとも言える甘やかしでした。
あの人は弟の将来をどのように想定していたのでしょう。
当時の私は、自分は結婚をせずに家に残り、弟の補佐として働き続けることになる、そう信じていたところがありました。
そうでなければ、あの人の言動はとても理解出来るものではなかったからです。
それなのに、ある日あの人は私の結婚が決まったと言って、それをとても喜んでおりました。
その日から私は仕事の心配ばかりしていたように思います。
父にはいくら書面を届けても、反応はありませんでしたし。
弟には引継ぎも拒絶され、途方に暮れながらも、家令のアルバに助けられながら、なんとか継続出来る形を残して家を出たつもりです。
完全に結果が伴わなかったので、私は失敗したことになりますね。
けれどもすべては、当然の帰結のようにも感じます。
父が最初からずっと言っていたように。
家を没落させたかったのは、むしろあの人の方ではないか。
私はそう考えずにはいられませんでした。
当たり前のように、私の背中から腰へとその腕が回されます。
こうしていると、領地にいるときと変わらない気持ちになりますね。
けれども旦那さまは、お怒りのご様子。
今日はこういうお顔が沢山見られて嬉しいです、旦那さま。
素敵……。
「なんだ?まだ私の妻を疑うつもりなら聞く耳はないが?」
「今まですまなかった。そういう意図はもうないので、どうか話を聞いて欲しい。リーチェも……すまない」
父から謝罪の言葉を頂けるなんて、思ってもみないことに私は固まってしまいました。
そして同時に、失礼にも感心してしまったのです。
大臣をされておりましたものね、と。
長年のうちに身に着けてしまったそれはとても悪い癖だと思いながら、私はここでも父を評したあげく、その評価を少しだけ見直してしまいました。
家のことにも領地のことにもまったく興味を持たない人でしたけれど。
きちんと書面を見てくだされば、このように理解出来る人であったというのは安心します。
あとは弟がせめて父のように書面を読める人に成長してくれていたら……。
そう願いつつも、この三年で期待したようにはなっていないことは、領地の状態を聞いただけでも分かりました。
家令のアルバは本当にどうしているのでしょう?
もしも弟が彼を側に置かないようにしているのであれば。
もう誰も弟に届く書類を解説してくれる人は存在していないように思います。
あの人にはきっと出来ませんし、それで弟は分からないことは分からないまま三年も放置していたのかもしれません。
それとも父がそれをしたのは私だと信じていたように、それぞれの事業に口を出しては引っ掻き回し、悪化させていったということでしょうか。
そこまで考えた私は、また同じ疑問を持ちました。
弟はこれで本当に愛されていたと言えるのでしょうか、と。
当時は誰よりも何よりも弟を大切にしているように見えていました。
けれども外に出て結婚すれば、また違ったように見えてきます。
甘やかすばかりで、当主として必要な知識や経験を与えようとはしない。
それどころかそれは奪っていたとも言える甘やかしでした。
あの人は弟の将来をどのように想定していたのでしょう。
当時の私は、自分は結婚をせずに家に残り、弟の補佐として働き続けることになる、そう信じていたところがありました。
そうでなければ、あの人の言動はとても理解出来るものではなかったからです。
それなのに、ある日あの人は私の結婚が決まったと言って、それをとても喜んでおりました。
その日から私は仕事の心配ばかりしていたように思います。
父にはいくら書面を届けても、反応はありませんでしたし。
弟には引継ぎも拒絶され、途方に暮れながらも、家令のアルバに助けられながら、なんとか継続出来る形を残して家を出たつもりです。
完全に結果が伴わなかったので、私は失敗したことになりますね。
けれどもすべては、当然の帰結のようにも感じます。
父が最初からずっと言っていたように。
家を没落させたかったのは、むしろあの人の方ではないか。
私はそう考えずにはいられませんでした。
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