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第三章 王都シルバーニュ
29話 クローとケルビンの希望
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俺とクローは二人並んで陛下の前で跪いていた。
陛下の左右にはズラっと並ぶ高価な衣装に包まれた重臣が勢ぞろいだ。騎士団長のウォルターと副団長のタンドリー。宮廷魔導師長のソサーラと副師長プロフットも並んでいた。
どうしてこうなった……。
宿屋に入ってくつろごうとした時に呼び出されたのだ。
「ケルビン殿。陛下が面談したいと仰せになられたのです。急で悪いがご同行願いたいのです」
タンドリーが飛んで来たのだ。
「えっ今からですか。陛下が? 褒美でももらえるのかな」
「きっとそうでしょうね。もしかしたらケルビンさんを騎士に、なんて話じゃないですか」
エマールがタンドリーを見て問いかける。
「はははっ私はあくまで同行を命じられただけなので詳しくは……」
「でもそういう事よね。わざわざ急に呼び出すんだもん。それも副騎士団長に呼びに来させるなんてただ事じゃないわ、ねぇケルビン、王からこの国の騎士になれって言われたらどうするのよ。あなたは騎士になりたいの?」
アリエールが俺の気持ちを確かめるように聞いてきた。
「そうだなぁ。領地持ちの騎士になるのはいいかもな」
そう答えた俺にタンドリーの表情が険しくなった。
「ケルビン殿は領地が欲しいのですか?」
「ああ、自分の城を持つのが夢だったんだ。まあ、Aランク冒険者になって難しい指名依頼をバンバンこなすやり手冒険者になるのが目標だった、そうして強い仲間を集めて自分達の冒険者集団を作りたいと思っていたんだ。領主ならさらにそれが自由にできるだろ。宮使えの雇われ騎士なら遠慮したいな」
ついこないだまでは漠然と思ってただけだったが、Sランクになった以上その夢も実現可能な話になる。
「そうですか……ケルビン殿の場合、騎士になったからと言って騎士団に所属する必要もありませんが、なるほど、でしたら北の貴族街より、南の町人街に住居を構えたほうが良いですか」
タンドリーが話を聞いて具体的な質問になった。
「やっぱりそうなんですね。陛下は騎士の位と王都に住居をくれるつもりなんですよ。ケルビンさんに王都に住んで欲しいんですね」
エマールが確認するように言った。
「はい。シルバンデルク王国の騎士であり、王都シルバーニュに住居がある事、これを陛下がお望みです。なんせ我が国唯一の【領域の主】が現れたのですから」
「王国にはいなかったのか。勇者や他のSランクもいるとは聞いてたけど」
「ええ、勇者も他のSランクも《持ってます》が【領域の主】ではありません。なのでケルビンさんが我が王国待望の【領域の主】なのです。シルバンデルグ王国の騎士にエリアマスターがいる。その事に陛下も期待しておられるのです。難しい制約はありません。そもそも制約などあっても効きませんし意味がありません。あなたの方が強いのですから」
そうか。命令して聞かなくても抑えるすべがないのだ。結局強い奴が正義だからか。
すごいなチート。
神様本当にありがとう。
ならくれる物は貰っとくか。
「そうか、命令されないならいいや、騎士というのも恰好いいし、家もくれるならもらおうか。うん。チームを作ってメイドを雇おう」
「いいわね。じゃあ。住居は町民街にするのかしら」
「そうだな。その方がいいかな。依頼を受けるにしても貴族街じゃ困ってる人が入れないだろ」
「わかりました。陛下にはそうお伝えしましょう。ではケルビン殿。ご同行よろしいでしょうか」
「わかった。俺一人だけか?」
「ええ、残念ながらお一人でお願いします。私が持ってお運びしますので……【鳥形態化】!」
タンドリーがそう叫ぶと、その体から羽が生え始め、見る見る内に大きな羽を持つ鳥に変化した。
「「「おおおお!」」」
「それがタンドリーの能力か」
『はい。鳥形態に成れるのです。空は自由に飛べますが、そのせいで運ぶ仕事が多いですね。強くもないですし余り面白味がないでしょう』
そこには鎧を付けたまま大きな鳥になった副騎士団長が立っていた。
「そ、そんな事ないんじゃない、かな」
「ええ、まあ」
「ははははは」
エマールも愛想笑いしかできない。確かにすごい能力なのだろうが……。
タンドリの足に【絶対領域】で成形したカゴをひっかけて窓から二人で飛び立った。
☆
「ミノタウロスキングの速やかな討伐。誠に見事な活躍であった。クロー殿、ケルビン殿、感謝いたす」
陛下が壇上から頭を下げる。
「はっ」
「はっ」
「そして王都を脅威から守った二人にはその功績を評価し騎士の爵位を送りたい。受けてくれるな」
「はっこのクロー・ウィル、シルバンデルク王国の騎士として王国を守る剣となることを誓います」
「はっケルビン・シルバー。右に同じ」
「うむ。では二人にこの、シルバンデルク王国第七位 騎士爵を授ける。頼りにしておるぞ二人とも」
「はっ」
「はっ」
陛下から騎士の証である小さな剣を授与された。重臣からも暖かな拍手が送られた。
☆
「ついに俺も騎士になれた……。ケルビンのおかげだな。感謝するぜ」
クローが嬉しそうにお礼を言った。
クローさんはずっと騎士になりたくて冒険者になったそうだ。チート神の前髪を触ってチート能力【黒龍の右手】を手に入れたものの、Aランク冒険者になる為には相当な苦労をしてきたようだった。
貴族出身ではない平民が冒険者としてこの国の貴族になるにはAランクになるか(Aランクになり申請が認められれば王国十位、下士の位が与えられる)Sランク(王国八位、上士)になるしかない。
さらに陛下が認めた功績をあげた場合のみ騎士の位が授けられるのだ。
今回の件でその話を聞いた俺は、クローさんと一緒なら騎士任命を受ける、と言ったのだ。
「いや、クローさんの立ち向かう姿に俺も勇気をもらったから、これは正当な評価だと思う」
「そうか。ありがとよ。で、住居だけど町人街にするんだって? また変わってるな」
「うん。俺の冒険者集団を作りたいんだ。冒険者ギルドが受けてくれないような依頼でも受ける組織を作ろうと思う。想定依頼人は平民だからね。まあ、好き勝手やるだけなんだけど」
「へーやっぱお前はすごい奴だな。何かあったら手伝うぜ。チームに入ろうとは思わねえけど」
「助かるよ、そもそも、そんな難しい依頼があるとは思ってはないんだけどね」
「そうだな。お前が手に負えないんじゃ誰も手に負えねーか。はっはっはっは」
上機嫌なクローと別れて妻の待つ宿へと帰った。
陛下の左右にはズラっと並ぶ高価な衣装に包まれた重臣が勢ぞろいだ。騎士団長のウォルターと副団長のタンドリー。宮廷魔導師長のソサーラと副師長プロフットも並んでいた。
どうしてこうなった……。
宿屋に入ってくつろごうとした時に呼び出されたのだ。
「ケルビン殿。陛下が面談したいと仰せになられたのです。急で悪いがご同行願いたいのです」
タンドリーが飛んで来たのだ。
「えっ今からですか。陛下が? 褒美でももらえるのかな」
「きっとそうでしょうね。もしかしたらケルビンさんを騎士に、なんて話じゃないですか」
エマールがタンドリーを見て問いかける。
「はははっ私はあくまで同行を命じられただけなので詳しくは……」
「でもそういう事よね。わざわざ急に呼び出すんだもん。それも副騎士団長に呼びに来させるなんてただ事じゃないわ、ねぇケルビン、王からこの国の騎士になれって言われたらどうするのよ。あなたは騎士になりたいの?」
アリエールが俺の気持ちを確かめるように聞いてきた。
「そうだなぁ。領地持ちの騎士になるのはいいかもな」
そう答えた俺にタンドリーの表情が険しくなった。
「ケルビン殿は領地が欲しいのですか?」
「ああ、自分の城を持つのが夢だったんだ。まあ、Aランク冒険者になって難しい指名依頼をバンバンこなすやり手冒険者になるのが目標だった、そうして強い仲間を集めて自分達の冒険者集団を作りたいと思っていたんだ。領主ならさらにそれが自由にできるだろ。宮使えの雇われ騎士なら遠慮したいな」
ついこないだまでは漠然と思ってただけだったが、Sランクになった以上その夢も実現可能な話になる。
「そうですか……ケルビン殿の場合、騎士になったからと言って騎士団に所属する必要もありませんが、なるほど、でしたら北の貴族街より、南の町人街に住居を構えたほうが良いですか」
タンドリーが話を聞いて具体的な質問になった。
「やっぱりそうなんですね。陛下は騎士の位と王都に住居をくれるつもりなんですよ。ケルビンさんに王都に住んで欲しいんですね」
エマールが確認するように言った。
「はい。シルバンデルク王国の騎士であり、王都シルバーニュに住居がある事、これを陛下がお望みです。なんせ我が国唯一の【領域の主】が現れたのですから」
「王国にはいなかったのか。勇者や他のSランクもいるとは聞いてたけど」
「ええ、勇者も他のSランクも《持ってます》が【領域の主】ではありません。なのでケルビンさんが我が王国待望の【領域の主】なのです。シルバンデルグ王国の騎士にエリアマスターがいる。その事に陛下も期待しておられるのです。難しい制約はありません。そもそも制約などあっても効きませんし意味がありません。あなたの方が強いのですから」
そうか。命令して聞かなくても抑えるすべがないのだ。結局強い奴が正義だからか。
すごいなチート。
神様本当にありがとう。
ならくれる物は貰っとくか。
「そうか、命令されないならいいや、騎士というのも恰好いいし、家もくれるならもらおうか。うん。チームを作ってメイドを雇おう」
「いいわね。じゃあ。住居は町民街にするのかしら」
「そうだな。その方がいいかな。依頼を受けるにしても貴族街じゃ困ってる人が入れないだろ」
「わかりました。陛下にはそうお伝えしましょう。ではケルビン殿。ご同行よろしいでしょうか」
「わかった。俺一人だけか?」
「ええ、残念ながらお一人でお願いします。私が持ってお運びしますので……【鳥形態化】!」
タンドリーがそう叫ぶと、その体から羽が生え始め、見る見る内に大きな羽を持つ鳥に変化した。
「「「おおおお!」」」
「それがタンドリーの能力か」
『はい。鳥形態に成れるのです。空は自由に飛べますが、そのせいで運ぶ仕事が多いですね。強くもないですし余り面白味がないでしょう』
そこには鎧を付けたまま大きな鳥になった副騎士団長が立っていた。
「そ、そんな事ないんじゃない、かな」
「ええ、まあ」
「ははははは」
エマールも愛想笑いしかできない。確かにすごい能力なのだろうが……。
タンドリの足に【絶対領域】で成形したカゴをひっかけて窓から二人で飛び立った。
☆
「ミノタウロスキングの速やかな討伐。誠に見事な活躍であった。クロー殿、ケルビン殿、感謝いたす」
陛下が壇上から頭を下げる。
「はっ」
「はっ」
「そして王都を脅威から守った二人にはその功績を評価し騎士の爵位を送りたい。受けてくれるな」
「はっこのクロー・ウィル、シルバンデルク王国の騎士として王国を守る剣となることを誓います」
「はっケルビン・シルバー。右に同じ」
「うむ。では二人にこの、シルバンデルク王国第七位 騎士爵を授ける。頼りにしておるぞ二人とも」
「はっ」
「はっ」
陛下から騎士の証である小さな剣を授与された。重臣からも暖かな拍手が送られた。
☆
「ついに俺も騎士になれた……。ケルビンのおかげだな。感謝するぜ」
クローが嬉しそうにお礼を言った。
クローさんはずっと騎士になりたくて冒険者になったそうだ。チート神の前髪を触ってチート能力【黒龍の右手】を手に入れたものの、Aランク冒険者になる為には相当な苦労をしてきたようだった。
貴族出身ではない平民が冒険者としてこの国の貴族になるにはAランクになるか(Aランクになり申請が認められれば王国十位、下士の位が与えられる)Sランク(王国八位、上士)になるしかない。
さらに陛下が認めた功績をあげた場合のみ騎士の位が授けられるのだ。
今回の件でその話を聞いた俺は、クローさんと一緒なら騎士任命を受ける、と言ったのだ。
「いや、クローさんの立ち向かう姿に俺も勇気をもらったから、これは正当な評価だと思う」
「そうか。ありがとよ。で、住居だけど町人街にするんだって? また変わってるな」
「うん。俺の冒険者集団を作りたいんだ。冒険者ギルドが受けてくれないような依頼でも受ける組織を作ろうと思う。想定依頼人は平民だからね。まあ、好き勝手やるだけなんだけど」
「へーやっぱお前はすごい奴だな。何かあったら手伝うぜ。チームに入ろうとは思わねえけど」
「助かるよ、そもそも、そんな難しい依頼があるとは思ってはないんだけどね」
「そうだな。お前が手に負えないんじゃ誰も手に負えねーか。はっはっはっは」
上機嫌なクローと別れて妻の待つ宿へと帰った。
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