なりゆきの同居人

七月きゅう

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#111

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 詩織は、前方のきらめく大きなクリスマスツリーを指さして歩き出す。
律もそれを追いかけるように足を踏み出した。

 ―…ここ二週間、会えない日も詩織とはやり取りをしてきた。
けれど、今はそのつながりすらも頼りなく感じた。

最近、彼は仕事で忙しいから会えないのだとばかり思っていたけれど、本当はもう他の女性に気が移ったのかもしれない。
自分とのやり取りは、その片手間で…

こんな日に限って、やめようと思っても悪い想像がふくらんでいく。
「そこに、ヤドリギのリースがあるんだ。一般にはあまり知られていないが…」
「…すみません三上さん、ちょっと待ってて下さい!」

 彼の言葉をさえぎって一方的に言い置いたのも構わず、律は来た道を引き返す。
先ほどの屋台でラッキーコインを一枚買うと、すぐにまた彼の元に戻った。
「これ…」

 律がコインを握りしめた手を出すと、詩織はきょとんとしながらも、手を開く。
「三上さんにも…幸せがありますように」
金貨を受け取った彼が、きゅっと口の端をつり上げた。

「君がそばにいてくれれば、すぐにでも叶うことだ」
直球の愛の言葉はどうせまた、からかいたいがために口にしているのだろうけれど、その手には乗らない。
「そっ…そばにいます!」

はっきりと言ったつもりだったけれど、周囲に人がいることと、気恥ずかしさから声は小さくなった。
しかしそれでも彼には届いたのだろう、驚いたように目を見開いている。
めったに見られない顔だ。

「今も三上さんがそれを望んでくれているなら…ですが。……もちろん、期間限定も覚悟の上です」
最後の言葉に、詩織が不可解そうに片眉をつりあげる。
「期間限定?」

「えーと、つまり…三上さんが、他の女性に心変わりする間だけでも…ということです」
こんなの、都合のいい安売り女だ。
それでも尽きない不安が律にそれを口にさせる。
冗談っぽく言うつもりだったが、思いのほか心許こころもとない声になってしまった。

 詩織が眉間にしわを寄せる。
「それほど俺を軽く見るのは侮辱じゃないか?」
「き、気にしないで下さい!……自分の期待に対する予防線なので」

 頑として、詩織の心変わりを予言して譲らない律に、彼は呆れているのか半眼を向ける。
「…修正箇所が一つある」
「?はい…」
「期間限定じゃなく、結婚前提だ」

 その言葉に、今度は律が眉間にしわを刻む。
「三上さん…付き合ってもいないうちから結婚をほのめかすのは、軽さの極みではないですか?」
「君が、俺と他の男とを掛け持ちをしなくて済むようにという配慮だ」
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