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水の中のグラジオラス 二の章
偽風道落 壱 その2
しおりを挟むサイラーが根城にしている天王寺のマンション。
入ろうとしたら、止められた。
「何で?」
心の声が、そのままモコの喉を通ってた。
モコとサイラーは知り合い。
蛇骨会のメンバーも周知。
しかも今、眼の前に立っている男の顔をモコは知っているし、男、沢部も当然モコの事を知っている。
何度も話しをした事もある。
それにたとえ知り合いで無くとも、“くれいじー・モコ”の名は、結界内で超有名。
ポスにもしっかり載ってるし、出入口を見張る下っ端の沢部が力で止められるはずもない事ぐらい解かる。
解かるが、止める。
何故か、、、?
「モコさん、サイラーさんが、違うんスよ」
「、、、は?」
話す沢部も、どう説明すれば良いのか解らないままモコに話していた。
「サイラーさん、、、何か違うんスよ。こないだ通天閣のモータルフラワーと戦争やったでしょ? それから、やっぱ何か違うんスよ。多分、ヤられたんちゃうかなって思ってます。だって今のサイラーさんって、違うんスよ、、、」
沢部がいったい何を言いたいのかが解らなかったが、モコに何かを伝えようとしてるのその真剣さで伝わって来た。
「多分、今居るのんは、ニセモンです。俺だけやなく、そう思ってるヤツらも少なないし、、、。ホンマもんのサイラーさん、いつの間にか居らんようになって、今居るサイラーさん、何かヤバいんスよ」
沢部は先日、通天閣のモータルフラワーとの戦争の時に現場に居た一人だ。
沢部の記憶では、何故か急に妙にハイになり、とある女を追い掛けまわしてた。
追い掛けまわして気持ち良くなってたら、一瞬眼の前が光って急に意識が飛んだらしい。
その後はもう、何も、憶えていない。
気が付いたら、地面に倒れていた。
朦朧とする意識の中で周りを見ると、他のメンバーも地面に倒れてピクリとも動かなかった。
自分はマシな方なんだと、その時解かった。
その時、まだ頭がクラクラしながらも沢部が見た景色は、サイラーがデンタイのJKに何処かに連れて行かれるところだった。
ただ、見る事しか出来なかった。
その後沢部は他のメンバーたちと、残ったデンタイの二人に促さるまま警察に連行され、顔写真と指紋をバッチリ採られた。
解放されたのは、完全に朝になってからだった。
行くところも無く、沢部を含めメンバーのほぼ全員がマンションに帰る。
帰ると、もうそこにサイラーは居なかった。
居たのは、何かが違うサイラー。
見た目は確かに、サイラーなのだが、どこか違う。
とにかく変なのは、これまで見た事の無い卑屈な笑い方をする。
いつも何かに怒りを撒き散らしていたサイラーじゃない。
不意にヘラヘラと卑屈に笑う。
そんなサイラー、気持ち悪い。
よく見たら、サイラーの近くに居る連中も、時折同じように卑屈に笑う。
見ると、不快になる卑屈な笑い。
それをみんな揃ってしたりするもんだから、もしかしてサイラーと側近たちは、変な宗教に染まったか?
なんて沢部は思ったりもした。
沢部が、これ絶対おかしいな、、、と思ったのは、他のメンバーも沢部と同じような事を感じていたからだ。
自分一人の思い込みでは無く、みんな思ってる事。
その、変な雰囲気が、チーム内にどんどん広がって行ってる。
それは小さな波だが、巨大な力で、いつか自分も呑み込まれるのだろうと確信めいたものが、沢部をビビらせていた。
凶暴なサイラーが消えたので、チームを抜けると言い出した奴もいた。
もちろん黙って、こっそり、、、。
でも次の日、決まって長い棒の上に、裸で逆さ吊りされて死んでいるのを見る。
チームを抜けるのは勿論、チームの輪を乱す言動が見つかると、、、正確にはチクられると、次の日には容赦なく逆さ吊りの刑。
このあたりの団結力は、以前よりも強くなった。
ヘラヘラ卑屈なお笑い集団は、似合わない鉄の掟で繋がっていた。
「もうちょっとしたら、多分俺もヘラヘラし出しますわ。そん時は、モコさん、絶対俺に近づかんとってください。それもう、俺やないっスから、、、」
沢部が笑った。
確かに卑屈な笑いでは無かったが、どこか諦めを含んだ、湿った笑い顔だった。
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