70 / 104
4章 凱旋と旅
13話 スターテルの町の異変
しおりを挟む
スターテルの町を守る北の砦が陥落したらしい。
守っていたバーデル領主軍がスターテルの町へ逃げてくる。おそらくこれで貴族用の北門、一般用の西門も危なくなる。
どうやらタンドリーの救援も間に合わなかったようだな。……流石に一人じゃどうしようもないか。
となると逃げるなら東門からだな。
「そうか、ご苦労。冒険者ギルドはどう対応するんだ」
「はい、冒険者を集めて西門を守ります。今は副ギルド長が西門へ向かっております。バーデル領主兵と合流し各門を閉鎖してトリビア軍を防ぎます」
ギルド長が答える。バーデル家から緊急命令が出ているそうだ。それをわざわざ俺に伝えると言う事は、もしかして一緒に手伝わすつもりなのか? 何も言わないでいるといいようにされそうだ。
「よし分かった。実は昨夜チッキーナ男爵家の三男タンドリーと共に、南の街道を封鎖しようとしていたトレビア軍五十騎を撃破したんだ」
「なんとっ! そのような事があったのですか」
初めて聞いた情報にギルド長が驚いた。これで俺がスターテルの町の為に働いた事がわかっただろう。味方だと思い込んだはずだ。たまたま女が襲われてたので助けただけだが。
「ああ、タンドリーは一人で、さらに東の街道にいる友軍を撃破して北の砦に向かったはずだ。その砦が落ちたなら、おそらくは援軍を呼びに行ったはずだ。いくらAランク騎士とはいえ、一人ではどうしようもできなかったんだろう」
これは想像だが多分合っていると思う。
「それはそうでございますね」
ギルド長も難しい顔で腕を組み、状況に納得する。
「俺は何とかトレビアに向かい、情報を集めて王都へ行く。ギルド長、援軍が来るまで何とかこの町を守るように」
俺にそんな事を言う権限も責任も資格も無いが、勢いで適当な事を言っておいた。
そもそもこの町がトリビア伯爵領だろうが、バーデル騎士爵領だろうが俺には全く関係ないのだ。
勝手にやってくれ。
本当はそう思っているのだが、言えないので真剣な顔をする。
「はい、ありがとうございます。ケルビン様、では私はこれで」
「うむ」
ギルド長は走って行った。
気を付けてね。
三人は何だか大変な事が起こっていると心配そうに俺を見る。しかしアリエールは分かっているようで俺を見て。
「とんずらする気ね、ケルビン。てっきり残って町を守るって言うのかと思ったんだけど」
と、意外そうな顔をする。
「まあ、魔物が襲ってくる訳じゃないし戦う理由がないからな。アリエール、それよりユニコを出してくれないか。とっととこの町から脱出しよう。三人は小さくして俺の首にぶら下げていくか」
「わかったわ。確かに関係ないもんね。……ユニコーン召喚!」
アリエールが杖で地面をつつくと光り輝く魔法陣が発現する。――そしてそこから湧き上がるように神秘的な白いユニコーンが現れた。
角を生やした白馬を見た三人が、目を見開いて驚愕する。
「なっ召喚獣!?」
「うわっ何これ!?」
「ゆ、ユニコーン!?」
初めての召喚術にびっくりして固まった。俺は見慣れているが本当は高位の魔法なのだ、ステータルの町でこんな魔法を使える奴がいるはずもない。
「そうよ、可愛いでしょ、言っとくけど私もSランク冒険者なんだからね」
アリエールが三人を前に少し自慢気にユニコを撫でた。
「すごいです。流石ハイエルフ様ですね」
セリーが尊敬した瞳でアリエールを見る。他の二人も尊敬の眼差しだ。褒められたアリエールが上機嫌になる。
感動している三人を領域に入れる。指サイズに小さくすると俺の首元にぶら下げた。これなら楽に移動できる。
もちろん小さくなった自分の姿にまた三人とも驚いている。領域の中なので三人にはゆったりしたソファーを出して座らせた。
「じゃあ急ごうか」
「そうね」
アルエールと二人でユニコにまたがり颯爽と東門まで走り抜ける。
まだ情報が来てないのか、東門は通常通りのんびりした様子だった。敬礼されながら門を出て街道を北上する。
この付近の町ジュールの町を目指して走って行く。
ジュールの町はトレビア領だ。
スターテルの町を抜けしばらく走ると前から軍勢が見えてきた。
三百程の兵団だ。
ちっ……トレビア軍か。
こいつらも別動隊なのか、それにしても数が多い。やはり本気でスターテルの町を落とすつもりなのだろう。
人口四千人程の騎士領であるバーデル軍は最大兵力でも四百人程しかない。スターテルの町に出せるのは二百人程が精々だ。
北の砦に百人詰めていたらしいがそこを落とされたとすると、敵は恐らく三倍の三百人程の軍勢はいただろうと推測される。
昨日の騎馬隊が五十騎。二つで百人、合計七百以上の正規兵を出すとなると、もう完全に戦争だ。
そう言えば、以前アライバル盗賊団をつぶしたが、あそこも元騎士領だと言ってたな。
……どうもトリビア伯爵は胡散臭いな。
どうしたもんかなと考えているうちに、軍勢が近くまで寄って来た。(俺も同様に近づいている)
俺も貴族なので避ける必要は無いと思うが、向こうの方が多いのでぶつからないように端に避ける。
だが前にいた二騎が先行して走って来た。
先見隊か。
「我々はトレビア伯爵軍だ。旅の騎士とお見受けするが、どちらまで行かれるおつもりか」
警戒するように問いかけられた。
守っていたバーデル領主軍がスターテルの町へ逃げてくる。おそらくこれで貴族用の北門、一般用の西門も危なくなる。
どうやらタンドリーの救援も間に合わなかったようだな。……流石に一人じゃどうしようもないか。
となると逃げるなら東門からだな。
「そうか、ご苦労。冒険者ギルドはどう対応するんだ」
「はい、冒険者を集めて西門を守ります。今は副ギルド長が西門へ向かっております。バーデル領主兵と合流し各門を閉鎖してトリビア軍を防ぎます」
ギルド長が答える。バーデル家から緊急命令が出ているそうだ。それをわざわざ俺に伝えると言う事は、もしかして一緒に手伝わすつもりなのか? 何も言わないでいるといいようにされそうだ。
「よし分かった。実は昨夜チッキーナ男爵家の三男タンドリーと共に、南の街道を封鎖しようとしていたトレビア軍五十騎を撃破したんだ」
「なんとっ! そのような事があったのですか」
初めて聞いた情報にギルド長が驚いた。これで俺がスターテルの町の為に働いた事がわかっただろう。味方だと思い込んだはずだ。たまたま女が襲われてたので助けただけだが。
「ああ、タンドリーは一人で、さらに東の街道にいる友軍を撃破して北の砦に向かったはずだ。その砦が落ちたなら、おそらくは援軍を呼びに行ったはずだ。いくらAランク騎士とはいえ、一人ではどうしようもできなかったんだろう」
これは想像だが多分合っていると思う。
「それはそうでございますね」
ギルド長も難しい顔で腕を組み、状況に納得する。
「俺は何とかトレビアに向かい、情報を集めて王都へ行く。ギルド長、援軍が来るまで何とかこの町を守るように」
俺にそんな事を言う権限も責任も資格も無いが、勢いで適当な事を言っておいた。
そもそもこの町がトリビア伯爵領だろうが、バーデル騎士爵領だろうが俺には全く関係ないのだ。
勝手にやってくれ。
本当はそう思っているのだが、言えないので真剣な顔をする。
「はい、ありがとうございます。ケルビン様、では私はこれで」
「うむ」
ギルド長は走って行った。
気を付けてね。
三人は何だか大変な事が起こっていると心配そうに俺を見る。しかしアリエールは分かっているようで俺を見て。
「とんずらする気ね、ケルビン。てっきり残って町を守るって言うのかと思ったんだけど」
と、意外そうな顔をする。
「まあ、魔物が襲ってくる訳じゃないし戦う理由がないからな。アリエール、それよりユニコを出してくれないか。とっととこの町から脱出しよう。三人は小さくして俺の首にぶら下げていくか」
「わかったわ。確かに関係ないもんね。……ユニコーン召喚!」
アリエールが杖で地面をつつくと光り輝く魔法陣が発現する。――そしてそこから湧き上がるように神秘的な白いユニコーンが現れた。
角を生やした白馬を見た三人が、目を見開いて驚愕する。
「なっ召喚獣!?」
「うわっ何これ!?」
「ゆ、ユニコーン!?」
初めての召喚術にびっくりして固まった。俺は見慣れているが本当は高位の魔法なのだ、ステータルの町でこんな魔法を使える奴がいるはずもない。
「そうよ、可愛いでしょ、言っとくけど私もSランク冒険者なんだからね」
アリエールが三人を前に少し自慢気にユニコを撫でた。
「すごいです。流石ハイエルフ様ですね」
セリーが尊敬した瞳でアリエールを見る。他の二人も尊敬の眼差しだ。褒められたアリエールが上機嫌になる。
感動している三人を領域に入れる。指サイズに小さくすると俺の首元にぶら下げた。これなら楽に移動できる。
もちろん小さくなった自分の姿にまた三人とも驚いている。領域の中なので三人にはゆったりしたソファーを出して座らせた。
「じゃあ急ごうか」
「そうね」
アルエールと二人でユニコにまたがり颯爽と東門まで走り抜ける。
まだ情報が来てないのか、東門は通常通りのんびりした様子だった。敬礼されながら門を出て街道を北上する。
この付近の町ジュールの町を目指して走って行く。
ジュールの町はトレビア領だ。
スターテルの町を抜けしばらく走ると前から軍勢が見えてきた。
三百程の兵団だ。
ちっ……トレビア軍か。
こいつらも別動隊なのか、それにしても数が多い。やはり本気でスターテルの町を落とすつもりなのだろう。
人口四千人程の騎士領であるバーデル軍は最大兵力でも四百人程しかない。スターテルの町に出せるのは二百人程が精々だ。
北の砦に百人詰めていたらしいがそこを落とされたとすると、敵は恐らく三倍の三百人程の軍勢はいただろうと推測される。
昨日の騎馬隊が五十騎。二つで百人、合計七百以上の正規兵を出すとなると、もう完全に戦争だ。
そう言えば、以前アライバル盗賊団をつぶしたが、あそこも元騎士領だと言ってたな。
……どうもトリビア伯爵は胡散臭いな。
どうしたもんかなと考えているうちに、軍勢が近くまで寄って来た。(俺も同様に近づいている)
俺も貴族なので避ける必要は無いと思うが、向こうの方が多いのでぶつからないように端に避ける。
だが前にいた二騎が先行して走って来た。
先見隊か。
「我々はトレビア伯爵軍だ。旅の騎士とお見受けするが、どちらまで行かれるおつもりか」
警戒するように問いかけられた。
0
お気に入りに追加
570
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる