15 / 56
飛躍
しおりを挟む
「ご夫人、そう緊張しないでおくれ。悪いようにはしないからね」
ほんの少し前に、これでいいのだと思えたはずなのですけれど。
こう間近で陛下に見詰められながらお言葉を掛けていただきますと、とても落ち着いた気分ではいられませんでした。
助けを求めるようにして旦那さまを見れば、何故か旦那さまは眉間に皺を寄せています。
「父上がいるから緊張するのですよ。それになんですか、悪いようにはしないとは。その言葉は、悪人が悪いことをする前に使うものですよ?」
「この私を悪人とな。ははは。言い得て妙だ」
「純粋無垢そうな夫人を困らせる発言はやめてください。ですからこの場は私に任せてくださるようにとお願いしたのです」
「最初から失敗しおって、よく言えたものだな。夫人が怪我をしていたら、どうするつもりだったのだ?」
「それは……認めますが。騎士たちもいて二度目はありませんし、あとは私に任せていただきたい」
「ならん。このような面白き時を逃すものではない」
「……だからあなたには似たくないのですよ」
陛下がこの場を面白がっていらっしゃることは間違いなさそうです。
するともしかして私は揶揄われているのかしら?
あぁ、旦那さま。
眉間に刻んでいた皺をぐっと濃くし、怒っていらっしゃるそのお顔も素敵です。
けれども陛下にそのようなお顔を向けて、大丈夫なのでしょうか。
もしも旦那さまが咎められるときには、旦那さまの妻として私も一緒にその罪を償いましょう。
領地に残してきた人たちには、ごめんなさいと伝えるしかありません。
悲しくなってきました。
泣かれてしまうでしょう。
恨まれてもしまうでしょうか。
でも最後は旦那様とご一緒したいのです。
このように自分勝手な私ですから恨まれても当然ですね。
せめてお手紙を残しましょう。渡していただけるかしら。
もしかして罪人のお願いは聞いて貰えない?
別の場所で違う時間に?手紙は没収?それ以前に紙もペンも用意がない?
ますます悲しくなってきました。
「リーチェ、やはり今すぐ帰るとしよう。無理をすることはない。あとのことは後日私がしておくから、この場のことなんかリーチェは気にしなくていいんだ」
はぅ。想像が未来へと飛び過ぎてしまいました。
旦那さまはまだ何も咎められてはおりませんでしたね。
陛下が正直でいいと仰っていたではありませんか。
そうです。きっと旦那さまもこれでいいのです。
「大丈夫です。私も父の話が気になりますので、この場に残り話を聞きたいと思います」
えぇそうなのです。
私にはいまだに父が何に激怒しているのか、見当もついていなかったのですから。
無理も何も心が辛くなるようなことはありません。
殴られそうになったことについては驚きましたけれど。
それだって理由を知らなければ心に響くものはないのだと分かります。
実際に痛みを覚えていたら、私も少しは何か感じていたかもしれません。
けれども旦那さまが守ってくださいましたから、私は元気ですし。
素敵な旦那さまのお姿を見られ、むしろいい思い出となりそう。
父はむすっとした顔でこちらを見ていました。
このようなお顔の方だったかと、ついまじまじと眺めてしまうのですが。
そうして私は、この後に続く父の話にまた驚かされることになったのです。
ほんの少し前に、これでいいのだと思えたはずなのですけれど。
こう間近で陛下に見詰められながらお言葉を掛けていただきますと、とても落ち着いた気分ではいられませんでした。
助けを求めるようにして旦那さまを見れば、何故か旦那さまは眉間に皺を寄せています。
「父上がいるから緊張するのですよ。それになんですか、悪いようにはしないとは。その言葉は、悪人が悪いことをする前に使うものですよ?」
「この私を悪人とな。ははは。言い得て妙だ」
「純粋無垢そうな夫人を困らせる発言はやめてください。ですからこの場は私に任せてくださるようにとお願いしたのです」
「最初から失敗しおって、よく言えたものだな。夫人が怪我をしていたら、どうするつもりだったのだ?」
「それは……認めますが。騎士たちもいて二度目はありませんし、あとは私に任せていただきたい」
「ならん。このような面白き時を逃すものではない」
「……だからあなたには似たくないのですよ」
陛下がこの場を面白がっていらっしゃることは間違いなさそうです。
するともしかして私は揶揄われているのかしら?
あぁ、旦那さま。
眉間に刻んでいた皺をぐっと濃くし、怒っていらっしゃるそのお顔も素敵です。
けれども陛下にそのようなお顔を向けて、大丈夫なのでしょうか。
もしも旦那さまが咎められるときには、旦那さまの妻として私も一緒にその罪を償いましょう。
領地に残してきた人たちには、ごめんなさいと伝えるしかありません。
悲しくなってきました。
泣かれてしまうでしょう。
恨まれてもしまうでしょうか。
でも最後は旦那様とご一緒したいのです。
このように自分勝手な私ですから恨まれても当然ですね。
せめてお手紙を残しましょう。渡していただけるかしら。
もしかして罪人のお願いは聞いて貰えない?
別の場所で違う時間に?手紙は没収?それ以前に紙もペンも用意がない?
ますます悲しくなってきました。
「リーチェ、やはり今すぐ帰るとしよう。無理をすることはない。あとのことは後日私がしておくから、この場のことなんかリーチェは気にしなくていいんだ」
はぅ。想像が未来へと飛び過ぎてしまいました。
旦那さまはまだ何も咎められてはおりませんでしたね。
陛下が正直でいいと仰っていたではありませんか。
そうです。きっと旦那さまもこれでいいのです。
「大丈夫です。私も父の話が気になりますので、この場に残り話を聞きたいと思います」
えぇそうなのです。
私にはいまだに父が何に激怒しているのか、見当もついていなかったのですから。
無理も何も心が辛くなるようなことはありません。
殴られそうになったことについては驚きましたけれど。
それだって理由を知らなければ心に響くものはないのだと分かります。
実際に痛みを覚えていたら、私も少しは何か感じていたかもしれません。
けれども旦那さまが守ってくださいましたから、私は元気ですし。
素敵な旦那さまのお姿を見られ、むしろいい思い出となりそう。
父はむすっとした顔でこちらを見ていました。
このようなお顔の方だったかと、ついまじまじと眺めてしまうのですが。
そうして私は、この後に続く父の話にまた驚かされることになったのです。
76
お気に入りに追加
3,126
あなたにおすすめの小説
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる