堕ちた聖騎士は淫魔の王に身も心も捧げたい。捧げた。

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騎士ジェラルドと淫魔の王

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 負け戦をひっくり返し、勝利したのだ。国王は大喜びで、国中が戦勝の喜びに沸き立った。

 長年の敵国シュラン太公国はオールボ王国シュラン領として併合され、シュラン侯爵領としてジェラルドに与えられることになった。公爵家の三男だったジェラルドは、シュラン侯爵に叙爵されたのだ。

 だが、ジェラルドは屋敷に閉じ籠ったきりだった。

 魔導士を殺しても、刻まれた淫紋は全身で脈打っていた。
 焼け爛れて潰れた股間は尿を垂れ流し、メスの発情が治らない尻の奥は熟れて熱く、穴もすっかり壊れて緩んだ。大便さえ垂れ流しだ。
 それでも、太く長い男根で擦られたくてたまらない。
 己の有様のすべてが屈辱で、ジェラルドは眠ることもできなくなっていた。

 焼け落ちた太公宮に到着した王国軍に保護されたジェラルドは医師の診察を受けさせられたから、ジェラルドの状況を国王やその側近たちは知っている。

 国王は治療のための神官や魔導士を寄越してくれた。鉄楔を打たれた足は傷跡を残して癒えたものの、発情淫紋は消せなかった。
 太公国で和平特使団が受けた仕打ちは報告書にまとめて提出した。あの地下牢で死んだ四人の騎士たちの名誉をなんとしても守りたかったから、包み隠さず書き記した。

 幸いなことに、ジェラルドの叙爵とともに四人にも功績騎士爵が贈られ、唯一妻帯していたバートランド卿の長男は騎士爵相続を認められた。遺族の暮らしは守られた。

 だが、良かったことはそれだけだ。

 たった一人で太公宮を殲滅した血狂い。
 醜い騎士。
 ブタの花嫁。
 逞しい男根が忘れられず、牡馬に尻を慰めさせている。

 ジェラルドに対する心無い陰口は、屋敷の中でも囁かれていた。外はもっと酷いことになっていることだろう。
 報告書の中身が漏れたのは疑いようもないことだった。

 白狼騎士団長になってから構えた屋敷には、父も兄たちも尋ねて来なかった。唯一、叙爵の知らせに勅使が来たが、執事が応対した。

 使用人たちはどんどん逃げ出して、伯爵家からは婚約撤回の申し出がきた。優しく美しい世間知らずの令嬢がジェラルドの噂に耐えられるはずもない。もちろん快諾してやった。

 逃げたい者は逃げればいいと思った。皆、ジェラルドを讃えるふりをしながら蔑んでいた。
 ジェラルドは死にたかった。

 そうしなかったのは、マウォロスの誓文があったからだ。騎士になる者は皆、主に剣を捧げるとともに、息を引き取る最期の刻まで戦うことを戦神に誓っている。あの地下牢で、オークに汚され喰われた同僚たちは誓文を全うしたのだ。
 だからこそ、生き残ったジェラルドは逃げるわけにはいかなかった。

「巡礼に出られてはいかがでしょうか」
 自分の部屋で頭から毛布を被り、疼きを持て余して座り込んでいたジェラルドに提案してくれたのは執事だった。ジェラルドが父の屋敷を出るときについてきてくれた執事はそろそろ老境で、子供のころからよく知っている男だった。

「聖なる七つの神々の奇蹟におすがりするのです」
「神々は、私を助けてくださるだろうか……」
 潰された喉では満足に声もでない。ほとんど息だけの呟きでも、執事には聞き取れたようだった。

「ジェラルド様のような高潔なお方を、神々がお見捨てになるはずがありません」
 そう励まされ、ジェラルドはたった一人で旅に出た。

 天空神にして全能神ディエーブ、戦神マウォロス、死神ディエス、智神ハイドラ、海神ナパート、愛神クロアキア、豊穣神リーベル。七つの神々を祀る神殿は各地にあるが、それぞれ本殿と呼ばれる大神殿がある。巡礼はその大神殿を巡る旅だ。

 オールボ王国から近いのはハイドラ大神殿だったが、奇蹟を求める巡礼は天空神から順に回らなければならない。途中、馬も含めて乗り物は禁じられ、自分の足だけで踏破せねばならないのだ。食事は日に二度、パンとワインのみ。屋根のあるところで眠ってはならず、身を清めるのは三日に一度で、湯を使ってはならない。さらに自涜も含め、完全な禁欲が求められる。

 過酷な旅であるから、成し遂げた者は聖行者と呼ばれ、尊崇の対象ともなる。

 ジェラルドは頬に刻まれた淫紋を隠すために面覆いを付け、フードを目深におろし、丈夫な革鎧と剣を持って旅に出た。
 奇蹟を求めて祈りを捧げ、神殿に求められた供物を差し出した。

 死神ディエスの大神殿での祈りの後、世界樹の葉を使えば淫紋を消し去ることができるかもしれないと教えて貰った。
 世界樹は西の果ての島、エルフたちの里にあると伝えられている。それを求めて、西へ渡った。巡礼者であるジェラルドは自分の足以外を使うことはできないから、海は泳いで渡るしかなかった。

 エルフたちはジェラルドの境遇を憐れみ、葉を分けてくれた。
 だが、無駄だった。

 傷は癒えたが淫紋は消えず、尻の疼きはそのまま。むしろ、壊れていた男根が息を吹き返した分、物狂おしさは酷くなってしまった。
 それでも、声が戻ったのはありがたいことだった。
 ジェラルドはエルフたちに礼を言い、巡礼の旅を続けた。

 海神ナパートの大神殿では、特別な祈りのためには不死鳥の卵が必要だと言われた。不死鳥は南域にあるカンディディウス火山に棲むらしく、ジェラルドはたった一人で火山に向かった。

 毒の霧と燃える河を越え、険しい岩をよじ登り、巣穴に残されていた卵を見つけた。卵はとても大きく、殻は極彩色の縞模様をしていた。
 話に聞いていたよりも大きな卵を運び出そうと荷造りしていると、不死鳥が帰ってきてしまった。仕方なく、ジェラルドは両腕で卵を抱き抱えて走ることにした。猛烈な勢いで追ってくる不死鳥を躱しながら、卵を運ぶのは途方もなく大変なことだった。
 それでも、ジェラルドは成し遂げた。

 海神ナパートに特別な祈りを捧げたジェラルドは、愛神クロアキアと豊穣神リーベルの大神殿を目指した。ナパート大神殿を中点にして、東西にある二つの大神殿を巡った後、ジェラルドは天空神の大神殿に戻った。

「大義であった」

 大神官から労われ、聖なる巡礼を成し遂げた者として神殿の柱に名前を刻み込まれた。
 聖行者として認められ、聖なる加護を授かったとも言われた。

 しかし淫紋は変わらずジェラルドの体を昂らせて失せず、渦を巻くような淫心が腹の底で煮立つままだったのだ。
 ジェラルドは絶望した。

 渦を巻く淫心を抑えつけているのも限界だったのだ。物狂おしさは苛立ちになり、眠りも遠く、一片の安らぎを味わうこともできない。

 なのに、神々からも見捨てられたのだ。
 もう死ぬ他ないと思ったところで、オールボ王国から勅使がディエーブ大神殿に到着した。

 曰く。

 王国最大の功臣であるシュラン侯爵が苦しい旅を成し遂げて、聖行者に列せられたことはオールボ王国の誇りである。だが、本望が遂げられぬままでいるとも聞いた。国王命令で学者たちを動員し調べさせたところ、北境インガムグラシスに棲むドラゴンを倒せばどんな呪いも消え去ることがわかった。一切の道具を用いず己の体のみでドラゴンを倒し、全身にその血を浴びれば、シュラン侯爵の悲願は叶うだろう、と。

 ジェラルドは勅書を数回読み返した。当然のことだが、何度読んでも文面は変わらない。

 王は鎧どころか剣もなしにドラゴンと戦えという。
 平静なら笑い飛ばしていただろう。できるはずもない。とんでもない話である。神代の英雄譚にも見当たらない。

 しかし。
 ジェラルドは勅使に承諾の返事を持たせて、すぐに北を目指すことにした。

 どうせ死ぬなら戦って死ぬほうがいいと思ったのだ。そうすれば騎士の誓文を破ることなく、マウォロスの戦士として最期を迎えることができるからだ。
 ドラゴン討伐では馬を禁じられなかったので、伝馬を借り繋いで街道を急いだ。



 インガムグラシスのドラゴンは比較的簡単に見つかった。
 雪と氷の季節しかない北境には人間も動物も住めない。氷の眷属と呼ばれる魔物がいくつかいるらしいが、詳しいことを知る者もない。未知の世界だった。

 ジェラルドはひたすら北を目指した。
 水がぬるむ川があれば、凍った方へ。魔物の気配があるなら、魔物たちさえ避ける方へ。より過酷な環境を選んで進んでたどり着いた峡谷がドラゴンの棲家だった。

 黒い鱗を輝かせた巨体は宮殿よりも大きかった。腕も脚も、尾も太く、生え揃った爪のひとつひとつが剛剣のように輝いていた。

 ドラゴンと相対したジェラルドは身につけていたものを全て脱いだ。

 極寒の地で裸になるのはそれだけで自殺行為だ。が、ドラゴンの前で興奮していたのか、あるいは神々の加護の力か、寒さはまったく感じなかった。股間も熱り勃ったままだった。
 ジェラルドは魔導士ではないから魔法は使えない。剣がなければ修めた剣技も使えない。宮殿みたいな巨体を相手に体術が効くはずもない。

 勝機はたったひとつ。

 ちっぽけな人間が刃向かおうとしているのが気に入らないのか、ドラゴンは咆哮とともにブレスを噴き出した。黒焔のようなドラゴンブレスはすべてを焼き尽くす焔だ。掠れば大火傷、即死もあり得る。

 ジェラルドはブレスを躱してドラゴンの動きをひたすら見極めた。
 狙うは一箇所だけ。
 喉の奥だ。
 何度目だったか。ブレスを吐こうとして開けたドラゴンの大口に、ジェラルドは自ら飛び込んだ。

 果たして。

 ジェラルドはドラゴンの内側で存分に暴れて砕いて壊して進み、ついに心臓にたどり着き、殴り破って倒してしまったのだ。
 古の伝説の英雄のように木の葉一枚に邪魔されることもなく、全身余す所なくドラゴンの血を浴びることもできた。

 ジェラルドの体から、すべての発情淫紋が消え失せた。




 オールボ王国に帰ると、父と兄たちが出迎えてくれた。国を出てから四年経っていて、あの老執事は亡くなっていた。
「お前のような息子を持って本当に誇らしい」
 父はそう言ってジェラルドを抱きしめ、兄たちも笑顔で頷いた。
 婚約を解消したあの令嬢から連絡もあった。
 『わたくしは英雄侯爵様を信じておりました』というメッセージカードのついたプレゼントボックスには、金のマント留めが入っていた。

 国王はドラゴンを倒して戻ったジェラルドのために、凱旋の宴を開いてくれた。戦勝祭に出ることができなかったジェラルドを労いたいというジョセフ三世の言葉に涙が溢れた。
 ジェラルドはやっと戻ってくることができたのだ。

 オークに犯された屈辱に耐え、淫紋に苛まれながら聖行者の巡礼を果たし、ドラゴンを倒してようやく元の自分に還れたのだ。

 すぐにでも白狼騎士団に復帰したいと王に申し出た。いつでも、どんな任務でも果たせると進言して、主君を見上げた。

 だが、ジョセフ三世は笑って、首を横に振った。
「長く辛い旅を終えたばかりなのだ。しばらくはゆっくり過ごしなさい」
 王命であるとまで添えられては、騎士には従う他の道はない。ジェラルドは屋敷に戻り、無期限の休暇を過ごすことになった。
 旅の過酷さは己が一番よくわかっている。

 とはいえ、ドラゴンの血の効果は絶大だったのだ。
 淫紋だけでなく古傷もなくなり、疲れも消え去り、活力が漲り溢れてくるようだった。元気なのにやることがないのはひたすら無聊で、ジェラルドは遠乗りに出たり、剣術訓練に励んだりした。

 元婚約者にはマント留めの礼状を送り、食事に誘った。婚約を撤回したのは四年前で、彼女は十五歳だった。もう別の婚約があるかもしれないが、お礼の贈り物をするくらいは許されるだろう。もしも可能なら、再度、婚約の申し込みをしたかった。可憐な貴婦人を守るのは騎士の望みのひとつだ。

 結婚すれば、相手への愛を感じられるようになるのだと亡き母は言っていた。
 返事はなかなか来なかったが、独身の騎士と出かけるには伯爵の許しが必要だから、焦りはなかった。

 夜になると腹の奥が疼く気がした。
 だが、すでに淫紋はない。男根で男の泣きどころを擦り潰されたいはずがないと念じて、自涜でやり過ごした。

 緩やかな毎日に影が差したのは突然だった。

 従僕が毒で死んだのだ。
 ジェラルドが貰い物の酒を下げ渡してやった夜のことだった。毒は酒に入っていた。
 それをきっかけに馬の足が折られたり、屋敷で小火騒ぎが起きたり、事件が続くようになった。

 英雄と呼ばれる男を邪魔にする者もいる。国内貴族か、旧シュラン太公国の残党か。あるいは第三者かもしれない。
 ジェラルドは主君に相談するために登城した。
 休暇中とはいえ白狼騎士団長であり、救国の英雄であるジェラルドは王の執務室を直接尋ねる許可を得ていた。
 なので、この日も迷わず執務室に向かった。 


「結局、アレに毒は効くのか、効かぬのか」
「ドラゴンを素手で倒す化け物が暴れたら、王城もひとたまりもないのだぞ」
「焼鏝を使う呪紋ならどうだ。家畜の淫紋は入ったんだろう?」
「崖崩れは? 生き埋めにすればさすがに死ぬだろう」
「なんでも構いません、できるだけ早く!」


 彼らは、何を、話し合っているのだ?

 ノックしようとして、漏れ聞こえた会話にジェラルドは息を飲んだ。
 王と、父と、兄たちの声を聞き間違えるはずがない。もう一人の声にも覚えがあった。元婚約者の父である伯爵だ。


「アレは婚約解消を恨んでいるのだ」
「見捨てたのは陛下や閣下、兄君方も同罪ではないですか!」
「やはり呪いだ。試してみようではないか」
「呪術師か、魔導士か」
「両方です。早急に用意いたしましょう」


 信じがたいことだった。
 正しく言うなら、信じたくなかった。

 ジェラルドは扉の左右に立ち、警備に立っている騎士を見た。近衛騎士団所属の騎士たちは姿勢を違えずに立っている。

 だが、槍を捧げた手が僅かに震えている。怯えているのだ。
 神々の加護か、ドラゴンの血のせいか。ジェラルドの五感は以前よりずっと高まっていて、扉の向こうの会話がはっきり聞き取れた。騎士の手の震えもよく見えた。

 化け物。
 たしかにそうだ。

 ジェラルドは踵を返して王城を後にして、そのまま出奔した。
 もう二度と、故国には戻らないと誓った。




 南へ向かって半日走った街で、愛馬を手放した。行く宛もない旅路だ。馬に苦労をさせるのは忍びなかった。
 馬を売った金で旅支度を整えて、どんどん南へ歩いていった。

 やがて国境を越え、いくつかの国を通り過ぎた。国を捨てたジェラルドには身分証明書も手形もない。だが、金貨次第で関所はどうとでもなった。

 金を稼ぐのは簡単だ。魔物を討伐できる者はどこへ行っても重宝される。ドラゴンを裸で倒したジェラルドに、恐れる魔物はいない。

 一年、二年。三年が過ぎた。

 旅の空、ジェラルドは湧き上がる性欲を持て余すようになった。腹の奥の疼きが止まらないどころか、日毎夜毎に強くなっていくのだ。発情淫紋は消えたはずだと泣きたくなったが、自涜で誤魔化せなくなって、ついに。

 諦めて男を買った。

 大きな街なら街娼に男もいたが、抱かれる専門の方が多い。男を抱ける娼夫を探すより、宿で相手を探すほうが早かった。金を積めば、ジェラルドを抱いてくれる荒くれ者はそこそこいた。

「お上品な顔してド淫乱じゃねーか、兄さん」
 乱暴に男根を捻じ込まれ、揺さぶられるとほんの少しだけほっとした。

「もっと腰を使えよ。締めろよ、おら!」
 人間の男根はオークのものよりずっと短い。泣きどころには届いても、その奥まではまず無理だ。打たれれば、衝撃が腹の底を慰めてはくれる。

 罵られ、尻を打たれて悦ぶ己の身を呪った。
 呪ったが、男なしでは夜を過ごせなくなっていた。

 最初は一人だけだったのが、一晩のうちに三人、五人と、複数の男に輪姦して貰うようになるまでにそう時間は掛からなかった。あまりの浅ましい身の上に、嘆く涙も失せてしまった。

 ただ、ジェラルドは放つことだけはしなかった。どうしても嫌だったのだ。

 尻を犯され快感に震えながら、男根だけは熱り勃ったままで放っておいた。
 ジェラルドが買った男たちの幾人かは嘲笑い、「イかせてやろう」と捏ねたり擦ったり、舐めてくれた者もいた。

 だが、ジェラルドの男根は精を吐き出さなかった。最初は堪えていただけのことが、いつの間にか出来なくなっていたのだ。  
 やがて、男根は一日中突き勃ったままになった。陰嚢は赤黒く腫れ上がり、穂先からは粘つく体液が漏れっぱなしだ。当て布を使い、男根をコッドピースで押さえこんで過ごすのが再びの日常になった。

 さらに一年が過ぎた頃、ジェラルドは下腹に淫紋を刻ませた。どんな傷もドラゴンの血がすぐに癒してしまうので、強力な術士を探すのに時間がかかった。
 一番初めに発情淫紋を入れられた場所を選んだのはシュラン公国の魔導士で、臍の下が一番効果が高いのだと言っていた。

 娼婦たちが刻む、快感が強く感じられるようになるという淫紋はひらひらとした装飾が多くいかにも淫らで、紋を爪で撫でるだけで尻の穴がざわついた。いい感じだと思った。

 堕ちるところまで堕ちたのだと思った。

「スカした顔して淫紋入りとはおそれいるぜ」
「魔物を倒す騎士サマが男狂いとはたまらねーな!」
 黙々と魔物を倒すジェラルドが、場末の娼婦より求めてくるのが面白いらしく、男たちはジェラルドを言葉と男根でたっぷり嬲ってくれた。腹や尻を殴りつけてくれる者もいた。
 腹の底に辿り着く大きな刺激は快感に変換できるから、ジェラルドには暴力でさえ有り難かった。

 そんな毎日が面倒になったのは、南崖に近い街にたどり着いた頃だった。
 自分の体が年を数えなくなっていることにも気がついた。ドラゴンの血に不老長寿の力があるという伝説を実感したが、報せる相手もいない。

 ジェラルドは小さな屋敷を買い、屈強な男奴隷をたくさん買い集めた。毎日交渉して慰めを得るより、買い取って側におく方が便利だと思ったのだ。
 しかし、思惑はあっさり外れた。

 奴隷たちはあっという間に疲弊して、勃起どころか、立ち上がることもできない者まで出た。
 考えれば、簡単なことだった。

 ドラゴンと裸で渡り合えるジェラルドの体力はとっくの昔に人間離れしていた。ジェラルドが満足できるだけの性交は、常人には毒にしかならない。二晩続けて同じ男たちを買ったことはなかったから気が付かなかったのだ。

「……これでは、まるで私が淫魔のようではないか」

 息も絶え絶えの奴隷たちを眺め、萎えない自身を見、ジェラルドは呟いた。臍の下では淫紋がぼんやりと輝いている。

 淫魔とは人間と交わり、精力を喰らう悪魔のことだ。
 悪魔と魔物の違いをジェラルドは詳しく知らないが、悪魔のほうが力が強いような印象はあった。
 悪魔。
 悪魔だ。

 ふと、巡礼の旅の間に、悪魔を呼び出す術があると聞いたのを思い出した。



 ジェラルドは奴隷と屋敷を処分して、二つの内海に面した城砦都市バンダルを目指すことにしたのだった。



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