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水の中のグラジオラス 二の章
偽風道落 肆 その1
しおりを挟む術師をやっていると、遅かれ早かれ四術宗家の名に辿り着く。
水属性の名家、上水流家。
火属性の名家、朱宮家。
風属性の名家、犬犬犬風家。(田田田寺家含)
土属性の名家、北条家。(土生家含)
普段はそれぞれが、得意な分野で独自に動いている。
そのため仕事がかち合う時もあれば、共闘することもある。
どの家も共通の認識となっているのが、“ミカド”の勅命が降りたときは、最優先で事に当たること。
普段はそんなに仲が良いとは言えない四家だが、これだけは守り続けられている。
昔から、、、。
守らなければ、どうなるか?
反逆と捉えられ、残りの三家から狙われる。
最悪、家業没収。
時代が時代なら、御家断絶。
そうなると、与えられていた特権が全て無くなる。
本音を言えば、四家ともが特権なるものを独り占めしたいと目論んでいる。
四家創設者たちの思いは、完全に風化していた。
そのため普段からこの四家は、互いに互いを讃えたり牽制したり、近付いたり離れたり、、、。
ちなみに、、、。
ここに、新参者の御門家は入らない。
ほんの千百年くらい前にポッと出の術師集団ごとき、四術宗家が劣る訳が無い。
その名を手に入れたのは、ゴマすりが得意な晴明が得意の話術で時の帝に取り入り、口八丁で名ばかりの“ミカド”の冠を手に入れたに過ぎない。
四術宗家の皆々さまは、口を揃えて晴明の事をこう言う。
「忌々しいヤツ」
下御門家を筆頭に、四術宗家と対抗するために創られた、四つの御門家。
それも鼻に付く。
鼻に付くが、捨て置けない存在ではある。
下御門家。
帝の勅命を拝聴し、承った要件に応じそれぞれの御門家に振る。
そう、、、四つの御門家を、束ねる存在である。
本来なら、一番親しくなった晴明だけが帝との繋がりを持っていても良かったのだが、敢えてそういう仕組みを提案した。
この、敢えて自分を低い位置に置いたのには訳がある。
先程述べたように、四術宗家に対抗する位置に居るのが、四つの御門家。
つまり、力関係で言うと、四術宗家≒四御門家となる。
帝から見れば、同等の地位。
そしてそれらに、お役目を分配する位置に居るのが、下御門家。
つまり、四御門家よりも上の立場に居る下御門家は、四御門家と同等の四術宗家よりも上の立場という事になる。
現に、下御門家から四術宗家にミカドの言葉が伝えられる事も多々ある。
何気に組んだように見える組織図が、見事に先人である四術宗家を抑えた形になった。
帝も認めた事だ。
利用されたが、正解か、、、。
晴明、やはり天才。
そんな晴明が属する土の御門家は“天才”を産む家系なのか、彼を筆頭に歴代の術師に名手が多く、その力は四術宗家と言えど、、、おっと、これはまた、別のお話し。
ただ実際のところ、今では下御門の役職も在って無きが如し。
そんなのをすっ飛ばし、四術宗家はミカドの勅命を貰っている。
やり方はこうだ。
相談という形でミカドに近付き、困った事例を述べる。
そしてそのまま、『なんなら、私たちがやりましょうか』とミカドを頷かせて勅命を貰う。
もちろん、下御門の居ない場で、、、。
これは大事に発展しそうなモノなのだが、今のところそれは無い。
四術宗家が上手いこと、ギリギリのラインで“一線”を越えないからだ。
それと、最も大きな理由は、もう、晴明が居ないということ。
下御門は、晴明あっての役職。
彼の没後、四術宗家は徐々に、徐々に力を蓄えてミカドに近付いて行く。
そんな状況が、千年前からず~~っとず~~~~っと続いている。
話しを聞いていると、戦争でも起りそうなモノなのだが、起こらないのは想像通り、御門家もまた一枚岩では無い、といったところだ。
で、今回“ミカド”からの勅命で動く羽目になったのは、上水流家。
四国に続き、高野山での術師の失態が、酷くミカドの機嫌を損ねた。
ご指名を受けた、、、というか、『こう言う事がありまして、、、』と相談をしに行った四術宗家の代表が決まり文句の、『なんなら、私たちがやりましょうか』と仕事を取って来たのだ。
断るのが下手なミカド。
言われるまま、勅命を出す。
四術宗家の代表は、上水流家を推薦した。
上水流家と言えば、現在、当主が沖縄に飛んでる。
事実上、一人息子の貴照が仕方なく仕事をこなしてるが、正式には代替わりはしておらず、パリピ親父が勝手に“飛んで”沖縄からラインで宣言したに過ぎない。
門跡は息子に譲るんで、中村さん、二ノ宮さん、よろちくびー!
PS わが生涯に、一片の悔い無し!!!!
こんなラインで、全てを投げ出して、金庫のお金は持ち出して、息子に重荷を背負わせた。
それでもなんやかんやで約一年、上水流貴照はよくやっている。
こんなドタバタでも他の三家から文句が表立って出なかったのは、偏に貴照の人柄と、『童子』の名を戴冠した事に尽きる。
術師で『童子』を名乗れる者は、駆使する術を他の童子に認められた者。
認められるには、他の十二童子の推薦が、九人以上要る。
誤解の無いように補足説明しておくと、十二童子と言ってもキッチリ十二人という訳ではない。
カブってる童子もフツーに居るし、つい最近まで空席だった童子もあったりする。
ここでの『童子』の解釈は、仏教で使うニュアンスに近い。
仏、菩薩、明王などの眷属につける名であるように、属性で区切るなら、例えば、大雑把に『火の眷属』と名乗る者も居れば、もう少し細かくその中の神獣『火蜥蜴の眷属』だと言う者も居る。
そんな輩が、自分が崇める存在に対して、『守護できる力を持った時に与えられる称号』と考えられる。
それで、何でこんな童子がカブるってことが起きるかと言うと、術師協会に所属し、ある程度の実力が認められ、さらに条件を満たせば、『童子』の位を貰える仕組みになっているからだ。
言わずもがな、、、協会にお金が流れる仕組みもキッチリ整っている。
それでもそんな協会に、どうして文句が出ないかと言うと『童子』の位を貰えれば、数ある特権を色々と使える。
これがオイシイ。
なので、『術師を目指すなら童子を目指せ!』と謳う術師協会認定の塾もあれば専門学校もある。
そんな中で、一番カブってるのが呪言童子。
どうしてこの呪言童子が人気なのか?
答えは簡単。
他の童子に比べて、簡単で成りやすいから。
本人は名乗って無いが、その術の特性から催眠術師、手品師、精神科医や何らかのパーソナルトレーナーが呪言童子だったと言うのはよくある。
ちなみに上品な詐欺師も、呪言童子が多いという笑えない話もある。
そんな(どんな?)童子たちの推薦を受け、貴照は見事、童子に成った。
術に関しては、もっと前からパリピ親父を凌ぐ力量を持っていたが、それと実務はまったくの別モノ。
能力が高いのに、『それでもなんやかんやで約一年、やってこれた』と先ほど言ったのは、そういうところの話しだ。
上手くいかないのが人生。
と、ちょっと悟りに近い心境に凹んだ事もしばしば、、、。
とにかく貴照は眼の前の仕事をこなし続け、一年経って、やっと、やっとなんとか形になって来たところだ。
そこへミカドの勅命が届くとは、思ってもいなかった。
貴照は思う。
――あぁ、試されてんやろな、、、
見えない何かに試されているのか、単に上水流家の新しい当主(仮)の実力をミカドが試したがってるのか、、、。
解らないが、貴照の頭の中では天秤が動いた。
――普段からお世話になってる檀家の仕事か、こんな突然来るミカドの勅命か、、、
中村さんと二ノ宮さんに相談すると、なんやかんやと理由を付けて最後にはこう言う。
「門跡が決めた事に、従いますよって」
決めかねてるから聞いてるのに、、、。
責任を取りたくないんだなと、想像は付く。
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