なりゆきの同居人

七月きゅう

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 婚約を解消してもらおう。
真と会う当日、律はそう心に決めて家を出た。

 ここ一週間、結婚と婚約破棄の間を揺れ続けた末にやっと決断したことだ。
このまま自分の心に目をつむって流されるように結婚したところで、きっと結婚生活は幸せとは程遠いものになってしまうだろう。

 詩織の諸々の助言は抜きにして、自分の気持ちだけで選んだ結果だ。
真には今日、このことを伝えるつもりだ。
彼は…きっと理解してくれるはず。

 あるいは、律からその話を持ち出せば、真は安堵するかもしれない。
彼だって、不貞行為の疑惑のある婚約者を妻にはしたくないと思っているかもしれないし。

すべてが円満に終わることを願っているけれど、一方で軽蔑されることも罵られることも覚悟している。
自分が取った軽率な行動について責められたら…ただ、謝るしかない。
どんな結果になるとしても、今日が真と顔を合わせる最後の日になるだろう。

 律が真と待ち合わせたのは、彼の職場の近くにあるファミレスだった。
真はいつも通り振る舞っているものの、この間の一件のせいか、どこかぎこちなく見えた。
彼から見た律も、きっと同じように見えているのだろう。

 互いに仕事があったため、落ち合った今はすでに22時近い。
ウェイトレスの案内に従って、店内の半個室の席に通されると、律は周囲を確認して胸をなでおろした。

平日で、しかも混雑する時間帯を過ぎているせいか、店内は比較的静かだし、周りに他の客はいない。
これからする話のためには、ちょうどいい環境だ。

「飯は?」
メニュー表をぱらぱらとめくる真が問いかけてくる。
「…ううん、大丈夫」

夕食がまだだという彼は料理を頼んだが、律は飲み物だけにした。
この後、彼に伝えなければならない話を考えると、とても食事なんて気にはなれない。

「―…それで、この間のことなんだけど」
注文を終えると、ウェイトレスが離れるのを見計らって、真がすぐに本題に入った。
こんな時間で、しかも明日も仕事となると、早く問題を片付けたいのだろう。

「電話でも聞いたけど、あの時割り込んできた男は誰だ?」
「彼は…今、私が家を間借りしてる友達の…弟さん」
「それで、お前との関係は?」

「…関係っていうほどのものは、何も」
ちらりと真を一瞥すると、腕組みをした彼は、さも不可解だと言いたげに眉根を寄せている。
「普通、何もない二人が一緒に出かけるか?しかも、あいつはお前の電話に割り込んできて…」

「あの時は…皆で出かけてたの」
律はとっさに嘘をついた。
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