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水の中のグラジオラス 二の章

偽風道落 参 その2

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 しかし、移動中ほとんど無言だったのに、今になって話しを、、、今回の仕事の内容を聞く気になったようだ。
 ちょっとした嫌味を言ってみたくなった鈴木。

 「急にヤル気になったんか?」
 三十路みそじの、稚拙な攻撃。

 「はぁ? 今、からや」
 「、、、?! 此処を?」
 「当たり前やろ」

 術師同士の会話なので、言葉足らず。
 解説すると、張り終えたというのは防御型の結界のこと。

 言い方と態度で、移動中も警戒して何も話さなかったのだろうと簡単に推測できた。
 術師同士の闘いは高速の思考が求められるので、いくらぼんやりしてそうな鈴木でも聖の言葉からこれくらいは想像出来るし、理解も出来た。

 鈴木がめちゃくちゃ驚いたのは、呪文や動作、いや、仕草も見せずに結界を張り終えていること。
 素直に聖の言う事を信じるなら、鈴木が部屋の探索をしたほんの二分足らずの時間で、結界を張った。

 しかも無詠唱。

 さらにフェイクで、スマホをいじってた。
 鈴木はその眼を、ぐるりと動かす。

 ――和室と、、、デッキか? この広さを? 今?

 聖が和室に入って来たので、結界の範囲はスマホを弄り出したウッドデッキと、今話しをしに来た和室。
 わずかな時間でこの広さを張ったのかと鈴木は想像し、感心した。

 「マジで?」

 と驚いているが、実際に聖が張った結界は、この離れの屋敷
 喋るのが面倒臭そうに、聖は眼の前に居る術師にも解かるように説明した。

 「飛ばしても何の反応も無いし、電波的な反応も無い。つまり、盗撮・盗聴の心配無くなったから聞いてんねん」

 ごもっともな意見だった。
 嫌味を言ったハズが、反対に嫌味られた。
 さすが、童子クラス。
 仕事が早い。

 ――って事は、スマホを弄ってたのはフェイクやうて、EG波の展開? 

 鈴木は、ちょっと感心した。聖が風にスマホをいじいじ弄っていたのは、スマホを起点にしてEG波を流し、反応を見ていた。
 そこから安全と判断したら、どんどん結界を広げていく。
 そう言う事を、さりげなくやっていた。

 「さすが呪包童子さま」
 「嫌味か!」

 ちなみに、、、。
 聖は術師、つまりNG使いでEG波は使わない。
 でも今の会話で『EG波の展開』という言葉が出てきたのは、術師の基本、氣を練って念(想念)に変換して術に転換(または呪に乗せるとも言う)をする時の、転換する前の念をスマホに通す(念を込めた声でスマホのスピーカーを通す、念を込めた視線でスマホのレンズを通すとか方法は色々。要は念を一度電気的エネルギーに触れさす)と、そこから波動が発せられ、コツでEG波に変えられる。

 ちょっとした、と言いながらそこらへんの術師には無理。
 やはり童子レベルの術師のせる技と言える。

 なので鈴木としては嫌味のつもりはないが、『さすが呪包童子さま』と言うセリフが出てしまっていた。

 その鈴木が、ジャケットの内ポケットから封筒を出した。
 中から折られたA4用紙数枚と、同じく複数の写真がテーブルに並べられた。
 ちゃんと聖の方に向けて。

 「身元割れてんのがコイツ。EG使い、くれいじー・モコ」
 モコの写真がしっかりあった。

 「何系?」
 「え~~と~~」
 プリントアウトしたA4用紙を広げる。

 「これ、ポスのデータ」

   HN=くれいじー・モコ
   懸賞金=1,154万円
   属性=水
   能力=肉体と精神を分離する
   式=未確認

 鈴木、意外と出来る男。
 ま、波働ほどではないが、、、。

 「何の因果いんがか、水属性か、、、」

 モコのデータを見て、思わず聖が口に出していた。
 水属性の名家、上水流家からの依頼で動いている自分も、属性は水。
 向かいに座っている鈴木も、水属性の使い手。
 そして今回の相手も、、、水の属性。

 「やりにくいな、、、」

 うんうんと頷く鈴木。
 四つの属性はどれも基本形、変化系、特殊系の三つに分けられる。
 水属性で言うなら、基本は水自体を使った術を多用する。
 、、、が、これが意外と少ない。

 変化系は水の特徴、どんな形にも入るし、液体、固体、気体と自在に変化出来る。
 その変幻自在さから、幻術系の使い手が出やすいし、そしてこれが一番多い。
 余談だが、歌手、俳優、アーティストと呼ばれる人にこの水属性が多い。

 そして特殊系。
 レアと呼んでも差支さしつかえ無い。
 これが聖が得意とする、結界術。

 水属性の結界は、“水で全体を包む”が基本。
 他の属性術師が張る結界とは、ちょっとレベルが違う。
 どう違うか?
 先程言った通り、水と言っても液体とは限らないので、、、。

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