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第3話 弟子入りの条件

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「断る!!!」



 「はあ!?!?あんたが言い出したことなのに!?!?」



 この女は強大な力を得る代わりに思いやりを捨てたのだろう、だが落ち着け、武力で勝ち目がないのはさっきの光景を思い出せばすぐに分かる。あまりにもムカつくもんだからついついタメ口になってしまった。



 「落ち着け、教えを乞えとは言ったがいきなり弟子になるというのは突飛すぎると思はないかい?」

 「今回の場合はもっとアドバイスを求めろということだよ」



 向こうの言い分が正しいのは分かるが、やはり絶妙にむかつく喋り方をしてくるな。



 「けど、アドバイスはさっきしてもらいましたよ?さらに欲張るのは傲慢じゃないですか…?」

 「それは傲慢だという感性を持ち合わせておきながら弟子入りを懇願するとは少し面白いじゃないか」

 「ならこうしよう、私が面白いと思う小説を書きたまえ、そしたら弟子になることを許可しよう」



 何たる幸運、面白い小説を書くだけでこんなにすごい人の弟子になれるなんて自分の運の良さが恐ろしい。

 こんな簡単な条件でいいと思うと頬が緩んでしまう。そんな俺の表情から察したのか、それとも思考を読んだのかは不明だが、本日何度目か分からないため息をついてから話始める。



 「九重君基準のおもしろいではないよ、私基準のおもしろい小説を作らなくてはいけないんだよ」



 これは話が変わってきたな、ベストセラー連発の人を満足させるものなんて俺に書けるのか?草野球で無双すればいいと思ってたのにメジャーリーグで大活躍しろと言われた気分だ。



 「じゃ、じゃあそれに向けてアドバイスをいただけないでしょうか…」

 「甘ったれるな、これは試練だ、創作のように毎回誰かが手を差し伸べてくれるわけがない」

 「わかりましたよ!書けばいいんでしょ書けば!!」



 やるしかない、ここでダメなら俺は一生売れないままだ。



 「48時間後に見せてもらおう、一話だけ書けばいいよ、じゃあまたね」



 そう言った新山さんは部屋に戻るのではなくその場から姿を消した。きっと瞬間移動系の能力でも使ったんだろう。



 「なんであんなクソを煮詰めた性格のやつがありえない強さをしているんだよ」



 小さく恨み言を呟く。その瞬間、俺の右腕がありえない方向に回り始める。ミシミシと鳴ってはいけない音が聞こえた。



 「痛い!なにこれ痛い!!」



 惨めに騒ぐ俺の脳内にさっきまで聞いていた声が直接入ってくる。



 「誰がクソを煮詰めた性格だって?」



 油断していた、いなくなったから悪口言いたい放題だと思ってたのに本当に何でも出来るのかよ。



 「ごめんなさい!!!間違えただけです!!!」



 我ながら厳しすぎる言い訳だが意外と聞く耳を持ってくれたようで、腕は元通りになり痛みも完全になくなっていた。



 「まぁいい。私の性格が本当に悪いなら弟子入りの話も最初から断っていたはずだよ」



 確かにその通りだ、こんなにすごい人が俺と会話をしてくれている時点で奇跡みたいなものだ。すごい人と話しただけで自分まですごくなったと感じてしまうなんて愚か者の極みだ。



 「す、すいません。以後気を付けます」

 「よろしい、では明後日楽しみにしているぞ」



 声は聞こえなくなり日常が帰ってきたように感じた。念のため頬をつねり夢じゃないことを確認する。



 「いたっ…」



 さっきまでの光景が夢ではないことが確定した、かといって俺が強くなったわけでもないので特に何も感じない。今の俺に出来ることは面白い小説を書くことだ。

 しかし、なんでお姉さんは俺の隣の部屋に来て能力の一部を見せてくれたのだろう、考えられるのはただの暇つぶしか、俺の秘められた才能をあの人だけは見抜いている、この二つしかあり得ない。この場合後者だと思い込んでしまうのが人間というもので俺はすっかり調子に乗ってしまう。



 「48時間か…才能マシマシな俺様なら面白い小説を書くなんて余裕だな!とりあえずゲームするか!」



 さっきまでの溢れんばかりのモチベーションをベランダに置いてそそくさと部屋に戻った。



 24時間後



 「くたばれ平民ども!!」

 「勇者の弟子である俺様に歯向かうとはいい度胸だ!!」

 「おい、まて、ふざけんな!」



 defeatの文字が再度画面を覆ったことで我に返る、小説を書かないといけないことをすっかり忘れていた。



 「メチャクチャ面白いの書いてやりますか~」



 24時間が経過したというのに進捗は0にも拘らず依然調子に乗りまくっている俺はウキウキでベランダに出る。タバコを吸うためもあるがここに来れば平凡な自分から特別な何者かになれる気がする、そんな心の拠り所になっていた。



 「お姉さ~ん、また俺の腕スナイパーライフルにしてくださいよ~」



 返事はない、体に違和感もない。



 「聞いてるんでしょ~?はやくしてくださいよ~」



 当然何も起こらない。



 「バーン…」



 当たり前に不発。



 頭の悪い俺はここでようやく思い出す、すごいのは新山さんで俺は今も変わらず一般人Aだということに。調子に乗っては痛い目を見る、悪い癖は一日二日では治らない。どんなに分かったつもりでいても目をそむけたくなる現実、それを変えるチャンスが来たのに棒に振るところだった。

 締め切りまで24時間これが己を変えるラストチャンスだ。二口しか吸っていないタバコの火を消し急いでパソコンの前に座る。



 「よし…!テーマはめちゃくちゃチートだけど死ぬほどお人好しな勇者だ!」



 俺がこれまで書いていたチート系の話にお姉さんと話した勇者の精神面を加えて俺史上最高の作品を作ってやる。やる気は十分、あとはやるだけだ。

 高校生のころから執筆していて筆の速さだけは一人前だった、これまでの積み重ねを遺憾なく発揮する時が来た。モチベーションが低下していた最近とは作業中の充実感が比べ物にならない、数時間で一話を書き終えそのまま二話、三話と書き続ける。途中で軽い休憩を取りながらもほぼぶっ通しで24時間書き続け、その間ベランダに出ることなかった。



 24時間後



 「疲れた…けど楽しかったな…こんなに書いたの久しぶりだ」



 タバコと外の空気を吸いながらボーっとしていると音もなくお姉さんが登場する。



 「時間ピッタリだね、それじゃあ見せてもらおうか」

 「よ、よろしくお願いします!!」



 ゴクリと息を飲む、心臓の鼓動が速くなる、絶対に面白いと言わせて見せる。
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