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第9話 泥試合
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「愚かな人間よ我は魔王軍四天王、辺獄のカース、かかってくるといい」
いざ尋常に勝負。
「とりあえず撃っとけ!」
今回の魔法の威力の確認を兼ねた一撃を食らわす。さっきよりも随分と控えめな攻撃だったが四天王の一人はそこそこのダメージを喰らう。
「貴様何者だ…ここまでダメージをもらうのは何十年ぶり…」
「出し惜しみはなしだ、ウオオオオ」
一発目からクライマックスのようで雄たけびをあげながら最終形態らしき姿に変身するが一度跡形もなく消し飛ばしている相手なのであまり恐怖は感じない。まぁ俺がすごいわけではないけれど。
「九重君あんまり調子に乗っているとまた死ぬことになるよ」
「え、それって…」
「よそ見をするな!」
会話を遮るように俺に近づき素手での近接攻撃を繰り出してくる。小さい頃に殴り合いの喧嘩をした経験しかない俺では見切ることなんて到底叶わないはずの拳を目で追える。これがSランク冒険者相当の力、攻撃の防ぎ方、殴り方に蹴り方までが当然のように分かる。
「ぐあっ!!!」
腹に拳がめり込み苦しみの声を上げるカース、痛みを感じてはいそうだが致命的なダメージにはなっていなさそうだ、銃で吹き飛ばしたいが距離が近すぎて構える隙を与えてくれない。渋々殴り合いを続ける、お互い攻撃は喰らうが倒れる気配はない。これは…あれだな…
「泥試合だな…」
違う、俺は死闘と言いたかったんだ、上位生命体の視点で勝手に泥試合判定をするなクソババア。
「あ!痛たた!!」
急にとんでもない腹痛に襲われ動きが止まってしまう。
「隙を見せたな!」
会心の一撃が鳩尾に決まり壁まで吹き飛ばされる。
「ガハっ…」
口から血を吐き出すという普通に暮らしていたら経験しないことを初体験する、弟子の戦闘を妨害する師匠というのは前代未聞だろう。
「次はそこの女、お前を始末する」
標的が師匠に移りこちらを見ていない、距離も確保することが出来た、反撃の機会が巡ってくる。
「死ね!」
腕を銃に変形させさっきと同じ一撃をお見舞いする。確実に命中した、ダメージも入ってはいるが致命傷には至らずまだまだ元気な様子だ。
「その攻撃は先ほど喰らったが本気を出した私には通用しない!」
「勝負はついたと思っていたがなかなかしぶといな」
再度標的を俺に絞り殴りかかってくる。決着がつきそうにもないので師匠のほうをチラッと見るとアドバイスらしきものをくれる。
「工夫が足りないよ、頭を使わないとその力も豚に真珠だね」
アドバイスというより皮肉なのでなにかが変わるわけでもなく、仕方なく殴り合いに応じる。
今俺の手元にある力は、そこそこの体術に基本的な魔法、必殺技ポジションの銃魔法だ。まだ使っていない手札は普通の魔法、異世界にきてからよくある魔法だけは使っていなかった。それを思い出し殴り合いながらなんとか使ってみる。頭の中で念じるだけで発動するというのが感覚で分かっていた。
「(技の名前はよくわかんないけどとりあえず炎でろ!)」
あの日見た炎の竜巻がカースを覆う。
「貴様なにをした!」
身動きが取れないことを確認、絶好のチャンス。今度は弾丸に氷の魔法をエンチャントし殺傷能力を向上させる。
――ドン――
太く長く鋭利な氷が相手に突き刺さり致命傷を与える。
「無念…」
最後のセリフがテンプレすぎることは無視して、死闘を制した安堵で座り込む。もっと余裕な勝利をイメージしていたので現実とのギャップで疲労がより体にのしかかる。
「疲れた…」
「よく頑張ったね」
え、褒めてくれているのか…?素直に認めてくれるなんてはじめてなんじゃないか…?珍しい出来事すぎて怪我が完全に治っていることには気づかない。
「しかし、あんなのに手こずるなんてつくづく才能がないようだね」
はい、わかってたいましたよ、素直に褒めてくれるわけがないと。
「このまま他の四天王を倒すか帰って企画を練るか決めるといい」
「じゃあ帰宅で…」
「いいだろう」
自宅のベランダに到着、この能力あまりにも便利すぎないか?
「なにかあったら報告したまえ、では」
消えていった師匠を見送り布団に飛び込む、流石にゲームをする余力は残っていない。
目が覚めると夕方でまた一日を無駄にする、厳密には厳しい戦いをしているので全てが無駄という訳ではないが異世界にいる間はこっちの世界の時間は止まっているのでただ寝ただけになってしまう。
作業のお供を買うためにコンビニに行く、帰宅中のサラリーマンやイチャイチャするカップルを眺めているとラブコメも書いてみたい欲望が顔を出すが却下されそうなので気持ちに蓋をする。
帰宅し購入したエナジードリンクを飲み気合を入れ企画を作り出す、今回の経験を活かし主人公が銃の魔法で無双するものを考えてはみるがあまりにも定番から外れすぎているのでお蔵入り。
「いや…むっず…」
主人公を最初から最強の話にするのか、落ちこぼれから始めるのか、いっそのこと主人公を悪の勢力にするか、なにも決められない。
「本当にラブコメ書いてみるか…?」
初めてのラブコメで師匠からの許可が出る訳がないのは分かりきっている。
「とりあえず本物の魔王見るか…」
ベランダに出て来てくださいと念じたらすぐに飛んできてくれた。
「面白い企画はできたのかい」
「いや…まだで…とりあえず魔王見て見たいなぁと思いまして…」
「そんなことか、では行こう」
飛んだ先は俺が死闘を繰り広げたあの部屋でカースの死体が転がっている。
「四天王に興味はないんだな?」
「そうですね、もうあいつでお腹いっぱいです」
「だらしないな」
少し怒っているのかズカズカと先に進む師匠のあとを早歩きでついていく。扉を開くとなぜここにとでもいいたげな四天王と思われる魔物が口を開く前に師匠が俺が使ったような氷の魔法で瞬殺していく。それを三回繰り返し今までより一回り大きい扉を開くと魔王らしき魔物が一言。
「なぜここに人間が!」
お前もそれ言うのかい。
いざ尋常に勝負。
「とりあえず撃っとけ!」
今回の魔法の威力の確認を兼ねた一撃を食らわす。さっきよりも随分と控えめな攻撃だったが四天王の一人はそこそこのダメージを喰らう。
「貴様何者だ…ここまでダメージをもらうのは何十年ぶり…」
「出し惜しみはなしだ、ウオオオオ」
一発目からクライマックスのようで雄たけびをあげながら最終形態らしき姿に変身するが一度跡形もなく消し飛ばしている相手なのであまり恐怖は感じない。まぁ俺がすごいわけではないけれど。
「九重君あんまり調子に乗っているとまた死ぬことになるよ」
「え、それって…」
「よそ見をするな!」
会話を遮るように俺に近づき素手での近接攻撃を繰り出してくる。小さい頃に殴り合いの喧嘩をした経験しかない俺では見切ることなんて到底叶わないはずの拳を目で追える。これがSランク冒険者相当の力、攻撃の防ぎ方、殴り方に蹴り方までが当然のように分かる。
「ぐあっ!!!」
腹に拳がめり込み苦しみの声を上げるカース、痛みを感じてはいそうだが致命的なダメージにはなっていなさそうだ、銃で吹き飛ばしたいが距離が近すぎて構える隙を与えてくれない。渋々殴り合いを続ける、お互い攻撃は喰らうが倒れる気配はない。これは…あれだな…
「泥試合だな…」
違う、俺は死闘と言いたかったんだ、上位生命体の視点で勝手に泥試合判定をするなクソババア。
「あ!痛たた!!」
急にとんでもない腹痛に襲われ動きが止まってしまう。
「隙を見せたな!」
会心の一撃が鳩尾に決まり壁まで吹き飛ばされる。
「ガハっ…」
口から血を吐き出すという普通に暮らしていたら経験しないことを初体験する、弟子の戦闘を妨害する師匠というのは前代未聞だろう。
「次はそこの女、お前を始末する」
標的が師匠に移りこちらを見ていない、距離も確保することが出来た、反撃の機会が巡ってくる。
「死ね!」
腕を銃に変形させさっきと同じ一撃をお見舞いする。確実に命中した、ダメージも入ってはいるが致命傷には至らずまだまだ元気な様子だ。
「その攻撃は先ほど喰らったが本気を出した私には通用しない!」
「勝負はついたと思っていたがなかなかしぶといな」
再度標的を俺に絞り殴りかかってくる。決着がつきそうにもないので師匠のほうをチラッと見るとアドバイスらしきものをくれる。
「工夫が足りないよ、頭を使わないとその力も豚に真珠だね」
アドバイスというより皮肉なのでなにかが変わるわけでもなく、仕方なく殴り合いに応じる。
今俺の手元にある力は、そこそこの体術に基本的な魔法、必殺技ポジションの銃魔法だ。まだ使っていない手札は普通の魔法、異世界にきてからよくある魔法だけは使っていなかった。それを思い出し殴り合いながらなんとか使ってみる。頭の中で念じるだけで発動するというのが感覚で分かっていた。
「(技の名前はよくわかんないけどとりあえず炎でろ!)」
あの日見た炎の竜巻がカースを覆う。
「貴様なにをした!」
身動きが取れないことを確認、絶好のチャンス。今度は弾丸に氷の魔法をエンチャントし殺傷能力を向上させる。
――ドン――
太く長く鋭利な氷が相手に突き刺さり致命傷を与える。
「無念…」
最後のセリフがテンプレすぎることは無視して、死闘を制した安堵で座り込む。もっと余裕な勝利をイメージしていたので現実とのギャップで疲労がより体にのしかかる。
「疲れた…」
「よく頑張ったね」
え、褒めてくれているのか…?素直に認めてくれるなんてはじめてなんじゃないか…?珍しい出来事すぎて怪我が完全に治っていることには気づかない。
「しかし、あんなのに手こずるなんてつくづく才能がないようだね」
はい、わかってたいましたよ、素直に褒めてくれるわけがないと。
「このまま他の四天王を倒すか帰って企画を練るか決めるといい」
「じゃあ帰宅で…」
「いいだろう」
自宅のベランダに到着、この能力あまりにも便利すぎないか?
「なにかあったら報告したまえ、では」
消えていった師匠を見送り布団に飛び込む、流石にゲームをする余力は残っていない。
目が覚めると夕方でまた一日を無駄にする、厳密には厳しい戦いをしているので全てが無駄という訳ではないが異世界にいる間はこっちの世界の時間は止まっているのでただ寝ただけになってしまう。
作業のお供を買うためにコンビニに行く、帰宅中のサラリーマンやイチャイチャするカップルを眺めているとラブコメも書いてみたい欲望が顔を出すが却下されそうなので気持ちに蓋をする。
帰宅し購入したエナジードリンクを飲み気合を入れ企画を作り出す、今回の経験を活かし主人公が銃の魔法で無双するものを考えてはみるがあまりにも定番から外れすぎているのでお蔵入り。
「いや…むっず…」
主人公を最初から最強の話にするのか、落ちこぼれから始めるのか、いっそのこと主人公を悪の勢力にするか、なにも決められない。
「本当にラブコメ書いてみるか…?」
初めてのラブコメで師匠からの許可が出る訳がないのは分かりきっている。
「とりあえず本物の魔王見るか…」
ベランダに出て来てくださいと念じたらすぐに飛んできてくれた。
「面白い企画はできたのかい」
「いや…まだで…とりあえず魔王見て見たいなぁと思いまして…」
「そんなことか、では行こう」
飛んだ先は俺が死闘を繰り広げたあの部屋でカースの死体が転がっている。
「四天王に興味はないんだな?」
「そうですね、もうあいつでお腹いっぱいです」
「だらしないな」
少し怒っているのかズカズカと先に進む師匠のあとを早歩きでついていく。扉を開くとなぜここにとでもいいたげな四天王と思われる魔物が口を開く前に師匠が俺が使ったような氷の魔法で瞬殺していく。それを三回繰り返し今までより一回り大きい扉を開くと魔王らしき魔物が一言。
「なぜここに人間が!」
お前もそれ言うのかい。
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