赤の王~ 婚約破棄?から始まる花嫁さがし~

朋 美緒(とも みお)

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01:天井

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目を覚ますと見えた光景、それはもう豪華だった。
見渡す限り細やかな金の装飾が施された壁や天井。
再び目を閉じたくなるほど眩しく煌めいている。

「※※※が目を覚ましたぞ、何て可愛いんだ」
「陛下そんなに顔を近づけたら・・・※※※がビックリしますよ」

私を綺麗な顔立ちをした西洋人の男女が覗きこんできた。
男性は金髪で青い瞳、女性は赤髪で金色の瞳をしている。
(誰だろう?此処は何処だろう?身体が思うように動かない、声も「あうあう」としか喋れない)
「石が3つもあるなんてこの子は将来大魔導師になるかもしれませんわね」
「誰かに利用されないように、手の石以外は大人になるまで隠しておこう」
男性がそう言うと彼の手がひかり、温かく感じた。
頭がボーとして眠くなって来た。目の前が暗くなった。

次に凄い音がして目が覚めた。豪華な天井が真っ赤になっていた。
誰か、大きな誰かが居た。何処までも深い青い目。それはあの優しく覗いていた綺麗な瞳とは違う欲望の邪悪な目だった。
「グ・デ・・・爵・何故・・・」
誰かの声がして、また目の前が暗くなった。

次に目が覚めると木の天井だった。
ボロボロで隅には蜘蛛の巣が張っている汚れた天井。
「このガキこの状態で泣きもしない。こちとら助かるけどよ逆に気味悪いぜ・・・。奴隷は5歳になるまで出来無いのは不便だよなぁ。5歳になるまでこの気味の悪いガキと居なきゃいけないのかよ・・・」
(おじさんの声がする、誰だろう?聞いたことのない声だ。奴隷?奴隷なんて何時の時代の話だ?此処は過去なのか?)
「大変だ!冒険者の討伐隊が来た!!」
違うおじさんが部屋に慌ただしく入って来たようだ。
すると同時に、耳をつんざくような喚き声と悲鳴が響いた。

どれくらい経ったのだろうか、周りが静かになり誰かが私を抱き上げた。
「この赤ん坊,良い身なりしてるな…何処からさらって来たんだ?」
武骨な大きな腕、だけど優しそうな男性だ。
そしてまた目の前が暗くなった。

次に目を覚ますと見えるのは空だった。
(どんどん貧相になってとうとう天井無くなったよ)
「リリアナ!大丈夫ですか?痛いところは無いですか?」
教会の中庭に寝転んでいる私に声をかけたのは、トリスタン教のシスターの姿をした16歳くらいの女の子だった。
「大丈夫」
私はそう彼女に言ってゆっくり体を起こした。
木のぼりをしていて落ちた記憶がある。

シスターの顔を見ると首のあたりに緑の石が見える。
この世界の人間には必ず1つはあるのが<魔力石>人は石から魔法を放つのである。
上半身にある人が殆どである。
私の左手の甲にも鮮やかな青い石がある。
割れたりすると魔法が全く使えなくなるらしい。
再生はするが1年~2年はかかる。

ああそうか、私は転生したのか。
ドラゴンが居て、魔法もあるこの世界に。
頭がはっきりと自分が何者で、どういう状況なのか判断する。
前世は日本の大学に通う22歳の女子大生だった。
空手の師範の父を持ち、高校までは空手部に所属。
大学では演劇部に在籍していた。
死因は交通事故だったと思う、信号待ちの列に車が突進して来たのを覚えている。
完全に目覚めた今の私は5歳、身寄りのない孤児として孤児院に引き取られていた。
前世で父に内緒で空手の練習の合間、大学では一人暮らしのため、毎日のように読んでいた異世界転生の世界、そう魔法がある世界!物語上ではなく自らが扱える、夢にまで見た世界に今、私は存在していて、生きているのだ。
その事実が嬉しくてそれから世界を堪能しようと心に決めたのである。



=============

「ミシェル!ミシェル・ブラウニー?」
私をそう呼ぶのはブラウン第2王子。
金髪碧眼の正に王子様って容姿をしている。
身長も高く細身ではあるがちゃんと筋肉もついており、そこらへんの騎士には負けないと言っていた。
自称なので実際はどうなのか知らないけど。

(そうだ。私は今、ミシェル・ブラウニー男爵令嬢、ブラウン第2王子を誑(たら)し込んでいる女狐・・・と言われているんだ。そんなつもりは無かったんだけど、現在何故か王子に傾倒(けいとう)されている)
「大丈夫かい?ボーとして。もうすぐ会場に着くよ」
そう、私たちは王立学校の卒業記念パーティ会場に向かっている途中なのである。
(とうとうこの日まで何とか来れた。さて最後だ気を引き締めよう)
そう思いながら王子の取り巻きの一人、宰相閣下の次男のルードヴッヒと目配せを交わした。


会場に入り校長と生徒会長の話が終わると立食パーティが始まった。
ダンスが始まり、思い思いの相手と最後のダンスを踊る。
卒業したら役職に就く者、家に戻って花嫁修業する者、家督を継ぐ者
いろいろだった。
終盤ダンスを踊る人数も減り、所々で集まって名残を惜しいんでいる集団が見受けられた。
中には泣いている者もいる。

ブラウン第2王子には幼い時から決められた婚約者がいる。
マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢、気品も知識も容姿も申し分のない方だ。
艶やかな黒髪に茶色い目、凛とした姿はこれぞ公爵令嬢と感じる女性だ。
ブラウン第2王子は本来彼女をエスコートすべきなのだが何故か私を伴っている。
マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢の周りには、取り巻き令嬢3人と彼女の従妹のギール・グランデール伯爵令息が共に居た。

ブラウン第2王子は私の腰に手を回し、恋人抱きをし、私も腕をまわして王子にくっついている。
周りには宰相閣下の次男のルードヴッヒを含む他3人の有力貴族令息が囲んでいた。
おもむろにブラウン第2王子はマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢の方に歩いていく。
そして

「マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢、あなたとの婚約を破棄する」

そうマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢に言い放った王子
それまで歓談していた生徒達はシーンと静まり返った。

(は~言っちゃったよ…どうしよう…言うんじゃないかと思ってたけど)

「ブラウン王子何を言い出すのですか!?」

(なに!?殺気!?)

そう叫びながらマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢の取り巻き令嬢の一人が王子に近づいてくる。
彼女の目つきが変わったかと思うと令嬢が何かを振り上げた。

<ガッ>

令嬢の手には短剣が握られていて、それがブラウン王子の目の前に突き立てられた。
それを受けとめたのは、私だ。
瞬時にアイテムボックスから細身の剣を装備、その剣で短剣を受け止めて、短剣を祓うと体を回転させ令嬢の首に剣を突き付け、

「いつもいつも鬱陶しんだよ!ちょろちょろ王子と公爵令嬢を襲ってきやがって!」

そう汚い言葉で叫んだ。

「それはこちらの言うことよ!毒を仕込んでも、死の魔法陣仕込んでもことごとく解除して、なんなのよあなた!」

それには答えず私は細身の剣を振りかざす。その剣を弾いて距離をとった令嬢。
すると天井や側面ドアからゾロゾロと黒ずくめの連中が現れた。

「ルードヴッヒ ! ギール!」
「「了解した!」」
ルードヴッヒは王子を庇うように。
ギールは公爵令嬢を庇うように。
生徒達は見るとそれぞれ護衛らしき者達に庇われていた。
王子は目を見開いて此方(こちら)を見ている。

「何人かは生かしておいてくれ」
そう言ったのはルードヴッヒだ。
「善処する・・・」
そう答えておいた。

「さあぁ・・・始めましょうか暗殺者の皆さん!」

ドレスを魔法で消すと冒険者の皮鎧を着た姿に変わる。細身の両手剣を構えつつ、
桃金髪(ピンクブロンド)のカツラを外ずして、魔法で緑色に変えていた目の色を戻す。
するとショートボブのゆるくウエーブのかかった鮮やかな赤い髪に青と金のオッドアイの瞳が現れた。

「殺っておしまい!皆殺しにしな!」
そう令嬢が命じると、黒装束は一斉に襲ってきた。
私は生徒達を襲ってくる連中を細身剣と氷の矢で、つぎつぎに葬って行く。
護衛たちも応戦している。
血しぶきと生徒たちの悲鳴で会場は阿鼻叫喚だ。
(私に対しての悲鳴だなぁこれは・・・)
床にこと切れた黒装束が、血だまりの中どんどん倒れていく。
キンッキンキンドシュ!バキ!ドス!
30人は居たであろう敵は令嬢と3人の大男のみとなった。
「なっなんて素早さなの・・・あなた、いったい何者?」

ありえないとでも言いたげに問いかけてくる令嬢に殺気を放ち睨みつけながら答える

「2年契約で王子と公爵令嬢の護衛をしていた、ただのAランク冒険者よ」
「Aランク、ですって?・・・その若さで?」
「なかなか尻尾を掴ましてくれなかったのに、
切羽詰まって強硬手段とは・・・浅はかとしか言いようがないわね!」
「くっ・・・やりなさい!」
ぐうの音も出ないのか悔しそうに令嬢は吐き捨て、その言葉で大男達が動き出す。
・・・大男達の目が異常だ

大斧を振り下ろす大男達
咄嗟に横に飛んで回避する。
それと同時に今さっき私が立っていた床が木端微塵に吹き飛ぶ。
「何か薬使ったね・・・ほんと野蛮!」
<凍結!絶対零度>
魔法を唱えると大男の体がみるみるうちに凍って大きな氷の柱になり動かなくなった。
周りに冷気が漂う。
「なっ!?」
「よっと」
武器をアイテムボックスから出し、金属ハンマーに両手剣から変えて、思いっきり大男入りの氷柱を叩き割った。
ドッカーン!
爆発音と共に吹き飛ぶのは床の様に木端微塵になった大男達だったモノ。
そこには氷が融けて何か分からなくなった肉片と血だまりがあるだけだ。

「木端微塵ですって!?なんで?普通の<凍結>魔法じゃないの!?」
ヒステリックに叫びながらガタガタと震えだす令嬢。
寒さからか恐怖からか、はたまたその両方からか。
「喋れればいいから手足、要らないね」
瞬時に令嬢につめよると、今度はハンマーから持ち替えていた両手剣でその手足をドレスごとスパンスパンと切り落とした。
抵抗する間など与えない。
「う・・・・~」
瞬時に切り口を治療したので令嬢本体からの出血はない。
横に転がっている手足からは血がどっと出て血だまりを作り始めている。
令嬢の魔力石は手首にあったのでもう魔法は使えない。

「バンデニル様、あなたが刺客だったなんて・・・」
そう悲しそうに言うマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢。
私は武器をアイテムボックスにしまうと王子と公爵令嬢の方を向いた。

「一人主犯は残しといたわよ」
「・・・ああ、さすがだな。あっと言う間に・・・かなりの手練れだと思うぞ、この連中」
そう言ったのはルードヴッヒだ。
王子はまだ口を開けて呆然としている。
「ごめんねブラウン王子、だましちゃって。でもとても楽しい学園生活だったわ」
なにかとても寂しく感じたが、気のせいということにして気分を変える。
「本当に楽しかったわ、ありがとう。これからは王家御用達の騎士たちに守ってもらってね
マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢とお幸せに」
「ミシェル、いえ、リリアナ、2年間ありがとう」
そう言ってくれたのはマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢だ。
「ルードヴッヒ!報奨金はギルドの口座に入れといてね!じゃ次の仕事があるから」
後ろを向いて両手で手を振りながら、私はその場から移転した。





惨状の中消えた赤髪の冒険者。
遅れて会場にやってきた王国兵士たちと
取り残された面々、ルードヴィッヒ、マリアンヌ、ギールは報告をどうするか話し合っている。
蚊帳(かや)の外の王子と取り巻き令息・令嬢。
皆呆然としたままである。
「ミシェル・ブラウニー・・・
ルードヴッヒ、どういうことだミシェルは何処に居る?」

王子を可哀想な目で見るルードヴッヒ。
「ミシェル・ブラウニー男爵令嬢は存在しない。
彼女は命を狙われている王子を守るため、学園内での護衛に雇われた凄腕の冒険者の仮の姿だ。
<赤の死神>と言えば分るか?」
「<赤の死神>?
4年前テロリスト集団が国境の要塞都市を武装して攻めてきた時に、殆ど一人で1000人近くを葬ったという?」
「同じくらいの年で学園に一緒に居て不自然じゃない凄腕の冒険者は彼女しか居なかったんだ。
ブラウン王子、あなたに黙っていたのは貴方はとても素直な方だ。直ぐに彼女が護衛だとばれる可能性があった。貴方が彼女に傾倒(けいとう)するとは思っていなかったんだ、申し訳ない」

「彼女、本来の名は『リリアナ』
私が階段から落とされそうになったり、教科書に死の魔法陣を仕掛けられてたり、ペンに毒を仕込まれたりしていたのを全て自分の物と交換してくれていたの。
そして私を庇って階段から落ちたり、教科書の魔法陣を解除したりして・・・王子は常に傍にいて護衛されてたけど、私の事もしっかりと守ってくれていたわ。
もし彼女が居なかったらって思うとぞっとするわね」
どこか懐かしそうに、それでいて恐怖を思い出したようにマリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢はしみじみと語る。
「え?・・・マリアンヌがミシェルに嫌がらせしてたんじゃあ・・・」
「・・・端から見るとそう見えたかもしれないわね。・・・そう、貴方も私がそんな陰険な人間だと思ってらしたの・・・」
ピリッと空気が緊張した。

「「「うっ!熱い!」」」

突如感じた熱にブラウン王子、ルードヴッヒ、マリアンヌ、ギールが苦しそうにして自分の<魔力石>を見た。
<魔力石>は必ず露出していないと魔法の威力が下がる。
ブラウン王子は右手の手の甲。
ルードヴッヒは左の二の腕の外側、そこだけ見えるようなデザインの服になっている。
マリアンヌはのど下の中央、手鏡を出して胸元を見る。
ギールは右手首の上。

「「「なにこれ」」」
4人の<魔力石>、普通は石のみポツンとあるはずが
石の周りにタトゥのような植物の模様が白く浮き上がって居た。
イバラに見えるそれは熱を持っていた


「これは・・・『王敬印(おうけいいん)』?」
マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢が呟く。
「王の配偶者に現れるという?」
ギールが聞くとマリアンヌは否定した。
「いえ、最近は王の配偶者にしか現れないことが多いけど、
本来は王の信頼のおける<始祖王>の血筋の人間に男女問わず現れる
王を支える選ばれし者の印と王史に書いてあったわ」
「たしか、王として立つものが18歳になると王には
『王印(おういん)』
王の補佐、配偶者には
『王敬印(おうけいいん)』
が現れるという。
『王敬印(おうけいいん)』は消えたり増えたりしたはずだ。王の信頼の印だから・・・」

ルードヴッヒが王史を思い出しながら言った。

「現王、ジークフリート陛下の信頼を受けたってこと?」
マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢は腑に落ちない顔をしている。
「・・・ここだけの話だが、現王、ジークフリート陛下の<魔力石>の周りの印は、
『王印(おういん)』ではなく『王敬印(おうけいいん)』
陛下の口癖は
<私はあくまで中継ぎの王だ。早く真の王を見つけよ。私に印があるということは王になるべき者は何処かに居るはずだ>」
「『王印(おういん)』はまだ現れていない可能性があると、ジークフリート陛下は仰ってらしたわ。
『王敬印(おうけいいん)』が薄いって」

黙って3人の話を聞いていたブラウン王子が訝しげに口を開く。
「薄くないし、それに皆と色が違うんだけど」
ブラウン王子がおずおずと自分に現れた模様を見せる。
確かに他の三人とは違っていた。
「・・・銀だ・・・」
「銀色ですわね」
「銀色って王史に記述は無かったけど何処かで見たような」
「私も見た気がしますわ・・・あ!肖像画ですわ!先王の王妃様の『王敬印(おうけいいん)』は銀色・・・!」

「ああ!そういえばそうでしたね!そして『王印(おういん)』は金色だと聞いてます・・・あれ?それも何か見た気が・・・!」
「「「<赤の死神>の腕!」」」
「そうですわ、彼女が去り際振った手に金の模様が見えた気がします!」

(銀色の『王敬印(おうけいいん)』が『王配』(王の配偶者)の印だとしたら・・・・・
そういえば先日、王子の事でミシェル・ブラウニー男爵令嬢にお伺いされた気が・・・あれは・・・)
マリアンヌ・サンジェスト公爵令嬢はブラウン王子をそっと見た
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