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早朝、会社へと向かう通勤電車の車内。
毎度の事ながら、嫌になるほどに満員御礼の座席前の片隅で、いつものように壁際で倒れない様踏ん張っていたはずだった。
クラッと急に立ちくらみでもしたように目の前が暗くなったとたん、いきなり景色が変わって思わず倒れそうになる。
「うおっ!?」
急に謎の浮遊感に包まれたあと、暗くなった景色から急に眩い光に照らされて俺は思わず目を伏せた。
しばらくして光が治まり視界が安定したのを感じた俺は、キョロキョロと周りを見渡した。
すると周りには同じように慌てふためいている者が10人程はいるようで、それぞれが驚きの声をあげていた。
その人達は、さっきまで満員電車の中で同じように押し合っていた同士だった。
各人がひとしきり驚きの声をあげた後、徐々に冷静になって廻りを見わたす。
なんと、目の前には煌びやかな衣装をつけた、まるで王様や貴族のような人々が並んでいたのだ。
どうやらここは宮殿の内部のようだ。
「異世界召喚か…」
小さくつぶやいた俺はすぐに異世界に召喚されたのだと気が付いた。
そう、最近あまりにも異世界召喚された話が多すぎたため、混乱するよりも前にすぐに現状に納得してしまったのだ。
なぜなら小説やアニメを見まくり、自分でもヘタなラノベを書いているほど、只野 平治には自分の置かれた状況が恐ろしい速さで察知できたのだ。
つまり、
「ああ、ついに俺の番が来たか……これは集団転移タイプだな」
と、慌てふためいている10人をみて、逆に冷静になった自分がそこにはいた。
するとふいに。
「ステータス、オープン!」
と若い男の声が聞こえた。
さらに、玉座に座る王様が口を開くよりも前に、次々と三人ほどが追従する。
「ステータス、オープン!」
まるで当然のように叫んでいるので、おそらく皆も同じ思いだったのだろう。
もちろんその三人のうちの一人は俺だったが……。
こういうのは先手必勝、いかに状況を素早く把握するかが最も大切なのだ。
しかし、その言葉と同時に目の前に現れたウインドウ表示を見て、俺は目を大きく見開いた。
光り輝くステータスの職業欄には、勇者でも賢者でもなく、ましてや魔法使いでさえなく、無慈悲にも、兵士、と書いてあるのだ。
「へ、兵士かよ……」
しかもご丁寧にも(一兵卒)となっていた。
ふいにサッーと頭の中から一気に血の気が引くのを感じた。
「こ、こりゃぁやべぇ…」
俺は目の前が暗くなり思わずガックリと肩を落とした。
ああ、これはあれだ。
これ絶対ダメな奴だ。
俺……絶対ひいちゃ駄目な奴ひいちゃったよ。
俺はこの世界でのハードモードを確信した。
なぜなら他の三人の声は喜びに弾んだ声をしていたからだ。
「おっ俺、聖騎士だぜ!」
「ふむ。魔導師か、まぁ悪くはないだろう」
「重騎士かぁ、まぁ俺確かにタンク向きだしなぁ」
などと満足そうに言っているのでなおさらだった。
しばらくして混乱が収まったのを確認した王様が、いよいよ口を開いて威厳のあるよく響く声をあげた。
「我がアリシアン王国へよくぞ参られた! 異世界の者たちよ、余はこの国の王である!」
そう言った王の顔は満足そうに笑みを浮かべている。
やはりこの王様が俺達を召喚したらしい。
その後、どこかで聞いたことのあるような話、つまり、この国を救ってくれだの、召還されたものはすごい力を得てやってくるので優遇するなどと、この国の軍務大臣とやらが詳しく丁寧に説明しているさなか、俺は自分の身の安全をどうやって確保するかに頭の中をフル回転でシュミレートしていた。
あらかたの説明が終わった後、次々と、召喚された人々の職業が確認されていく。
そして、ついに俺の番がやって来た。
「なんと! タダノ殿の職業は兵士であるか……しかも一兵卒とは、うーむ」
俺の職業を確認した軍務大臣が明らかに落胆の声をあげた。
明らかにありふれた職業を持った俺に、困ったような顔をしながら、腕を組む。
えぇ、それはそれはお困りでしょう。
なんせ、せっかく召喚したのに、他の人の職業に比べて、段違いにショボいのだ。
それも、何処で聞いたことのある話のように、実際は希少価値のある錬金術師などの特殊職業のくせに、ありふれた職業だ、と言って文句を言っているわけではない。
本当にありふれているのだ。
そう、なんならこの城の周りにも山ほど同業者がいるだろう。
もちろん職業に貴賎はない、と言うのが現代社会における理想ではあるが、ここは現代でもなければ古代でもない。
今はそんな事を言っている場合ではないのだ。
なので何か言われる前にこちらから先に提案した。
「ですよね、どうも私はあまりお役に立てないようですので、しばらく生活できる資金を頂ければ後は何とか生きていきます。私の事はお気になさらずに」
とヘコヘコしながら申し訳なさそうに言うと、俺の言葉にほっとしたのか、軍務大臣はうなずいて。
「そうか。ではタダノ殿には兵士の装備を一式と当座の資金を用意するようにしよう。ヘインズ、後は頼む」
と部下に言って興味なさげに立ち去った。
ああ、俺の処分は無事に終わったのだ。
俺はふぅーっと息を吐いた。
毎度の事ながら、嫌になるほどに満員御礼の座席前の片隅で、いつものように壁際で倒れない様踏ん張っていたはずだった。
クラッと急に立ちくらみでもしたように目の前が暗くなったとたん、いきなり景色が変わって思わず倒れそうになる。
「うおっ!?」
急に謎の浮遊感に包まれたあと、暗くなった景色から急に眩い光に照らされて俺は思わず目を伏せた。
しばらくして光が治まり視界が安定したのを感じた俺は、キョロキョロと周りを見渡した。
すると周りには同じように慌てふためいている者が10人程はいるようで、それぞれが驚きの声をあげていた。
その人達は、さっきまで満員電車の中で同じように押し合っていた同士だった。
各人がひとしきり驚きの声をあげた後、徐々に冷静になって廻りを見わたす。
なんと、目の前には煌びやかな衣装をつけた、まるで王様や貴族のような人々が並んでいたのだ。
どうやらここは宮殿の内部のようだ。
「異世界召喚か…」
小さくつぶやいた俺はすぐに異世界に召喚されたのだと気が付いた。
そう、最近あまりにも異世界召喚された話が多すぎたため、混乱するよりも前にすぐに現状に納得してしまったのだ。
なぜなら小説やアニメを見まくり、自分でもヘタなラノベを書いているほど、只野 平治には自分の置かれた状況が恐ろしい速さで察知できたのだ。
つまり、
「ああ、ついに俺の番が来たか……これは集団転移タイプだな」
と、慌てふためいている10人をみて、逆に冷静になった自分がそこにはいた。
するとふいに。
「ステータス、オープン!」
と若い男の声が聞こえた。
さらに、玉座に座る王様が口を開くよりも前に、次々と三人ほどが追従する。
「ステータス、オープン!」
まるで当然のように叫んでいるので、おそらく皆も同じ思いだったのだろう。
もちろんその三人のうちの一人は俺だったが……。
こういうのは先手必勝、いかに状況を素早く把握するかが最も大切なのだ。
しかし、その言葉と同時に目の前に現れたウインドウ表示を見て、俺は目を大きく見開いた。
光り輝くステータスの職業欄には、勇者でも賢者でもなく、ましてや魔法使いでさえなく、無慈悲にも、兵士、と書いてあるのだ。
「へ、兵士かよ……」
しかもご丁寧にも(一兵卒)となっていた。
ふいにサッーと頭の中から一気に血の気が引くのを感じた。
「こ、こりゃぁやべぇ…」
俺は目の前が暗くなり思わずガックリと肩を落とした。
ああ、これはあれだ。
これ絶対ダメな奴だ。
俺……絶対ひいちゃ駄目な奴ひいちゃったよ。
俺はこの世界でのハードモードを確信した。
なぜなら他の三人の声は喜びに弾んだ声をしていたからだ。
「おっ俺、聖騎士だぜ!」
「ふむ。魔導師か、まぁ悪くはないだろう」
「重騎士かぁ、まぁ俺確かにタンク向きだしなぁ」
などと満足そうに言っているのでなおさらだった。
しばらくして混乱が収まったのを確認した王様が、いよいよ口を開いて威厳のあるよく響く声をあげた。
「我がアリシアン王国へよくぞ参られた! 異世界の者たちよ、余はこの国の王である!」
そう言った王の顔は満足そうに笑みを浮かべている。
やはりこの王様が俺達を召喚したらしい。
その後、どこかで聞いたことのあるような話、つまり、この国を救ってくれだの、召還されたものはすごい力を得てやってくるので優遇するなどと、この国の軍務大臣とやらが詳しく丁寧に説明しているさなか、俺は自分の身の安全をどうやって確保するかに頭の中をフル回転でシュミレートしていた。
あらかたの説明が終わった後、次々と、召喚された人々の職業が確認されていく。
そして、ついに俺の番がやって来た。
「なんと! タダノ殿の職業は兵士であるか……しかも一兵卒とは、うーむ」
俺の職業を確認した軍務大臣が明らかに落胆の声をあげた。
明らかにありふれた職業を持った俺に、困ったような顔をしながら、腕を組む。
えぇ、それはそれはお困りでしょう。
なんせ、せっかく召喚したのに、他の人の職業に比べて、段違いにショボいのだ。
それも、何処で聞いたことのある話のように、実際は希少価値のある錬金術師などの特殊職業のくせに、ありふれた職業だ、と言って文句を言っているわけではない。
本当にありふれているのだ。
そう、なんならこの城の周りにも山ほど同業者がいるだろう。
もちろん職業に貴賎はない、と言うのが現代社会における理想ではあるが、ここは現代でもなければ古代でもない。
今はそんな事を言っている場合ではないのだ。
なので何か言われる前にこちらから先に提案した。
「ですよね、どうも私はあまりお役に立てないようですので、しばらく生活できる資金を頂ければ後は何とか生きていきます。私の事はお気になさらずに」
とヘコヘコしながら申し訳なさそうに言うと、俺の言葉にほっとしたのか、軍務大臣はうなずいて。
「そうか。ではタダノ殿には兵士の装備を一式と当座の資金を用意するようにしよう。ヘインズ、後は頼む」
と部下に言って興味なさげに立ち去った。
ああ、俺の処分は無事に終わったのだ。
俺はふぅーっと息を吐いた。
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