カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~

后 陸

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水の中のグラジオラス 二の章

偽風道落 肆 その2

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 自分が決めて良いのなら、貴照は会った事も無い、顔も知らないミカドより、お金をくれる檀家を取った。
 だって生活があるから、、、。

 「では、ちょっと連絡入れときましょか」

 中村さんはそう言うと、宗興寺へ連絡を入れていた。
 宗興寺そうこうじ
 上水流の門跡が、で現場に行けない時に、代りの術師を派遣してくれるお寺。
 先祖代々から使っている、術師の下請け。
 手が足りない時に、いつも使う。

 今回は貴照の代りに、和歌山に行ってもらう術師を依頼した。
 連絡を取った中村さんは、やけに驚いて貴照に話してきた。

 「門跡、、、嬉しいニュース、、、かも知れません」
 「何? それはホンマに喜んでんの? それとも困ってんの?」

 中村さんの表情を把握しきれない、貴照だった。

 「今、宗興寺の鉦倫かねつねさんに依頼したら、面白いこと言いはってな、、、」
 「面白いこと?」
 「それがな、今回はミカドの依頼をそちらに任せるから、それ相応の術師を頼んますよってお願いしたら、エラい鼻息が荒いねん、、、」
 「前置き長いな~。相当オモロい話しやねんやろな」

 ちょっと悪戯いたずらっぽく、貴照は中村さんに言い返した。
 中村さんは、コホンと小さく咳払いし、こっからが本題やでと眼を細めた。

 「宗興寺お抱えの術師の中から、『童子』が出たって言いはんねん」
 「?!」

 これには、二ノ宮さんも驚いた顔をした。
 「ホンマにか、、、?」

 驚いて、中村さんに聞き返した。
 「鉦倫さんはそう言うてはるで。しゃあから『御給金はずんで貰わんと』ってはしゃいではったし」

 そこまで言うと、反応をうかがうように貴照の顔を見た。
 「ほんで、、、?」
 言ったのは二ノ宮さん。
 どの童子が出たのかを聞きたくて、催促した。

 「あぁ、出たんはなんでも、“呪包童子”らしいですわ」

 ――呪包童子、、、

 声には出さなかったが、貴照はな術師が出たなと思った。
 まぁ、上水流家の下請けの術師なんで水属性だとは思ったが、まさかのレア。

 各属性の術師は3タイプ。
 基本系、発展系、特殊系の三つに分かれる。
 貴照の水属性で言うと、、、。

 水そのものを使った術式を主に使う『基本』の、呪喜じゅんき童子。
 水性の霧、逃げ水など、視覚的効果の術式を得意とする、呪惑じゅんわく童子。
 そして、物質の三体、固体・液体・気体を使った特殊な結界術を展開する、呪包じゅほう童子。

 げた三つの内、呪包童子が俗に言うレア種。
 滅多に出ない。
 貴照の記憶では、ここ数年の間は空席になっていたと記憶している。

 「エラいのんが出たな。実際どんなもんか、見てみたいな、、、」

 二ノ宮さんのつぶやきに、貴照も激しく同意。
 子供のように頷きまくる。
 それを見た中村さんが、貴照にデカい釘を刺す。

 「断っといて見に行くやなんて、アホな事しなはんなや。門跡は檀家はんの仕事をキッチリして貰いますからね」

 解ってますと言いながら、二ノ宮さんと視線を合わせて『怖いな~』と無言で中村さんの事を揶揄やゆする貴照。
 そう思われてるのを解ってますよと、鼻息を大きく出す中村さん。
 それを見て、また笑う二ノ宮さん。
 三人の関係は、今のところ上手くいっているようだ。

 「にしても、ここんとこ連続で“童子”が出てる気がすんねんけど」
 そう言った貴照に、中村さんもそうやな、と記憶を辿る。

 「去年に門跡が童子を貰いはったやろ。確かその前やったか後やったか、土御門んとこの一人っ子も童子を貰っとったハズやわ」
 二ノ宮さんが、思い出したとばかりに前のめり。

 「せやせや! あののひとり娘が、確か貰っとったわ。門跡の、、、1~2ヵ月前やったかいな」
 「バケモンて、、、」

 えらく興奮した口調で言うほど、貴照の表情かおが覚めていく、、、。

 「門跡は知らんか? 土御門の、最悪の術師を、、、」
 「知らんワケ無いやん」
 「ほんだら解りますやろ。どう見たってアレはバケモンでっせ」

 確かに、、、。
 とも思う。
 実際に逢った事は無いが、耳に聞く話しはどれも同じ“人”とは思えないものばかり。
 所業は人の範囲を軽々と超え、神の域に達してると言って良い。
 大袈裟で無く、、、だ。
 しかもその神は、荒神。武神。破壊神。
 そっち系の神だ。

 「一番最近の話しは知ってはりますか?」
 「どの話し? また何かしよったん?」

 貴照より、二ノ宮さんが聞きたがる。
 それがな、、、と中村さんが前のめりの格好になると、自然と貴照と二ノ宮さんも釣られて前のめり。

 「実はな、御門の所縁ゆかりの者と知り合いがってな、、、四術宗家やのにな!」

 自分でツッコむ中村さんは、レアだ。
 ドヤ顔をしたので、二ノ宮さんがさすがにあきれる。

 「そんなんええねん。話しを聞かせて」
 ノリが悪いなぁとイケスカン顔をしてから、中村さんが話し始めた。

 「昔々に火御門家が、加茂家から経由で“麝煤じゃばいの剣”をいただいたってんは有名な話しやけど、土御門のバケモンが、それがしゅうなったみたいでな、『差し出すか、死ぬか、選べ』って、ついににまで脅しをかけたらしいわ」

 さすがに、二ノ宮さんの眉間みけんしわ

 「滅茶苦茶やな。ウチらで言うたら、『朱宮家の秘宝をくれ』っちゅうてるんとおんなじやもんな。考えられへんわ、、、」

 貴照はその先が早く知りたい。

 「そんで、その、、、どうなったん?」
 かされて、貴照に微笑ほほえみ返しする中村さん。

 「、、、、、、、、、じれったいなぁもぅ!!」
 「門跡がそんなに聞きたがるとは思いませんでしたわ」
 「若造をイジメんといてくださいよ。続き聞かせてください」
 「門跡の身悶える姿、なかなかに見応えありますなぁ」

 調子に乗った中村さんに、二ノ宮さんの冷たいツッコミ。
 「いや、しゃーからそんなんええねんて」

 ハイハイと、中村さんは貴照に向かって続きを話し始めた。
 「何と、、、言葉通り抵抗した火御門の術師を、

 一瞬、耳を疑った。
 次に、貴照と二ノ宮さんが互いの顔を見つめた。
 聞こえた言葉の意味を、確認するように、、、。
 その二人が、再び、中村さんを見た。

 「え?」
 「嘘やろ?!」

 貴照の眼が、鋭くなった。
 言葉にする、『差し出すか、死ぬか、選べ』って、ただの脅し文句だと思っていた。

 「ホンマに、、、殺した、、、?!」
 「そうらしいで」

 そう言うと、中村さんは二人の顔色をうかがった。
 まさか、、、だ。
 まさか本当に、そんな事をする人間が居るのか?
 欲しい物のために、持ち主を殺して手に入れる。
 今の時代に、そんな無法的な事があるのか?

 そうやって手に入れようと考える人間が、現代社会に居るのか?
 理解できない話しに、疑問ばかりが貴照の思考を占める。

 「そんなん、黙ってへんやろ」

 二ノ宮さんが、中村さんを見て言った。
 だが中村さんは、半笑いで答える。

 「黙ってへんも何も、ほぼほぼ主要な術師が殺されてしもて、火御門は壊滅状態らしい。反撃しようにも肝心の術師がりませんがな」

 答えながら、あきれてる。
 それが妙に、話しの内容をリアルに伝えて来た。
 想像すれば、術師集団の家に一人で殴り込みに行って、、同じ派閥である御門家の一派を壊滅させたのだ。

 「ほな、火御門は、、、もう、、、?」

 二ノ宮さんの、もっともな質問だった。
 悲惨なを聞く羽目になると思っていたら、中村さんの人差し指が左右に揺れて、貴照の予想を否定した。

 「ところが、黙ってへんのがってな」
 「誰や?」
 「水御門と、風御門や」
 「、、、そうなるわな」
 「火御門が、生き残った6歳の子を立てて土御門とを起こすなら、水と風の両家が後ろ盾になるっちゅう密約が出来上がったらしいねんけど、、、」

 そこで言葉を切った中村さん。
 まだ何かあるんだなと、解り易く勿体ぶる。

 「、、、らしいねんけど?」

 かす二ノ宮さん。
 聞いてる二人(主に貴照)の表情をみて楽しみたかったのに、二ノ宮さんがあまりにも鋭い眼光を放って来たのでのをヤメた。

 「土御門は、はうちの者では無い。ときましたんや」
 「どう言うことや?」
 「もう十年以上前に縁を切り、それ以来、土御門の敷居はまたがせて無いと言い切ったそうですわ」
 「誰がそんな戯言たわごと言うたんや?」
 「黒門くろもんさんですわ」
 「土御門の、、、黒門か、、、」

 最後のセリフは、貴照の口から出ていた。

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