カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~

后 陸

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水の中のグラジオラス 二の章

偽風道落 参 その3

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 聖は、プリントされた文字の一行を凝視する。
 能力の部分、“肉体と精神を分離する”。

 データを見ながら、思い当たる術式を考察。
 真っ先に浮かんだ単純な答えは、、、。

 「強制的に、、、幽体離脱飛ばしをさせるんか、な?」

 ほぼ独り言だったが、鈴木が反応した。

 「無い無い。からの幽体離脱飛ばしって、、、。普通でも幽体離脱飛ばしはめっちゃ準備と時間がるやろ、、、」

 の術師の反応だった。

 基本、幽体離脱は自分が自分にする術式なので、第三者にそれを強制的にさせるなんて相当な高等で有能な才能が無ければ無理。
 ってか、戦闘中と考えれば、事実上無理。

 「そんな神憑かみがかり的な術式を、EG使いに出来るんかっちゅう話しやな」
 ――出た、、、

 鈴木を見る、さげすんだ眼差し。
 「な、なんやねん!」

 あきれる聖。

 古い、教科書通りの術式しか知らない術師は、り方しか知らないし、どこかで自分たちが一番だと思っている。
 今や術師協会の上層部ほぼ全員が、そういう考えだ。
 これは、しき体質だ。

 自分たちが歩んできた道だけが正しくて、だからこそ自分はこの地位に居る。
 、、、と思い込む。
 若い頃は、『そんな古い体質、偉くなったら潰してやる』と息巻いていた者も、いざ自分が出世して協会の上に立場になると、どうしたものか、あの頃自分が憎んでたジジィと同じ思考になっている。

 出世するほど、『俺の言う事を聞いていれば良い』と若い者に言う。
 他人の意見を聞かない、かたくなな意固地ジジィが出来上がる。

 聖が蔑んだ眼で鈴木を見たのは、『オマエもそんなジジィに成んのか?』と言う意味を込めての視線だった。

 「EG使いやからこそ、何をやってくんのか、、、術師あたしらの常識なんか通用せぇへんで」

 聖の実感。
 普段結界の中で暮らしている聖は、当然ながら結界の外に居る術師よりも、EG使いとの接触が多い。
 だから、知っている。

 EG使い彼らの術式の基本は、最もで、最もなモノ。

 願えば、叶う。
 想えば、成る。
 が基本。

 術師にとって、は無い。

 それを経験している聖だからこそ、出た言葉だった。
 この言葉は、鈴木に響いた。
 確実に自分より上の術師、呪包童子が言う言葉だ。
 鈴木は、肩書に弱いのだ、、、。

 「そ、そうなんか?」
 「、、、知らんけど」
 「どっちやねん!」

 鈴木にツッコませたら、聖は残りのA4の用紙を見直した。
 そこには、別のEG使いのデータ。
 しくも、映っているのは波働がデンタイの部屋で広げたのと同じ使い手たち。

 「三人組って言うてたやんな?」
 「そや」
 「ここには、四人載ってるで」

 そう言って、聖は四枚の用紙をキッチリ並べていた。

 「その『くれいじー・モコ』っちゅうEG使いが最近ツルんでるヤツらが、その四人。そん中の二人が、今回の事に絡んでんちゃうかって言う話しや」

 鈴木が言い終わるのとほぼ同時に、聖は一枚の用紙を指ではじいた。
 用紙は半回転し、鈴木の前で見事に止まる。

 「一人は、ソイツやな」

 鈴木は見た。
 用紙に写っていたのは、何とも可憐な美少女。

 「こんな可愛い顔の娘が?」
 「、、、今の時代、外的容姿で優劣付ける発言はセクハラやで」

 鈴木、固まる。

 「え? 今のどこがセクハラなん?」
 「解らんこと自体がキモいねん」
 「え~、、、普通のコト言うただけやのに、、、」

 自覚無し、、、。
 それでも、鈴木の良いところを探すとすれば、そこらへんのオッサンと違って逆ギレせずにちゃ~んと凹んでるってのが解かったので、聖は少なからず眼の前の中年に更生こうせい余地よちを見つけて好感こうかん所期しょきを持てた。

 「四国での殺しと、高野山で手足を凍らされて砕かれたってのを考えると、それが出来る能力はコイツしからんやろ」
 トントン、、、と机を叩いてよく見ろと促す。

   HN=ユキオンナ
   懸賞金=3,821万円
   属性=水
   能力=気温操作
   式=未確認

 鈴木、固まる。
 「偶然、、、やんな?」

 ニヤ付く聖。
 「ソイツも、水属性の使い手やなぁ」

 資料の文字から、目が離せなくなっていた。
 自分が持って来たクセに、ちゃんと見て無かったのがモロバレ。
 でも今はそんな事よりも、自分たちが巻き込まれようとしている現象に驚きまくり。

 「偶然、いや、世の中に偶然は無い。在るのは必然、、、それこそ知らんけどやわ」

 一人ツッコミをしながらも、不思議な感覚が鈴木を包んでいく。
 ――こんな絵に描いたような偶然、、、がるんか?

 そう思った時、能力の文字が目に入った。
 「ん? コイツの能力、気温操作、、、?」

 意味不明だと、鈴木は用紙を見つめたまま独り言のようにつぶやいた。
 それに、聖が応えた。

 「それ多分やけど、そのデータ作ったヤツがだけやと思うねんけど」
 「あぁ、こんな書き方になってんのか」

 ふむふむと納得する鈴木。
 聖は、、、。

 ――これが、俗に言う“神の試練”ってやつなんかな

 頭の中で呟いてみて、自嘲する。
 水属性の家系に生まれた、水属性の術師。

 一度は嫌気がして飛び出したのに、結局きわめた術は水属性。
 自由になるために強くなったハズなのに、反対に不自由な理由で此処ここに居る。
 そして、倒すべき相手は、水属性の使い手。

 「なかなか意地の悪い神さんやな、、、」
 「ん? 何か言うた?」
 「なんも」
 「そうか」

 ペットボトルのお茶を、飲み干す。

 ――神は乗り越えられる試練しか与えない。か、、、。そもそも、何で試練なんか与えんねん。あたしの事は、っといてぇや、、、

 ペキペキと、ペットボトルを握る手に力が入った。
 鉦倫に約束を守らせるために、聖はこれから起こる試練に、ひとり覚悟を決めていた。

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