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水の中のグラジオラス 一の章
憧物欲愛 陸 その3
しおりを挟む混乱だけが狙いの愉快犯。
そういうのが、一番性格が悪そうだ、、、。
「そんなんやったら、めっちゃ最悪やん」
「盗もうとしたヤツらがどんなEG使いだったのか、聞けばいいじゃん」
誰に?
と言おうとして、楓は波働を見た。
ニヤニヤしている。
そんな波働に、ルネが代わりに聞いていた。
「どこの誰かは、解らないの?」
波働はテーブルに広げていた自作の資料を、ペラペラと捲る。
「車の近くで、三人組の一人と思われる者の財布が落ちてましてね、、、あったあったこれこれ」
A4用紙にプリントアウトされた束になった資料。
その中から波働が広げたのは、五枚。
一枚一枚に顔写真付きで、EG使いのプロフィールが載っていた。
「財布の持ち主が、これ、日裏桃子」
そう言って指差した紙には、マジメなマイナンバーカードの写真と、遠目から撮られた眉毛とアイラインがくっきりハッキリの顔が、何枚かクリップで挟まれていた。
親切にも、ポスシステムのデータも印刷されていた。
波働、出来る男。
HN=くれいじー・モコ
懸賞金=1,154万円
属性=水
能力=肉体と精神を分離する
式=未確認
で、残りの四枚は何かと言うと、、、。
「最近、日裏桃子がよくツルんでるという四人なんですけど、、、」
「どないした慶壱っちゃん。歯切れ悪いやおまへんか?」
楓が茶化す。
楓を見て、困ったちゃんの顔をしてみる波働。
これを無意識にやるもんだから、たまに楓がホントに困る。
並べられた四枚の中に、しっかりあのサディストの顔があった。
その用紙を指でトントンと叩きながら、波働がマジメな顔、、、ほとんど変わらないがとにかくマジメな顔で言った。
「この使い手が絡んでると、かなり厄介な事になりそうです」
三人が、テーブルの上の資料をガン見する。
これにはまゆらも参加した。
HN=ユキオンナ
懸賞金=3,821万円
属性=水
能力=気温操作
式=未確認
見た感じ、そうでもなさそうなのだが、波働が言うんだから、相当やっかいなヤツなんだろうとみんな感じた。
「このEG使い、京弁天と闘って逃げ延びた、数少ない使い手の一人です」
これには糸もまゆらも、ものすごく喰いついた。
「ホンマでっか? チンケな名前やのに、ヤリ手でっか?」
「、、、円姉さんが、、、??」
「あのまゆらを誑かすエロ女ね!」
「そんなんちゃうわ!」
「まゆら! あんなエロいだけの女に騙されちゃダメよ!」
「あんたやあるまいし」
「ぅるっさい!」
「かなりの、、、」
「そりゃぁ、気ぃ付けんとアカンわな」
「まゆらに手を出す輩は、わたしが全員撃つ!」
「ほんだら最初に、自分で自分を撃たなアカンな~www」
「なんでやね~ん! ねぇまゆら、発音合ってる? なんでやね~ん!」
「知らんし!」
「何か特殊な能力でも、隠し持ってんのかいな?」
「多分ですが、、、」
「ねぇねぇ! 今の関西人っぽい?」
「ちょちょちょちょ! 波働くんの話しが聞こえなくなる、、、」
「ポスのデータは気温操作とありますが、術式にそんなモノは存在しません」
「せやんねぇ。ほんだら、、、水、、、? あ!」
「気付きました? このEG使い、もしかしたら、、、」
「?!」
「今風に言うと、プロテクションでっか」
「え? 今何て言ったの波働くん」
「二度は言わない主義ですので、後で糸さんに聞いてください」
「、、、」
「あてに聞くと、高こうおまっせ~www」
際限無い意味無いしょーもない喋りが止まらないテーブルで、まゆらの思考は知りたいモードが発動していた。
――アイツと糸の話しを纏めたら、、、
と思考を整理。
京弁天と闘ったEG使いは、水属性。
管理者が、気温操作と思い込む能力。
とくれば、十中八九、雪か氷系の使い手。
――まぁ、HN通りやんな、、、
で、さらに波働は水を“せいせい”と言っていた。
語気を強めたので、“生成”では無く、“精製”だろうと予測。
精製するの意味は、超純水。
不純物の無い、水。
H₂Оのみ。
塵も埃もイオンも無い、純水。
――これを氷にすんねんから、、、
それは、電気を通さない。
超純水で出来た氷は、振動を伝えるモノが無いので、電気的なエネルギーの振動はそこで止まる。
――雷系の、プロテクション
まゆらの推測が当たってるかどうかは、やはり実際にこのEG使い、ユキオンナに会って能力を見てみないと解らない。
術師が元素(この物語の中では分子を構成している原子の名称のことを指す)の生成をするのは朝飯前だが、精製となると話は別になる。
まゆらが推測したのを考えると、やはり出来る確立は純粋な術師であるNG使いより、EG使いの方が可能性が高い。
これは術師の発端がかなりの古代であるために、当て嵌まるのがアリストテレスの四元素説に近いためで、錬金術の思想もここから発展し、加わっている。
それが後、十七世紀頃に起きた科学革命による原子論がそれまでの四元素説を否定したように、術は神の力ではなく、科学的現象だと提唱する術師的無神論者が現れる。
その最たる人物が、後の現代で七つの大罪ソフトを開発し、誰もが術師となれる事を科学的に証明したEG使いの始祖、カマル・ハッサン・スードラだ。
やりかたは非道いが、、、。
彼の出現が、古来の術式と、科学的術式。または、森羅万象の理を学び物質の持つ波動と霊体を感じる純粋な使い手のNG使いと、スマホは作れないが操作する事だけに関してはピカイチ的なEG使い。なんて構図を創ってしまった。
両極のようで、実際やってる事は同じなのだが、、、。
理由は、、、これはまた、別の話し、、、。
なので話しをユキオンナの能力に戻すと、超純水を精製することが出来るという事は、京弁天の主な攻撃手段である雷系の術式を、簡単に防御出来るということ。
同時に、電気的エネルギーを媒体にするEG使い、そのエレクトリック・ゴーストによる攻撃も、このEG使いには効かない可能性が高い。
――あれ? その氷をモノアイがデリートしたら、どうなんねんやろ、、、?
まゆら、ウズウズし出す。
――知りたい!
と思ったら、声が出てた。
「課長!」
「お? は、はい」
デンタイの部屋で、まさか『課長』と役職を呼ばれるとは思ってもみなかった波働は、ちょっとびっくり。
「あぁしらも、和歌山行くねんやんな?」
楓とルネが驚く。
何処にあったのか、まゆらのヤル気スイッチが入ったから。
「もちろん、そのつもりでこの話しをしたんですから」
「どしたまゆら、えらいヤル気やん?」
「単なるヲタの習性むぎゅ!」
左掌を握り、拳を作った。
それがガッツポーズに見えて、大下係長は何とも頼もしいとまゆらをガン見。
まゆら、テレる。
「現地で会うから先に言っときますね」
「何を?」
「今回うちは、助っ人扱いです」
「え~~~~~」
あからさまに不満顔のルネ。
「バース的な話しでっか? むぎゅ!」
お喋りな糸は、連続でお仕置きを喰らった。
「殺された二人のチーム、フォーマンセルだったので生き残り二人と、高野山の術師、俗に言う唱僧、これがメインとなります」
「ほほ~~っ!」
喜んだのは糸。
唱僧と言えば伝統的術師軍団だが、糸から見れば術を覚えたてのひよっこ集団。
呪術の呪詛が確立されて、誰にでも使える(これは糸の個人的見解)ようになってから出来た集団というイメージだ。
誰か知ってるお方は居らんかな~。なんて思ったりするが、居る訳が無い。
「そこにミカドの依頼で、四術宗家から上水流家縁の者が二人来ます」
「んじゃそりゃ」
楓の文句には反応しない波働。
「それとは別に、“上”からの指令で“波付”の実動員も来ます。これは当日私が連れて行く段取りです」
ルネが、人差し指を口元に持って行く。
「わたしたち、要る?」
波働がにっこり笑い返す。
「デンタイのみなさんも、『是非に』と“ミカド”からお言葉を頂きましたので、、、」
コレ絶対断れないヤツだと、大下係長、、、納得。
「出発は? いつ?」
係長の言葉に、波働はテキパキと答える。
「現地集合で、当日でも前ノリでもお好きに、、、。日時は後で端末にしておきます」
言いながら広げていた資料を纏めて鞄に突っ込むと、波働は立ち上がってドアへ。
「当日、遅れないでくださいね」
と、楓にウィンクした。
「何でウチに言うたん?」
波働が出て行った部屋に、残った三人娘が顔を見合わせた。
これは完全に、胡散臭くてヤバい仕事だな。
と目配せするなか、まゆらだけはユキオンナと言うEG使いの能力に、興味津々になっていた。
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