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水の中のグラジオラス 二の章
偽風道落 壱 その1
しおりを挟むJR大阪環状線。
結界から歩いて十数分のところに、ホテルがある。
ホテルビナリオ梅田。
そこのプレミアツインの部屋に、やっと落ち着いて呼吸をしだしたFFがベッドに横たわっていた。
今は、また眠っている。
少しだけ食べ物を口に入れて、ドラッグストアから勝手に持って来た痛み止めを飲んだら落ちるように眠った。
「FF、もう大丈夫やんな?」
ユキオンナが、FFを心配していた。
――ほ~、人間的な感情もちゃんとあんねや
と、モコが少し驚く。
「大丈夫大丈夫。レトルトやけど粥も食べたし、トイレも行ったし、、、誤算やったんは、ドクターかな」
「、、、」
「もう結界内に居らんとは聞いてへんかったわ」
モコの言葉を、背中越しに聞くユキオンナ。
白く細い指は、FFの髪を撫で、そのまま顎のラインに沿って指を動かしていた。
その仕草を見て、モコはまた驚いた。
――なに?! FFのこと、好きなん?
「どこ行きよった、、、探す?」
ドクターの事を言っていた。
「いや、時間掛かる。それやったら、そこら辺の医者拉致る方が早い。FF見てたら、多分そこまで悪いって事は無いやろ」
「ホンマに、、、?」
「しゃあから、多分て、、、」
振り返ったユキオンナは、可憐な表情でモコを見つめて来た。
真っ直ぐに、モコを見る。
あまりにも真っ直ぐ見つめられ、何故か罪悪感に啄まれる。
――?! コレは、“魅惑”、、、!
思わず本心を口から吐き出しそうになったが、堪える。
見えないところで、自分の腿を抓る。
ユキオンナは、無表情で見返して来るモコに飽きたか、またFFの顔を見ながら髪に触れる。
「FF死んだら、みんなで死ぬ?」
言葉に反応し、血の気が引く感覚。
思わず、鳥肌が立った、、、。
この女、、、遣り兼ねない。
モコは、ごくりと唾を呑み込んだ。
次の言葉が、見つからない、、、。
「それか、、、FFの歳の数だけ誰か殺して、一緒に葬ったろか」
――何で? 何のために? 意味解らん
どういう理念で考えると、そういう考えになるのか解らなかった。
そう言うヤツが、一番怖い。
話題を変えたかった。
モコが、必死でネタを探す。
「そ、それより、、、あれ、そうそう、ドクターが居らんようになったんて、サイラーがヤられたから、らしいな」
この話題には、ユキオンナがFFから視線を外して振り返った。
「サイラーが? あの卑怯モンって、逃げるんだけは早なかったっけ?」
弱い者にはひたすら強く、強い者には逃げの一手だったあのサイラーが、ヤられた?
サイラーを知っている者にとっては、なかなかの事件だ。
「最近やたら名前聞く、デンタイってのんにヤられたみたいやな」
「警察の?」
「そう。そのデンタイ。みんなそう言うとったわ」
ここ最近、結界内の事件、主にEG使いが絡む事件には、そのデンタイと呼ばれる特殊なチームが出てくる。
デンタイ。
警察の息のかかった、EG使いで構成されたチーム。
結界内のEG使いたちを、恐れさせているヤツらだ。
その中でも一番やっかいなのが、EGもNGも使うJK。
結界内で彼女を知らない者は居ない。
ボサボサ頭。
年中マスク。
百舌鳥ヶ丘高校の制服。
スカートは踝まであるロング。
裾から見えるジャングルブーツ。
顔は知らないが、その容姿は結界の中で知らない者は居ない。
デンタイのJK、名前は、、、。
なまえ、、、?
ナマエ?
――名前、何やったっけ?
モコに聞こうとして顔を上げたら、そこでハッとなった。
JKよりも気になる顔が頭に浮かんだ。
「今、天王寺ってどうなってんの?」
サイラーがヤられたって事は、天王寺は空席になった?
それとも、もう他のEG使いが憑いた?
誰もが思う疑問だ。
ところがところが、モコの口からはユキオンナの思いもよらぬ答えが出て来た。
「それがな、今もサイラーが仕切ってねんけど、、、」
「え? ヤられたんやろ? サイラー、、、?」
「それがやねん、前とちゃうサイラーが仕切ってんねん」
「前とちゃう、、、?? どういうこと?」
「うちもよう解らんねんけどな、、、」
モコが、ドクターを借りようと天王寺のサイラーの所へ行った話しをした。
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