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001.よくある話

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 ああ……俺は死んだのか……。


「ようこそ神の世界へ」

 
 意識が覚めると、そこは一面が白い部屋の中だった。

 
 目の前には、何だかウキウキしているように見える神様がいる。

 まるで俺が来たことを、心底嬉しそうに見ている少年のような神様がいたのだ。

  
   ああ、これが死後の世界か…。


   不思議と怖くも混乱もない。

 俺は穏やかな気持ちのまま、目の前の神を認識した。
 
 その姿は気高く、後光のように背中が輝いていたこともあり、もう神以外には間違いようのないくらい、圧倒的な気配をビンビンに感じていた。

 今までにない、別次元の存在感に俺はすべてをゆだねる気持ちになっていた。


「落ち着きましたか」


 そう思った俺の心を感じたのか、少年の姿をした神が微笑んだ。


「はい」


 自然と返事をした。

 …そうか、死んでもこうやってまた話ができるんだ。

 俺は死ぬ前とそんなに感覚が変わらないことに、安らぎを覚えているくらいだった。
  

 ありふれた交通事故により、通行人が巻き込まれて死亡。
 
 男の死因はよくあるそれだった。

 ああ、死ぬんだ。

 と自覚しながら意識を失い、気がつくとここにいたのだ。

 現状を理解した俺は素直に返事を返したのだった。

 そんな俺の返事に少年の姿をした神は、嬉しそうに微笑んだ後、驚くべき言葉を放った。


「 私は、あなたを後任として【人々に新たな道を案内する神になってもらう】ためにここへ来てもらいました。…という訳で、これからよろしくおねがいしますね」


 俺の中で一瞬の時が止まったような気がしたが、少し、いや、かなり考えた後にこう言った。


 「……そうですか。ううん、ええっと、すいませんが一つだけ聞いてもいいでしょうか」

 「はい、なんでしょうか」

 「もしかして、さっき神になってもらうっていいました?」


 はっきりと意識を取り戻した今、聞き捨てのならない言葉を思い出し、念のためにも確認する。


 「ええ、そう言いました。理解が早くて助かります」

  
 目の前の少年は一点の曇りのない表情で微笑んでいる。

  
  えっ……本気(マジ)ですか!?


「あの……」

「はい、なんでしょうか」

「普通は俺が転生して異世界に行く…みたいな話しじゃないんでしょうか?」


 どうにも府に落ちないので、しつこいかもしれないが確認のためにも聞いてみた。

 よくある話では、死んだ後に何か能力を貰って、異世界でウエーイ的なアレじゃないのか?

 などと思う間もなく、目の前にいる神様は恐ろしい事に、俺に後任の神になれ、と言っているのだ。

 混乱し始めている俺に対して、少年の姿をした神は相変わらず微笑んだ表情できっぱりと説明し始めた。

 
「ええ、違うんですよ。もちろん、あなたがそうおっしゃる事はわかります。でもね、もうそういう事は一切やめたんですよ。だいたい異世界の人をこちらの世界に送り込んでもね、結局みんな一緒なんですよ」

「一緒、といいますと?」 

「そうですね。ちょっとチート能力を渡せばすぐ調子に乗って、アレっ俺なんかやっちゃいました? って言ってすぐSランクになってハーレムを作り出すのですよ。もうね、そういうのウンザリなんですよ、もうポイです。ポイポイなんですよ」

 
 よほど嫌な事があったのか。しかめっ面丸出しで心底嫌そうにおっしゃる神様。

 確かにそんな話はすでにそこらじゅうにありふれており供給過多で、もうとっくに飽きられているのだ。

 残念ながら俺のチートなウェ-イ転生はないようだ。


「となると、俺はこれからどうなるんですか」

「ええ、だからさっきも言ったとおり、ここで私の変わりにここにやってきた人たちに、どこの世界に転生させるか導いて指導してあげてください。では、私が変わりに異世界に転生しますので、あとはよろしくお願いします」

 
 さっとお辞儀をして爽やかに立ち去ろうとする少年の神様。


「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ、えっ? じゃあ、あなたが異世界に転生するんですか?」

「ええ、もちろんそうですけど」

「いやいやいや、おかしいでしょ、何で神様が転生するんですか」


 俺は全力で神様にすがりつく。


「えっ? もしかしてあなた、神様は転生しちゃいけないって言うんですか? いったいなんの権利があってそんな事を言うんですか! 良いですか、私がこれまでここでドンだけ働いてきたと思ってるんですか、やれ大魔法が使えるようにしろだとか、人のスキルを盗めるスキルが欲しいだとか、不老不死にしろなんていう馬鹿もいっぱい相手にしてきたんですよ。もちろんそんな事を言うやつは問答無用でゴブリンにしてやりましたけどね。はっはっはザマーミロです。で、なんでしたっけ?」

 
 なぜか、熱く語る少年の神様。

 うーん、よくわからないがとにかくこの御方はだいぶストレスがたまっているらしい。

 だが、よく考えてみれば、この神様が転生できると言うのなら、その後任である俺もいずれは転生できると言うことだ。


 それに〈神になる〉というのなら、それはすばらしい話じゃないのか。少し冷静になってみると、だんだん俺はこの少年の神様の言うことを聞いたほうがいいような気がしてきた。

 というか現状逆らえないだろう。しかたなく俺は運命を受け入れることにした。


「わかりました神様」

「おおっわかってくれましたか」


 嬉しそうに微笑む神様。


「ええ、ではあなたの後任になるとして、俺はどんな力を与えてもらえるのでしょうか、その……神にしていただけるんですよね?」


 すると少年の神様がフッと笑った。


「そうですね。ではこの神の輪を授けましょう。これをつければあなたもすぐに神格にあがれます。そうすれば必要な力も知識もすべてが備わることでしょう。その分私の力が弱まってしまいますが、転生するためにはいたし方ありません、私も以前はそうでしたからね。ではあなたにお渡しいたします」


 少し過去を思い出すようなそぶりをみせながら、神様が自分の頭の上についている(浮いている)金色に光る輪をはずして俺の頭につけてくれた。

 光る輪が俺の頭に備わった瞬間。

 恐ろしいほどの力とパワー、知識と知恵があふれてきた。そして一瞬にしてこれまでのすべてを理解した。

 なりほど。神って結構大変なんだな…。


「では、後はよろしくお願いします」


 少年の姿をした元神・・様が私に丁寧に頭を下げた。

 私がうなずいて手をかざすと、少年は白い光に包まれて消えた。
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